耕作放棄地の問題が最近クローズアップされています。公明党の太田昭宏代表は8月23日、茨城県常陸太田市を訪れ、耕作放棄地の再生の現場を実際に視察しました。(当ブログ「耕作放棄地の再生事業:水府愛農会を視察」をご参照下さい)。茨城県は農業就業人口で全国一という屈指の農業県ですが、耕作放棄地が1995年の1万392ヘクタールから2005年に2万357ヘクタールへほぼ倍増しています。常陸太田市でも耕作放棄地が21.6%を占め、全国水準の2倍に達しています。こうした中、視察先である旧水府村地域では、定年退職者らが2003年3月に農業生産法人・水府愛農会を立ち上げ、耕作放棄地を活用したそばの栽培、加工、販売に取り組んでいいます。
 そば畑など視察した太田代表に、愛農会の川又節郎代表取締役は「耕作をやめた農地は1年もたてば草ぼうぼう。2、3年もたつと成長した木を抜根するのに重機が必要になることもある」と再生の難しさを訴えた。太田代表は、関係者の労をねぎらうとともに、耕作放棄地の解消へ向け、農地法見直しなど抜本的な対策に取り組む考えを表明しました。
 耕作放棄地が増える最大の要因は、農業の収益が低すぎることと、農業後継者が不足していることに2つに起因していると言われています。しかし、こうした要因以外にも「農外転用」と言われる大きな要素が存在することが問題視されています。
農地漂流:バブル崩壊、宅地開発頓挫 仮登記後、荒れ放題−−千葉
毎日新聞(2008/9/1)
◇農家「他人の土地」
 見渡す限り広がった雑草が風に揺れ、水田だった面影はない。成田空港に近い千葉県芝山町の「仮登記農地」。宅地開発を目指した不動産業者が地上げを進めて所有権移転を仮登記した後、バブル崩壊で事業が頓挫した。売買代金を受け取った農家には「他人の土地」で、耕し手はない。農地法の趣旨を逸脱しているのに規制のない仮登記が、貴重な農地を荒らしている。
 町役場幹部などによると、町内の農地・山林22ヘクタールを造成し、戸建て住宅380棟を売り出す計画が90年に持ち上がった。予定地には農地12ヘクタールが含まれ、東京の不動産会社が農家48人に売買代金を支払って、所有権移転を仮登記した。
 「地上げ屋さんが来て『二束三文の農地が大化けする』と騒ぎになった。みんなもろ手を上げて歓迎した」。農家の一人が当時を振り返る。水田20アールを3000万円で売り、家を新築した。「みんな新築したよ」。一方、結束の固かった地域に「もっと高く売ったやつもいる」と疑心暗鬼も引き起こした。
 登記簿上も、農業委員会の農地基本台帳上も、農地は今も農家の所有だが、「売れば耕作意欲はわかない。そういうもんです。耕せといわれても、あそこまで荒れたら無理だ」。12ヘクタールの大半が荒れた。
 不動産会社は登記簿の住所に事務所はなく、休眠状態だった。
 自宅で取材に応じた社長(67)は、買収資金を出した旧城東信用金庫(東京都江東区)の元職員だった。理事長の意向で送り込まれ、数十億円の融資を受けて地上げに専念したが、事業は93年に凍結。翌年、古巣は他信金と合併し、東京ベイ信用金庫(千葉県市川市)となった。
 東京ベイ信金は、融資の担保とした仮登記農地を今も不良債権として抱え、引き受け手を探している。千葉県内の農業生産法人に買わせようとしたが失敗。昨年、町に寄付を申し出た。「もらっても放置できず、開発は新たな負担となる」と町は難色を示す。
 仮登記で荒れた農地に数年前、大量の建設残土が捨てられた。町と県の命令で産廃業者は原状回復したが、周辺住民は「いつまた捨てられるか」と不安を感じている。
 仮登記された農地は地域の「厄介者」になっていた。

参考写真 月刊誌「潮」2008年11月号に、明治学院大学経済学部の神門善久教授が「農業再生の第一歩は健全な農地活用にあり。」との論文を寄せています。それによると、「耕作放棄地の増大の原因は、農地の所有者の多くが営農目的ではなく、農外転用を当て込んでいるからである。05年時点で、営農している農家戸数は285万戸ある。しかし、このうち、農業を主たる所得源とし、65歳未満の農業専従者がいる農家は37万戸にすぎない。農家の圧倒的多数は、安定的農外収入機会をもち、零細農地で片手間的に農業をおこなう『土地持ちサラリーマン』である。さらには農地の所有権を持ちながらも農業をしていない世帯も120万戸も存在し、『土地持ち非農家』と呼ばれる。『土地持ちサラリーマン』や『土地持ち非農家』の多くは、農業収益にはさしたる関心もない。彼らの関心ばいきやくえきは、農地を農外転用して売却益を得ることである」と指摘されています。さらに、「国土の狭除な日本では、農業に適した農地ほど、潜在的な農外転用機会が多い。すなわち、優良農地の条件は、平坦な好区画で、水はけや日照に恵まれ、道路へのアクセスが至便なことであるが、これらは、まさしくショッピングセンター建設や宅地開発にも有利である。ひとたび農外転用となれば、地方部でも、田圃1枚(0.3ha)から億円に近い大金が農地所有者の懐に入る。田圃一枚の農業的価値はせいぜい数百万円だから、いかに農外転用による利益が大きいかがわかる」と解説しています。
 また、神門教授は農地転用の収入が農業生産額の8割にも達することを示し、日本農業のいびつな構造を明らかにしています。
 仮登記された農地の問題については、今後、茨城県議会でもその実態を明らかにしていくつもりです。当面は、その実態調査を県に強く求めてまいります。