参考写真 5月29日付の読売新聞一面(13版)には、「後期高齢者医療に移行・7割世帯負担減」との記事が掲載されました。そもそも長寿医療制度の議論に関しては、具体的に保険料が上がったのか下がったのかという統計的な数字が、公式には公表されず、感情論のみが先行するきらいがありました。この読売新聞の調査は、県庁所在地を含む都道府県での国保の平均保険料に近い3市区町村を対象とし、183市区町村から回答を得ました。モデル世帯は、単身世帯、夫婦世帯、夫のみが75歳以上の夫婦世帯、子供夫婦との同居世帯(3人)の4種を対象に行われ。それぞれ、年金収入が年額79万円の低所得者、201万円の平均的な厚生年金受給者、400万円の高所得者で、国民健康保健の保険料と長寿医療制度の比較したものです。
 調査結果によると、低所得の単身世帯は、10市区町をのぞくすべてで国保の保険料に比べると低くなり、ほぼ半数で保険料が5割以下に下がっていました。調査対象183市区町村で試算した全モデル世帯でみると、2196世帯のうち、7割にあたる1612世帯で保険料が減っていました。
 反面、東京23区をはじめとして大都市部や地方の中核都市では、国保に対して独自の保険料減免策や所有する土地資産などにより保険料を計算する「資産割」を採用していなかったために、保険料が安く抑えられており、その結果、長寿医療制度に移行して保険料が上昇する傾向が顕著になりました。低所得者の場合でも、高知市49%増、松山市17.8%増、さいたま市8.5%増、東京23区7.6%増と上昇が目立つとされました。
 高齢者医療制度から長寿医療制度に制度の枠組み自体が大きく変わったために、保険料増減の実態が正しく把握されていない状況が続いています。
 厚生労働省では、都道府県を通して全国区市町村の国保保険料と長寿医療制度に移行しての保険料の増減の調査を現在行っています。(5月16日、厚労省国民健康保険課は、すべての市町村に対して読売新聞が調査した内容と同様の保険料額の変化に関する調査を行うよう通達しました。来月早々には、結果がまとまられ公表されると思われます)
 与党が進めている運用面での改善とこの実態調査がまとまると、長寿医療制度への理解が一層進むものと期待しています。
後期高齢者医療制度、7割の世帯で負担額軽減
読売新聞(2008/5/29)
 75歳以上を対象に今年4月から始まった後期高齢者医療制度(長寿医療制度)について、国民健康保険(国保)から移った高齢者の保険料の試算額を読売新聞社が全国の自治体に調査したところ、7割の世帯で負担額が下がっていることが28日わかった。
 家族構成や年金収入が様々なモデル世帯を網羅した調査は初めて。増減傾向には地域差も目立ち、政府が検討中の軽減策にも影響しそうだ。
 調査は、県庁所在地のほか、都道府県での国保の平均保険料に近い3市区町村を対象とし、183市区町村から回答を得た。モデル世帯は、〈1〉単身世帯〈2〉夫婦世帯〈3〉夫のみが75歳以上の夫婦世帯〈4〉子供夫婦との同居世帯(3人)の4種類で、それぞれ、年金収入が年額79万円の低所得者、201万円の平均的な厚生年金受給者、400万円の高所得者で比較した。
 それによると、低所得の単身世帯は、10市区町をのぞくすべてで国保の保険料に比べると低くなり、ほぼ半数で保険料が5割以下に下がっていた。調査対象183市区町村で試算した全モデル世帯でみると、2196世帯のうち、7割にあたる1612世帯で保険料が減っていた。厚生労働省は当初、低所得者について、「原則として保険料負担が下がる」と説明していたが、これを裏づけた形だ。
 一方、東京23区をはじめとする大都市部や地方の中核都市は、国保保険料を算定する際に、資産があった場合に保険料が増える「資産割」を採用していない。独自の減免措置を講じているケースも多く、保険料が他の市区町村より安く抑えられてきた。このため、単身世帯、夫婦世帯ともに、低所得者、中所得者では、負担が重くなる傾向があった。低所得の単身世帯の場合、高知市で保険料が49%増と大幅な伸びを示したほか、松山市(17・8%増)、さいたま市(8・5%増)、東京23区(7・6%増)などで上昇が目立った。
 また、3人が同居する世帯では、総額の保険料はほぼ横ばい。さらに、高所得者は同居世帯を除き、低所得者などに比べ、保険料の減少割合が小さくなる傾向がみられた。
[解説]負担軽減にも「公平」必要
 新制度で、自分の保険料はどうなるのか。年金が主な収入源の高齢者には切実な問題だ。だが、厚労省は限られたケースの試算をさみだれ式に出すのみで、疑問に答えてこなかった。
 今回の調査結果によると、低所得者に限らず、保険料が安くなる傾向が強い。制度を運営する各都道府県の広域連合でも、「保険料が上がった」という苦情は多くないという。
 しかし、国保料は独自の減免措置などがあり、市町村格差が大きい。県で保険料が統一される後期高齢者医療制度に移ると、個人ごとには大きな増減が出る。
 モデル世帯による試算にも限界がある。資産割のある市区町村では、計算上、2万円前後の資産割額を加えてあるが、資産のない多くの高齢者の場合、資産割額ゼロで国保料は安く抑えられていた。このため、結果的にモデル世帯に比べて上昇率が高くなる高齢者も現実には多い。
 低所得者といっても、保険料負担の重さは一律とは言えず、安易な負担軽減策はばらまきになりかねない。公平な負担という原則を踏まえたきめ細かな対策を講じるべきだ。
モデル世帯別保険料増減額
 増減額増減割合
単身世帯
(75歳以上)
年金79万−1万4537円−53.9%
年金201万−2万4577円−25.9%
年金400万−4万1217円−15.8%
夫婦世帯
(共に75歳以上)
年金79万−1万207円−29.1%
年金201万−1万7円−8.8%
年金400万−2万2646円−8.0%
夫婦世帯
(夫75歳以上
妻75歳未満)
年金79万−1万340円−29.5%
年金201万−1万246円−9.1%
年金400万−2万5378円−9.0%
同居世帯
(計3人75歳以上と
75歳未満の子供夫婦)
年金79万+4870円+2.0%
年金201万+1753円+0.6%
年金400万−1万1916円−2.8%
自治体数は183。年金は年額。増減金額は、モデル世帯の国保平均保険料と後期高齢者平均保険料との差額。金額は円