参考写真 米国の金融不安は日本にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
 今年(2008年)9月15日、米国の大手投資銀行リーマン・ブラザーは、連邦倒産法第11章(日本の民事再生法に相当)の適用を連邦裁判所に申請すると発表し事実上破綻しました。負債総額は6,130億ドル(当時の日本円で約64兆5000億円)と米国最大の倒産劇となりました。
 リーマン・ブラザースは米国で4位の規模でしたが、3月には5位だったベアー・スターンズが事実上の経営破綻となり、JPモルガン・チェースに買収されたばかりです。さらに業界3位のメリルリンチは米国の大手銀行バンク・オブ・アメリカが買収するとの発表もあり、業界上位の5つの銀行のうち3行が事実上破綻するという事態になりました。
リーマン・ブラザースとはどんな企業なのか
 リーマン・ブラザースは1850年に創業された歴史ある会社でした。創業時は綿花取引の会社でしたがのちに銀行業務に転じ、大手投資銀行及び証券会社として成長しました。日本にも会社があり2005年にライブドアがニッポン放送の買収を仕掛けたときには、ライブドアが発行した800億円の債券を引き受けて注目を浴びました。M&Aにも積極的に関わっており、2005年の山之内製薬と藤沢薬品工業の合併では、藤沢薬品のフィナンシャルアドバイザーを務めました。現在はデリバティブ(金融派生商品)、不動産の証券化ビジネス、などが中心だったようです。
参考:リーマン・ブラザーズ - Wikipedia
ハイリスク・ハイリターンの投資銀行
 日本の銀行のイメージは「堅い」「貸さない」というイメージですが、米国の投資銀行は一般的にリスクの高いところにも積極的に融資を行います。積極的に貸し出せる理由は、「融資を証券化してリスクを分散」できるからです。
 たとえばサブプライムローンなどはその最たるもので、もともと焦げ付くリスクの高い低所得者へ住宅ローンを融資し、その債券を証券化し金融商品として売ってしまえば自分がリスクを負うことはありません。
 なぜそんな無理な投資を行うのかといえば、その時あげた利益が給料やボーナスに直接反映されるからです。「今日の利益は自分のもの、明日の損は君のもの」という言葉があるそうで、とにかく目先の利益を上げて後のことは考えないというのが、あちらの考え方のようです。今回、リーマン・ブラザースを破綻させてしまったファルド会長の昨年のボーナスは4000万ドル(約43億円)だったそうです。
日本への影響は
 リーマン・ブラザーズは日本の金融機関から1700億円の融資を受けたと発表しています。ほかにも銀行や証券会社、生保・損保会社などはリーマン・ブラザーズ向け融資のほかにもデリバティブ(金融派生商品)取引や、株・社債などへの投融資を行っており、総額は4400億円超にのぼる見込みです。
 米国の金融の不安定化で、当日のニューヨーク証券市場は500ドル以上も値を下げました。またロンドン、東京も暴落、株式市場は全面安となりました。これに伴い円高ドル安の展開となり、輸出に頼る日本企業にとっては苦しい情勢が予想されます。輸入に関してはガソリンなどが少し安くなると思われますが、どれほどの影響があるのかはまだ不明です。
 また、日本法人のリーマン・ブラザース証券は約1200億円相当の国債を落札していましたが、期日までに代金が払い込まれていませんでした。このままではリーマン・ブラザース落札分について国の歳入に穴があく事態になるとして、財務省は対応の検討に入りました。
不動産への影響も
 リーマン・ブラザースは日本法人としてリーマン・ブラザーズ証券、リーマン・ブラザーズ・ホールディングスを運営していました。両社は民事再生法の適用申請行い、これにより系列会社も自力での事業継続が困難となったとして東京地裁に民事再生法の適用を申請しました。
 系列のリーマン・ブラザーズ・コマーシャル・モーゲージは、不動産担保融資の専門業者で、アパート、マンションなどを対象にしたノンリコースローン(非遡及型融資)のほか、オフィスビル、商業施設、ホテルなど収益物件向けローンも扱っていました。貸し付け債権は証券化し、機関投資家などに転売していました。この証券化された債券が破綻し、不動産に影響を与えることは充分考えられます。
 不動産投資では、これまで国内の銀行は、不動産開発会社などと提携してローンの返済期日まで貸出債権を持ち続ける(リスクを負担する)というやり方をとってきました。しかし外資系の投資銀行は、ローンの貸出債権を第三者に転売するというやりかたです。そのため、貸出しの審査もゆるく、日本の銀行では融資しないような物件にも融資が行われるということがありました。
 これはリスクの高い融資を債券化するサブプライムローンと同じような手法で、誰かが損害をこうむることになりかねません。もし破綻すれば、その影響は建物を請け負った建設会社にも及ぶことになり、さらなる不動産不況が心配されます。
茨城県内への影響は
 茨城県内企業への影響もあります。常陽銀行は、リーマン社の発行する債券42億円分あまりを保有していることを公表しました。すべて無担保のため債権の保証はないといわれています。債権の内訳はドル建てが2645万9千ドル(27億6200万円)とユーロ建てが995万5千ユーロ(14億7700万円)で、計42億3900万円。貸出金や金融派生商品(デリバティブ)などの取引はありません。
 また、不動産関係の物件でもリーマン・グループが関係するものもあり、その影響が心配されています。