「店長は非管理職」マクドナルドに残業代支払い命令、東京地裁
日本経済新聞(2008/1/29)
 日本マクドナルドが店長を管理職として扱い、残業代を支払わないのは違法だとして、埼玉県内の店長、高野広志さん(46)が未払い残業代など計約1350万円の支払いを求めた訴訟の判決で、東京地裁(斎藤巌裁判官)は1月28日、「店長の職務内容から管理職とはいえない」と述べ、同社に約755万円の支払いを命じた。労働時間や残業代などの規制適用外となる労働基準法の管理監督者の認定を厳格にとらえた。
 マクドナルドには約1680人の店長がいるほか、他の外食チェーン店でも店長を管理職としている企業は多い。店長を非管理職として扱うよう見直す企業もあり、判決は各社の対応に影響を与えそうだ。
 訴訟では、店長の高野さんが管理職として経営者と一体的な立場にあり、出退勤の自由や賃金などで一般労働者に比べて優遇されているか否かが争点になった。

参考写真 マクドナルドの店長が、管理職扱いのために時間外手当を支払われなかったのは違法として訴えた裁判で、会社側に未払い残業代など計約755万円の支払いを命じた判決が出ました。判決を出した裁判官は、「職務の権限や待遇から見て、店長は管理監督者に当たらない」と述べています。
 労働基準法では時間外勤務に対しては割り増し賃金を支払わなければならないとしていますが、管理監督者についてはこの基準は適用されません。つまり管理監督者にしてしまえば時間外手当は払わなくていいのです。管理監督者の定義としては、「経営者と一体的な立場にあり」「労働時間は管理されず」「その地位にふさわしい待遇が与えられている」ということが一般にはいわれています。今回の裁判でもハンバーガー店の店長が管理監督者に当るかどうかが焦点だったのですが、判決では店長は「店舗責任者としてアルバイトの採用や会社のマニュアルに基づく運営など店舗内の権限を持つが、経営者と一体的立場とは言えない」と認定しました。さらに、「調理や接客なども行うため、労働時間の自由裁量性は認められず、部下の年収を下回るケースもあるなど待遇が十分とは言い難い」と指摘しました。
 このような問題は、このハンバーガーチェーンだけではなく、他のファーストフード店やコンビニ、ファミリーレストラン、紳士服販売店など、さまざまなところで起きています。
 いったん管理職にしてしまえば、企業は残業代などを支払わなくていいという考え方が広まっていて、残業手当や労働時間の規制を受けない管理職に昇進させることで、人件費の削減を図る「名ばかり管理職」が増えているのです。
管理職の範囲を見直すよう指導される企業も
 権限も無く、部下もいない、しかし名目上は管理職にされて過重な労働を強いられている20代、30代の若い管理職が増えています。
 紳士服のコナカの場合は社員の40%(400人)が管理職とされていましたが、これを見直すように指導されました。この会社では実際の店長の仕事は権限が限られており、店舗のレイアウトを独自に改善することも認められず、出勤退勤の時間も決められているなど、自由な裁量権はありませんでした。その上、一日の営業目標が達成できないと営業時間の延長が求められるなどで、残業が月100時間を超えることもありましたが、管理職だということで残業代の支払いはなかったといいます。労働基準監督署の指導により、この会社は店長を管理職からはずし手当を支払うように改善されました。
 また、あるコンビニチェーンの店長の場合、入社してから9カ月後に4日間の研修を受けて店長になり、店を任されました。正社員は店長1人だけで、あとはすべてアルバイトという状態で、ひどいときは24時間勤務して1時間半仮眠し、その後24時間勤務するなど過酷な勤務が続き、ひと月の残業時間が160時間以上になりました。それにも関わらず店長になったということで残業代がなくなり、給与は以前より下がってしまったといいます。
名ばかり管理職の過重な労働を防ぐために
 名ばかり管理職に頼らない経営を目指して、業務を徹底的に効率化した企業もあります。全国に約800店舗を持つあるファミリーレストランチェーン・サイゼリアでは、長時間労働に耐えかねた店長の退職が相次いだため、店長を管理職からはずしました。その上で調理作業を効率化するために、ほとんどの部分をセントラルキッチン化しました。これにより、以前は店長のスキルが必要だった調理作業が誰でもできるようになりました。また、食材の発注もコンピュータによる予測システムを採用して、パートでも発注できるようになり、店長は客が多い時間帯でも店をパートに任せて帰れるようになったそうです。
 厚生労働省は平成17年に全国の企業の管理職約1400人にアンケートを実施し、法律が定めた管理職の基準を満たしているか質問をしました。その結果、アンケート対象の管理職の57%が法律でいう管理職には当らないという結果が出ました。名実共に管理監督者として働き、労働時間についても自由な裁量権を持ち、その地位にふさわしい報酬を得ている人は別ですが、名ばかりの管理職にさせられて、過重な労働を強いられている人については見直しと改善を図っていかなければなりません。
 今回のマクドナルドに対する判決は、会社側が控訴すると述べており、まだ結論は出せませんが、コンビニやファーストフード店などさまざまな業界の人事政策に大きな影響を与えそうです。
「店長は管理職」認識変えず 日本マクドナルド社長
朝日新聞(2008/2/5)
 日本マクドナルドの原田泳幸会長兼社長は5日、朝日新聞の取材に応じ、店長を管理職とみなし、残業代を支払わなかったのは違法との東京地裁判決について「時間と無関係に結果を出すのが店長の仕事」などと述べ、全面的に反論した。
 1月28日の判決は、原告の店長について肩書に見合った待遇を受けていない「名ばかりの管理職」との認識を示したが、同社は控訴した。
 原田社長は「会社の構造的な問題とは考えていないし、無報酬の労働を強いてはいない。店長は今でも管理職で、自身の判断で残業時間を管理できるから『みなし労働』にはあたらない」として、残業代を支払う考えはないとしている。
 労働基準法では、1日8時間、週40時間の法定労働時間を超える労働には、残業代の支払いを義務づけているが、管理職には適用されない。外食やコンビニエンスストアなどでは、店長を管理職扱いにするか、残業代を支払うかの対応が分かれており、大手チェーンをめぐる判決が注目されていた。