高齢者医療 迷走する新制度 一体、どうなっているのか
毎日新聞社説(2008/6/6)
 一体、どうなっているのか。4月から始まった後期高齢者医療制度をめぐる迷走が続いている。厚生労働省が4日発表した同制度の保険料推計調査で、低所得世帯ほど負担増となった割合が高いことが明らかになった。国会では新制度を維持したい与党が保険料負担の軽減策を矢継ぎ早に打ち出した。一方、野党は参院に廃止法案を提出、わずかな審議を行っただけで5日、厚生労働委員会で与党欠席のまま可決した。こういう光景を連日、見せられる国民はたまったものではない。政府も議員も、国会日程や選挙ばかりに気を取られて浮足立っており、肝心の高齢者医療制度の是非をめぐる本質の議論は棚上げにされたままだ。
 厚労省の保険料推計調査で「低所得者ほど負担減となり高所得者ほど重くなる」との説明が事実と違うことが分かった。これは新制度の根幹を揺るがすものであり、「仕組みそのものが間違っていたのではないか」という声が高まることは間違いない。新制度の法案成立から制度発足までに2年あったのに、保険料の調査を行っていなかったのは怠慢であり、そのうえ事実と異なる説明をしてきた責任は重い。今回のモデル世帯による推計調査については「これで実態がつかめるのか」との指摘もある。事実が不明確なままでは制度の是非を論じることはできない。自治体からデータを集めできる限り詳細な実態調査をすべきだ。

参考写真 6月4日に公表された長寿医療制度に関する厚労省の保険料推計調査が波紋を呼んでいます。確かに69%の高齢者の負担が減ったとの結果は、長寿医療制度の導入が功を奏して事の証拠以外の何物でもありません。しかし、「高所得者の方が負担減となり低所得者の方が重くなった割合が高い」との結果には、意外感があります。
 そこで、なぜこのような結果になったのか、その理由を整理してみたいと思います。
 国民健康保険(国保)は、市町村単位で保険料の計算方式がバラバラなため、都道府県単位の長寿医療制度の保険料と単純な比較が困難です。例えば、保険料の算定方式も3つの方式があります。(四方式:「所得割」、「資産割」、「被保険者均等割」、「世帯別平等割」の合算額で課税する方法。一般的に町村型といわれています。三方式:「所得割」、「被保険者均等割」、「世帯別平等割」の合算額で課税する方法。一般的に中都市型といわれています。二方式:「所得割」、「被保険者均等割」の合算額で課税する方法:一般的に都市型といわれています)
参考写真 このため厚生労働省では、国保で最も普及している保険料の計算方式である四方式(全国の市町村の約8割が採用)で、長寿医療制度の保険料負担の変化の推計値を算出してきました。
 この計算方式による推計によると、低所得者の73%の世帯で保険料が負担減となり、高所得者でも68%が負担軽減されます。低所得者ほど負担が軽減されることが分かります。
 これまでの厚労省の説明は、この四方式に基づいているため、「低所得者ほど負担が軽減され、高所得者ほど重くなる」としてきました。
 しかし、この4方式は、全国の市町村に占める割合で見れば圧倒的に大多数を占めますが、国保の被保険者数で見た場合、四方式を採用している自治体は人口が少ないため、全体の約46%となり5割に満たない人数になっています。
 このため、公明党と自民党の与党両党は、沖縄県などが採用する三方式(約39%)と、東京23区などが採用する二方式(約15%)も加えた上で、長寿医療制度の保険料と国保保険料との比較をするよう厚労省に要請し、その結果として厚労省が今回の調査を行ったわけです。
 この調査のうち、低所得者だけを見た場合、2方式を採用してきた自治体で負担減となる世帯数割合は22%で、3方式採用の自治体でも60%だったことが判明しました。
 このため、自民、公明の「与党高齢者医療制度に関するプロジェクトチーム」は、さらに低所得者対策を強化する必要があると判断し、保険料の軽減割合を7割から9割に拡大することを柱とした改善策を決めたのです。
 与党PTによる軽減策の導入によって、低所得者の負担が軽減される世帯数割合を改めて見てみると、2方式を採用した自治体は22%から69%に拡大、3方式は60%から68%に、4方式も73%から79%へと負担減が拡大します。
 75歳以上の高齢者全体で保険料負担が減少する世帯数割合をみると、75%の世帯で負担減が実現することになります。