看護や介護の現場での人手不足が深刻化しています。その救世主として、東南アジアからの専門職の受け入れが具体的に進展しています。
 今年の夏には、インドネシアから看護師と介護士として働く人たちが来日することになりました。日本とインドネシアとの二国間協定に基づくもので、外国人の看護師・介護士の本格的な受け入れは初めてのケースとなります。
 日本とインドネシアは昨年(2007年)8月に、貿易拡大などを目的に経済連携協定(EPA)に署名しました。関税撤廃を柱とする自由貿易協定(FTA)に加えて、サービス、投資、人の移動の拡大など幅広い内容を含んでいます。
参考写真 看護師・介護士などの専門職の受け入れも合意事項の1つです。2年間で看護師が400人、介護士が600人の枠となっています。両国の仲介機関(日本側は「国際厚生事業団」)を通じて、希望者と受け入れ先との組み合わせを決め、7月から8月にかけて来日する予定です。
 問題は、このインドネシアから日本に来る人の要件の厳しさです。看護師を目指す人は、インドネシアで看護師の資格を取得して、2年以上の実務経験があることが条件です。介護福祉士を目指す人は、看護師の資格取得者または、高等教育機関を卒業して政府から介護士の認定を受けていることが条件でとなっています。さらに、日本にいる一定期間に日本の国家資格を取得するという、さらに高いハードルが設けています。
 来日した人たちは半年間、日本語などを学んだあと、各地の病院や介護施設で仕事をしながら、国家資格をとるための実地研修を受けることになります。この間は、日本人と同等以上の報酬が支払われますが、看護師は、入国して3年以内、介護福祉士は、4年以内に、日本語の国家試験を受験して、国家資格を取得しなければなりません。試験に合格できなければ、すぐに帰国。合格した人だけが、その後も日本で働き続けることができる仕組みです。
 こうした高いハードルに、3年ないし4年実地研修をしただけで、母国に帰ってしまうのではないかという不安があります。
 報酬面では、研修中であっても日本人と同等以上の報酬を保障した点は評価できますが、こうした外国人専門職をどのように定着をさせるかが、今後の課題になると思います。
 また、インドネシアよりも先に協定を結んだフィリピン人の受け入れに関しては、フィリピン国会(上院)での条約批准が遅れており、まだ具体化していません。
 フィリピンとのEPAに基づく制度では、厚労省の委託を受けた国際厚生事業団が、日本での勤務を希望するフィリピン人の看護師らを、受け入れを希望する全国の病院に振り分けることになっています。受け入れ数は、看護師400人、介護福祉士600人の計1000人を予定しています。
 なお、渡航費と日本語研修費は日本政府が負担することになっています。政府は既に08年度予算案に、インドネシアとフィリピンからの派遣も含め関連費用として約19億円を計上しています。
参考:国際厚生事業団のホームページ
インドネシア看護師受け入れ説明会に病院殺到
産経新聞(2008/5/23)
 インドネシア人の看護師と介護士の受け入れが正式に決まったことを受け、日本側の仲介機関「国際厚生事業団」が23日、病院や介護施設を対象にした説明会を大阪市内のホテルで開いた。会場には、定員の170人を大幅に上回る約230人が参加し、関心の高さをうかがわせた。一方、受け入れる病院や施設の応募締め切りが来月1日とあって、情報提供の不足に不満を訴える声も聞かれた。
 日本は現在、外国人労働者について、大学の研究者など専門的な分野の労働者に限り門戸を開いているが、医療・福祉分野で外国人労働者を本格的に受け入れるのは初めて。
 今回の受け入れの背景には、深刻な人手不足がある。厚生労働省によると、看護師は約3万7000人が不足し、約200万人の介護職員は、1年で約20%が離職している現状という。
 この日午前10時から始まった説明会は、看護師の受け入れを検討する病院などを対象に開かれた。参加者は、受け入れの手続きや今後の日程、雇用条件、研修、費用負担などの担当者の説明に聞き入り、メモをとる参加者も多く見られた。
 同事業団の西山哲治事務局長は冒頭、「今月16日に国会で承認されたばかりで、時間が差し迫った状況で進んでいる。十分な準備期間が確保できず、大変な不便をおかけするが、ご理解いただきたい」と参加者に求めた。
 質疑応答では「半年の語学研修だけで、国家試験の教材も読めるとは思えない」「6月1日までという応募期間は短すぎないか」などと担当者に厳しい質問を投げかける場面もあった。
 大阪市浪速区と西成区でデイケアセンターなどを経営する良元晃栄さん(62)は「看護師がどうしても不足しており、受け入れを検討している。給与など条件面での説明が不透明だ。賃金は能力に応じて決めるべきではないか」と話していた。
 介護士の受け入れに関する説明については同ホテルで午後から開催。前日の22日にも東京都内で同様の説明会が開かれており、定員を大幅に上回る約550人が参加した。