10月17日、「新テロ対策特別措置法案」が国会に提出され、週明けから与野党の本格的攻防がスタートします。
 国際テロは国際犯罪であるばかりでなく、2001年9月11日に起きた米国同時多発テロ以降は安全保障上の脅威ともなっています。その攻撃を阻止するためには各国の捜査当局の連携のほか、テロの温床をなくすため、破たん国家の復興と民主化への支援も欠かせません。テロとの戦いはもはや一国で対処できる課題ではなく、国連を中心にした包括的な取り組みを進める以外に打つ手はありません。
2006防衛白書より 海上自衛隊がインド洋で行っている、米英軍主導の「不朽の自由作戦―海上阻止活動」(OEF―MIO)参加艦艇に対する洋上給油は、まさに国連の枠内で進められている対テロ国際協力の一環であり、憲法第9条の枠内で実施できる貴重な国際貢献です。この継続は日本の国際的な責務と言えます。
 アフガニスタンの政治・民生支援の分野では、ドイツが政治プロセスでリーダーシップを発揮し、日本は復興支援でリーダーシップをとっています。ただ、民間主導の本格的な国家再建段階に入るには現地の治安がまだまだ不安定な状況にあります。どうしても米英軍主導のテロ掃討作戦であるOEFと、インド洋でテロリストや武器・弾薬、麻薬の流出入を防ぐ海上阻止活動(OEF―MIO)、さらに北大西洋条約機構(NATO)が指揮権をもって進める治安維持活動である国際治安支援部隊(ISAF)の活動が欠かせません。
 そのためドイツは対テロ特殊部隊も派遣してきたし、現在もISAFへ約3100人の兵士を派遣しています。日本の洋上給油活動も参加国から感謝されているばかりか、先月19日に採択されたISAF継続のための国連安全保障理事会(安保理)決議1776の中にも、インド洋上の海上阻止活動の必要性を適正に評価し参加国への謝意を示す言葉が盛り込まれました。
 海上自衛隊の洋上給油活動はテロ対策特措法に基づいて行われています。しかし、それは来月1日に期限切れとなります。参院で与野党の議席数が逆転している状況下、民主党など野党の継続賛成を期限内に得ることが難しいとして、政府は17日、新たに「テロ対策海上阻止活動に対する補給支援活動特別措置法案」(補給支援特措法案)を閣議決定しました。国連の枠内の国際協調を継続するため、早期の法案の成立を期待します。
インド洋上での給油活動は国連が認めた対テロ活動
 9・11同時多発テロの翌日、国連安保理は決議1368を全会一致で採択し、加盟国にテロ防止と抑止のための一層の努力を要請しました。さらに、同決議は、国連憲章第51条の自衛権規定に言及しているため、同時多発テロに対応して米国などが個別的、集団的自衛権を行使できることを確認した決議とも見られています。事実、米国のアフガニスタンでの個別的自衛権行使に基づく武力行使に対し、「決議1368とは別の決議が必要か」との質問に対し、当時のアナン国連事務総長は、新決議は不要との見解を示し、安保理常任理事国もその見解に異議を唱えませんでした。
 小沢一郎民主党代表は「アフガニスタン戦争は、米国が国際社会のコンセンサスを待たずに独自に始めた」と8月8日のシーファー駐日米大使との会談で述べていますが、9・11後の国連を舞台にした国際社会の一連の動きを見ない一方的な見解と言わざるを得ません。与野党が国会でテロとの戦いについて向き合うことが必要です。
民主党は具体的対案を示せ
 また、参議院第一党の民主党は、「日本の国際貢献はこうあるべきだ」という具体的な形を、国民に向かって提案する責任があります。18日付のマスコミ各紙も、「民主党も対テロ法案示し合意を探れ」(日経「社説」)などと民主党の対案提出を求める論調が目立っています。読売新聞は「社説」で「民主党は、新法案への対案として具体的な法案の形で提出すべきだ」と主張。民主党がアフガニスタンに展開する国際治安支援部隊(ISAF)への民生支援などを検討していることに関し、産経新聞は「主張」で「活動内容は何か、自衛隊部隊を派遣するのかどうかなど、具体的に決まっているものはない」「あまりにも無責任ではないか」と民主党のあいまいな姿勢を批判しています。

給油新法案 離脱はできない「テロとの戦い」
読売新聞社説(2007/10/18)
 国際社会の「テロとの戦い」から、日本が離脱することはできない。政府・与党が新テロ法案の早期成立に最大限努めるのは当然として、民主党の対応も厳しく問われる。
 政府は、インド洋での海上自衛隊の給油活動を継続するための新テロ対策特別措置法案を国会に提出した。
 新法案は、自衛隊の支援活動を海自の給油・給水活動に限定する。給油先も、テロリストの移動や武器、麻薬などの輸送を監視・摘発する海上阻止活動にかかわる他国軍艦船に限定した。
 海上阻止活動には、米英独など7か国15隻が参加し、国際法に基づき乗船検査などを行っている。武力攻撃をするわけではなく、海上警察行動に近い。給油先を絞ることは、対イラク作戦などに対する燃料の転用防止の徹底にもつながる。
 新法案は、従来にも増して、国民の理解を得られる内容となっている。
 政府は当初、期限を2年としていたが、「1年の方が文民統制(シビリアンコントロール)が強くなる」との公明党の主張に配慮し、1年に短縮した。
 本来、長く困難な「テロとの戦い」に日本が腰を据えて取り組むには、根拠法の期限は長い方が望ましい。新法案の成立後は、自衛隊の海外派遣全般に関する恒久法制定も課題となる。
 現行法の期限は11月1日に切れる。海自艦船の一時撤収は避けられない。早期に活動を再開するためには、臨時国会中に新法案を成立させねばならないが、見通しは極めて不透明だ。
 民主党が新法案への反対を貫いた場合、政府・与党は、11月10日までの会期を大幅に延長したうえ、参院で否決された後、衆院で3分の2以上の多数で再可決するという“非常手段”も考慮せざるを得なくなるだろう。
 民主党は、新法案への対案として具体的な法案の形で提出すべきだ。
 アフガニスタンに展開する国際治安支援部隊(ISAF)に関連する民生支援や地方復興などが柱というが、現行法の期限切れが目前に迫っている以上、対案は具体的で、すぐに実行可能なものでなければならない。抽象的な内容では、対案の名に値しない。
 海自の給油活動に「憲法違反」として反対していることについても、説明責任がある。民主党は2001年11月、テロ特措法に基づく海自派遣の国会承認の際に衆参両院で賛成している。特措法制定や延長に反対した際も、憲法違反を理由にしたことは一度もない。
 なぜ給油活動が憲法違反との立場に変わったのか。明快な説明が聞きたい。