最悪で16回の受け入れ照会:かかりつけ医の必要性が明確に
 奈良県で救急搬送された妊婦が、複数の病院で受け入れを拒否され死産した問題を受けて、茨城県消防防災課は県内26の消防本部を対象に「妊婦の救急搬送実態調査」を実施した結果を10月19日に公表しました。
 これによると、最多で16カ所の病院に救急隊員が受け入れ照会を行ったが、いずれも手術中や専門外などの理由で受け入れてもらえなかった事例があることが分かりました。この患者は、かかりつけの産婦人科医師がおらず、最終的に地域の周産期母子医療センターに搬送されました。
 今回の調査は、今年1月から8月までに行われた妊婦の救急搬送651件を調べました。
全体
「1回」の照会で受け入れが決定554件85%
「2〜5回」の照会で受け入れが決定81件12.4%
「6回以上」の照会で受け入れが決定16件2.4%

かかりつけ医がいる場合
「1回」の照会で受け入れが決定409件88.1%
「2〜5回」の照会で受け入れが決定45件9.7%
「6回以上」の照会で受け入れが決定10件2.2%

かかりつけ医がいない場合
「1回」の照会で受け入れが決定86件72.9%
「2〜5回」の照会で受け入れが決定28件23.7%
「6回以上」の照会で受け入れが決定4件3.4%

 かかりつけ医師の有無によって、受け入れに対する差が出る傾向が明らかになりました。
 消防隊員から寄せられて意見としては、周産期母子医療センターなどの受け入れ体制の充実、輪番制や当番制の確立、医療機関と消防との連携強化、産婦人科医の確保、妊婦にかかりつけ医を持たせるための啓発活動などを求める意見が出されています。

かかりつけ有無で違い・妊婦の救急搬送
朝日新聞(2007/10/24付け)
 奈良県で8月、救急搬送された妊婦が医療機関に相次いで受け入れを拒否され死産した事件を受け、県が行った実態調査で、救急隊が16回も医療機関に問い合わせ、ようやく妊婦の収容先が見つかったケースがあった。かかりつけの医療機関がない場合では、受け入れ先がすんなりと決まらない実態が浮き彫りになった。
 調査は県消防防災課が県内の26消防本部に対し実施。昨年1月〜今年8月に計651件あった妊婦の救急搬送について、救急隊が病院に問い合わせた回数や収容までの時間を調べた。死亡や死産の報告はなかった。
 問い合わせに16回を要した最多のケースでは、女性にはかかりつけ医がなく、13の医療機関から「手術中」や「専門外」を理由に15回受け入れを断られ、1時間20分後にようやく搬送された。
 この女性も含め、6回以上問い合わせた事例は、かかりつけ医の有無にかかわらず16件と、全体の2・4%だった。
 かかりつけ医の有無で明確な違いが出たのは、1回の照会で搬送先が決まったかどうかだ。かかりつけ医がいた464件では、1回の照会で88%(409件)が搬送先を見つけたのに対し、いなかった118件では、73%(86件)に低下した。
 県医療対策課によると、母体搬送は現在、かかりつけ医のいる産科医療機関から総合周産期母子医療センターなどに連絡が行き、センターが患者の搬送先を紹介する仕組みになっている。
 しかし、妊婦にかかりつけ医がいないと、救急隊が受け入れ可能病院を照会するが、代表電話から看護師、医師へと1回の問い合わせで5分以上かかることもあるという。「母体搬送の仕組みから漏れている妊婦については、奈良のようなことが起こらないと言い切る自信はない」と話す関係者もいる。
 消防防災課は「妊婦の場合は既往症や初産なのかによっても対応が変わるため、受け入れ側の病院も不安なのだろう。産科医不足の影響もある」とみている。
 救急隊員の間からは受け入れ態勢の充実や、医療機関と消防との連携強化などの要望が寄せられているという。県は市町村や医療、消防関係者らによる救急医療対策検討会議の初会合を22日に開催。現状や課題の把握と解決策を探っていく。