11月8日の参議院本会議では、民主党提出の「農業者戸別所得補償法案」について採決が行われ、民主、共産の賛成多数で同法案は可決した。衆議院では可決される見込みはなく、臨時国会の閉会時には廃案となる見込みです。
 民主党が参議院に提出した「農業者戸別所得補償法案」は、その第4条で「国は、毎年度、予算の範囲内において、生産数量の目標に従って主要農産物を生産する販売農業者に対し、その所得を補償するための交付金を交付するものとする」としています。これは明らかに、参院選のマニフェストに掲げた「全ての販売農家に所得補償し国産農産物を確保」との項目と齟齬をきたしています。
 参院選挙で民主党が掲げたマニフェストや政策ビラで全販売農家を所得補償の対象とするなどと説明していたにもかかわらず、法案ではそうなっていないことは、有権者に誤解を生じさせるとともに、重大な公約違反です。さらに、この法案に基づく制度の予算の算出根拠や財源が明確でないことも大きな問題です。
 民主党が主張するように、すべての販売農業者に生産費用を上回る所得補償をすることはひとつの考え方です。しかし、この法案では所得補償の大枠しか分からず、現状のような歯止めのない米価の下落への対応や担い手の育成・確保といった水田営農の課題を解決できるか、その回答は全く示されていません。
 例えば、一番の関心は、支給する交付金の水準です。法案では、標準的な販売価格と生産費の差額を基本に面積当たりで設定するとしています。この考え方は、品目横断対策のゲタ補償と同じです。しかし、民主党は、生産を増やしたい品目の単価は上げて、減らしたい品目の単価は抑制するとの考えを示しています。この舵取りは誰がどのような形でするのか、そんな基本的なことへの回答もありません。
 さらに、交付金の単価は毎年同一なのか、変えるのかも法案では分かりません。販売価格の下落が止まらない場合、補償の総額が膨らんでいくことになります。法案の第4条にもある「国は、毎年度、予算の範囲内において」との条文は、このような状態の中では、この制度が機能しないことを示しています。(予算額以上に販売価格が下落した場合、補償が受けられなくなります)
 民主党案では、中山間地域などへの直接支払いも含めて約1兆円の予算を見込んでいます。現在の予算より約6500億円の追加財源が必要と民主党は計算しています。予算の無駄を省くことで確保できるとしているが、その具体的姿は最後まで明確になりませんでした。
 この「農業者戸別所得補償法案」は、民主党の公約違反と政策立案能力の貧しさを結果的に示したものとなってしまいました。
全ての販売農家に所得補償し国産農産物を確保
(民主党の参院選マニフェスト「重点政策50」より転記しました)
農産物の国内生産の維持・拡大と、世界貿易機関(WTO)における貿易自由化協議及び各国との自由貿易協定(FTA)締結の促進を両立させます。そのために、国民に必要な食料を生産し、農村環境を維持できる農業経営が成り立つように「戸別所得補償制度」を創設します。
政府が行おうとしている直接支払制度は一部の大規模農家などに限定した政策であり、食料の安定供給、自給率向上もおぼつかなくなります。民主党はこれを抜本的に転換し、農業・農村を活性化するため、農政の柱として、原則として全ての販売農家に戸別所得補償制度を実施します。この総額は1兆円程度とし、米・麦・大豆・雑穀・菜種・飼料作物などの重点品目を対象に行います。その際、農地を集約する者への規模加算、捨てづくりにならないよう品質加算、棚田の維持、有機農業の実践など環境保全への取組に応じた加算を行います。
これにより、現在の農地約467万haの維持、食料の完全自給への取組、食の安全・安心の確保、農業の持つ多面的機能の維持、国土の均衡ある発展を図るための地方経済の活性化、農家が農業を持続できるような条件の整備等を可能とします。