高齢者医療滞納20万人
主要72市区 11自治体で1割超す

朝日新聞(2008/12/1)
参考写真 75歳以上が入る後期高齢者医療制度(後期医療)で、全国の主要自治体72市区で保険料を滞納している人が10月末時点で、約20万人いることがわかった。1年以上滞納すると原則、保険証を返還させられ、「無保険」状態となる。滞納者には低所得者や長期入院中の人が相当数いるとみられ、個別の事情に配慮した対応が求められそうだ。
 4月に導入された後期医療で、全国的な滞納者の数が明らかになったのは初めて。朝日新聞社が11月下旬、全国の県庁所在都市と政令指定都市、東京23区を対象に調べた。加入者数は計約415万人で、全国の約3割にあたる。
 東京都文京区を除く72市区が回答。滞納している高齢者は計20万6745人と、全体の約5%だった。1千人を上回る自治体が57あり、さいたま市、横浜市では1万人を超えた。滞納者が加入者の1割を超える自治体は11あり、東京都杉並区は約2割に上る。
 後期医療の保険料は原則、年金からの天引きだが、年金額が年18万円未満の高齢者は現金で払うか、口座振替などで支払う。保険料徴収は、6月から順次始まっており、滞納が1年間続くと、病気など特別の事情がない限り、原則保険証を返還させられる。
 保険証が無いと、医療機関の窓口で、いったん医療費の全額を自分で払わなければならない。治療が必要でも受診を控え、病状悪化につながるなどと指摘されている。返還させるかどうかは、都道府県ごとに設置された広域連合が決めるが、事実上、徴収事務を担う市区町村が判断すると見られる。
 政府・与党は、「相当な収入があるにもかかわらず滞納している悪質な場合に限って適用する」と、返還に関する方針を示したが、具体的な判断は広域連合にゆだねた。
 今年3月に廃止された老人保健制度では、保険証返還の規定は無かった。
 同様の規定は、国民健康保険にもあり、親の保険料滞納により全国で約3万3千人の中学生以下の子どもが「無保険」状態にある。

茨城県の未納率は2.0%(7月末日納期分)
 12月1日、井手よしひろ県議は、「全国の主要都市で長寿医療制度の保険滞納者が1割を超えている」というショッキングな見出しを見て、早速、県国民健康保険室より、茨城県の状況をヒアリングしました。
 一般的にいって、長寿医療制度の保険料は7割強が年金からの天引きによる特別徴収、残り3割弱が直接金融機関に振り込む形や持参払いなどによる普通徴収となっています。ことの是非はともかく、年金からの特別徴収では、ほとんど滞納が発生しません。したがって、朝日新聞のように滞納者が1割を超す自治体があるということは、普通徴収の滞納率がとんでもなく高いということになってしまいます。これを信ずるとコメントを寄せている広井良典千葉大教授が指摘するように「(長寿医療制度は)空洞化の恐れがある。自治体や広域連合、厚生労働省は早急に状況を調べるべきだ」ということになります。
 こうした懸念を持って、県の担当者からヒアリングを受けて、朝日新聞の指摘が非常に意図的であると感想を強く持つに至りました。
参考写真
 茨城県の場合、4月から年金からの天引き(特別徴収)をはじめています。したがって、普通徴収は全体の約26.3%の方が対象です(9月30日時時点)。この普通徴収のうち、7月末が納付期限であった方の12月現在の未納率は9.9%でした。ちなみに、9月1日納付期限が10.4%、9月末納付期限が13.9%でした。これを特別徴収とあわせた未納率に換算すると、7月末分2.0%、9月1日分2.2%程度、9月末分3.7%です。
 この数字は、朝日新聞の調査とあまりにかけ離れた数字になってしまいました。(この茨城県の未納率は、井手県議が要請し、県国民健康保健室が集計したものです)
 朝日新聞本社に問い合わせてみたところ、「数字には間違いはありません。都市部は地方より滞納率が高のでは?」との回答でした。
 数字の差が納得できませんでしたので、記事の中で滞納率が2割を超えていると名指しされた杉並区に電話を掛け、国保年金課高齢者医療の担当者から直接お話しを聞くことができました。それによると、「杉並区では高齢者への周知徹底、理解を図るために、年金からの特別徴収を10月から行っている」という回答でした。一定額以上の年金所得がある方でも、4月分と8月分の保険料は普通徴収で行っており、さらに納付が遅れているかたにも、しっかりと長寿医療制度の説明をすべき時期であるとして督促状の発送は一切行っていないとの説明でした。2割が滞納と指摘された実態は、「行政がきめ細かく制度導入に時間を掛け、慎重にスタートさせた途中経過である」と、いうことでした。
 茨城県をはじめとする地方の広域連合は、4月当初から年金からの特別徴収を始めています。しかし、人口規模の大きな政令指定都市や東京23区では、その特別徴収の実施を10月からに遅らせた自治体が多いようです。こうした一部の自治体を抽出して行った調査結果は、4月から特別徴収を開始している多くの地方自治体の現状を反映していないと思われます。
 朝日新聞は、記事本文で「全国の県庁所在都市と政令指定都市、東京23区を対象に調べた。加入者数は計約415万人で、全国の約3割にあたる」とわざわざ注釈をつけていますが、この調査の傾向が全国的な傾向であるとのミスリードをしていると、いわざるを得ません。まして、サブ見出しで「主要72市区 11自治体で1割超す」との表現は、長寿医療制度への不信感をいたずらに煽る表現であると感じるのは、私一人だけでしょうか?