「ポピュリズム(大衆迎合)の危険なにおいがする」――。75歳以上の高齢者のための長寿医療制度(後期高齢者医療制度)を「うば捨て山よりひどい」などとヒステリックに批判する民主党など野党に対し、北國新聞は4月16日付の社説で、こう指摘し、高齢者の不安をあおるだけの無責任な姿勢を厳しく非難しました。
 長寿医療制度は、高齢社会の進展に伴って、将来にわたって持続可能な医療制度を構築するために創設されたものです。「高齢世代内でも所得の多い人には応分に負担してもらおうという仕組みが盛り込まれ」「全体として、所得の低い高齢者の保険料はこれまでより下がる」(4月16日付 読売新聞)。しかも治療や窓口負担も原則として、今までと全く変わりません。
 また、患者が希望すれば、かかりつけ医(担当医)を持つことも可能になり、医療サービスの向上も期待できます。市町村単位の制度から都道府県単位にしたことにより、財政基盤も安定しました。
 新制度を正確に理解すれば、「うば捨て山」などという野党の批判は全くの的外れで、単なる言いがかりにすぎないことは明らかです。
 「保険証が届かない」など「混乱の原因は“お役所仕事”」(4月16日付 読売新聞)にあり、引き続き高齢者に丁寧な説明を繰り返し、新制度の理解を深めていく努力は、きちんとしなければならないが、混乱に乗じて制度そのものを廃止せよと主張するのは、長寿医療制度を政局に利用しようとする意図が見え見えです。
 いま一番大事なことは、長寿医療制度について冷静に制度を理解しようと国民に呼び掛けることであり、高齢者の不安につけ込んで政権を批判するだけでは、政党・政治家の責任を果たしているとは言えません。
〔野党の医療制度批判〕大衆迎合の危険なにおい
北國新聞(2008/4/16)
 「保険証が届かない」「年金から天引きされるなんて知らなかった」などの不満が石川県や富山県内の自治体窓口に相次ぐなか、後期高齢者医療制度の保険料の天引きがスタートした。二年も前に法律ができていたにもかかわらず、大混乱を招いた責任は、厚生労働省の怠慢にあると言わざるを得ない。
 ただ、「うば捨て山よりひどい」といった野党の批判には、ポピュリズム(大衆迎合)の危険なにおいがする。天引きは支払いの手間を省き、納付漏れを減らして徴収コストを下げるメリットがあり、天引きをやめれば、高齢者が自分で支払いをしなければならず、徴収率も下がる。保険証が届かないなどのトラブルはいずれ解消されるものであり、混乱に乗じて制度そのものを廃止せよと主張するのは、いかがなものか。
 約三十兆円の国民医療費のなかで、老人医療費(七十歳以上)は約十兆円に上る。毎年一兆円前後増える医療費のうち、最も伸び率の高い老人医療費を減らす工夫は必要だ。高齢者の負担は、できるだけ少ない方が良いに決まっているが、負担を減らそうとすれば、そのシワ寄せは現役世代にいくのである。
 民意を敏感に政治に反映させていくのは当然としても、それはあくまで「大衆本位」の政治を実現するためであって、「大衆迎合」とは違う。ポピュリズムを全否定はしないが、ポピュリズムに振り回されてしまっては、政治の方向を誤るだろう。私たち国民は、政府・与党および野党の主張に耳を傾け、どちらが民意を正しく反映しているのか、冷静に見極めていかねばならない。
 今回、混乱が拡大したのは、福田政権が新たな軽減策を講じた結果、保険料算定基準の自治体への通知が遅れたからである。それが保険証をめぐるトラブルを招き、周知の遅れにもつながった。制度の複雑さ、年金からの天引きという徴収方法も不安を増幅させた要因だろう。だが、そうした不安につけ込んで「高齢者を早く死なせようとしている」などと批判するのは、やり過ぎではないか。

高齢者医療制度 混乱の原因は“お役所仕事”だ
読売新聞(2008/4/14)
 今月から始まった「後期高齢者医療制度」が混乱している。
 75歳以上の1300万人が対象となる大きな制度変更なのに、国も自治体も、十分な準備や説明を怠っていたことは明らかだ。
 全国の約80自治体で保険料の徴収ミスがあった。新しい保険証がいまだに届かない、という人が4万5000人もいる。
 年金からの保険料天引きについても、これまでの保険料に加えてさらに徴収される、と誤解している人が少なくない。
 介護保険料はすでに年金から天引きされている。同様に、保険料を窓口で払う必要がなくなったということなのに、基本的な点さえ十分に周知されていない。
 昨年夏の参院選後に政府・与党が急遽(きゅうきょ)、保険料の減免策を打ち出したことも、複雑な制度をさらに複雑なものにした。
 にもかかわらず、理解を求める姿勢を欠いたため、「後期高齢者という呼称からして不愉快だ」との感情論につながった。
 厚生労働省はあわてて「通称・長寿医療制度」などと言い換えたが、呼称が悪かったことが問題の本質ではない。
 混乱の原因は厚労省や自治体の“お役所仕事”にある。高齢者が憤るのは当然だ。
 だが、新制度の是非は区別して考える必要があろう。
 今後、高齢化の進行によって、医療費は大きく膨らむ。
 高齢者の大半は市町村ごとの国民健康保険に加入していたことから、高齢者比率の高い自治体の国保は危機的状況にあった。保険料も市町村の財政事情によって、大きな格差が生じていた。
 新制度は都道府県ごとに一本化して、財政負担を共有する。前より保険料が上がる人もいれば、下がる人もいるが、同じ県内なら保険料の格差はなくなる。
 また、所得の多い高齢者には、応分の負担をしてもらう仕組みも盛り込まれた。自治体により例外はあるものの、全体として、所得の低い高齢者の保険料はこれまでより下がる。
 新制度がめざす方向は超高齢時代に沿ったものだ。しかし、説明不足のままでは、高齢者が混乱するのは当然だろう。
 年金からの天引きに拒否反応が強いのは、年金制度自体がしっかりしていないことや、年金の少ないお年寄りが多いためでもある。今回の混乱によって、年金改革が急務であることもまた、浮き彫りとなった。