
徳島県では、平成18年度よりCIO(非常勤特別職の最高情報統括監)として日本IBM元副社長丸山力氏を迎え、職員情報や総務事務、各種県庁情報などを一元的に管理する共通基盤システムの再構築に取り組んできました。
職員の出退勤管理、出張旅費管理などの総務システムについては、従来の常識にとらわれず、OSS(オープンソースソフトウェア:徳島県の導入したのは無料のOSであるリナックスをベースとしたシステム)を利用した県職員が独自で開発したシステムを導入しました。いよいよ来年1月からは、この総務事務システムが稼働することになりました。
県職員のスケジュール管理、休暇システム、出勤簿システム、超過勤務システム(4月稼働)、旅費システム(4月稼働)、手当てシステム(4月稼働)が、県職員一人一代貸与されているパソコンから入力できるようになります。システムはインターネットブラウザで表示され、入力・上司の決裁(電子決済)・集計などがすべて庁内ネットワーク上で処理されることになります。
この徳島県のシステムは、既に長崎県が先行して開発していたシステムを無償で提供を受けました。導入コストがカスタマイズのかかる費用だけとなり、通常の4分の1以下約1億円で済みました。
県庁システム、徳島県にライセンス供与 全国初実施=長崎
読売新聞(2007/9/12)
県は(9月)10日付で、独自に構築してきた庁内事務の電子システムについて、徳島県に無償でライセンス利用を認めた。長崎県によると、こうしたシステムのライセンス供与は全国初という。
県情報政策課によると、自治体の電子システムは、ほとんどが民間にすべてのシステムを丸ごと発注されており、開発から運用、保守まで同じ企業が請け負うケースが多く、運用コストも高くなりがちだという。
県は2002年度から独自のシステム構築に着手。事務分野ごとに、県職員が設計図にあたる「仕様書」を作成。それぞれのシステムを一般競争入札で発注することで、価格を低く抑えることができ、地場企業の受注が増えるなど地元経済の振興にもつながっているという。
徳島県に提供されるシステムは、職員出勤簿、母子寡婦福祉資金貸し付けなど6種類。来年度から運用を開始する予定で、初期段階の作業には長崎県のシステムの開発に携わった同県内の企業、安定稼働後の保守などには徳島県の企業を選ぶ予定という。
同課は「徳島県の負担軽減と、両県の地場IT企業の振興にもつながると思う。さらに、他の自治体にも採用してもらえるよう、全国に宣伝していきたい」と話している。
徳島県での取り組みは、事務処理経費やコンピュータ関連の経費の大幅削減につながります。また、より重要な成果は、県庁の様々なシステム作りに地場企業が多く参入するようになったことです。自治体のITのほとんどは、大手ベンダーで占められています。地方自治体が県庁のシステム構築に地元企業を使うことは当たり前ですが、その多くは、中央の大手ベンダーの窓口として地元企業が動くだけであり、実際にシステムの設計や制作、保守にあたるのは、東京から出張してくる中央の業者であることが多いのも事実です。しかし、OSSを活用したため、地元中小企業でも最低限の投資でシステムの構築を手がけることが出来るようになり、長崎県から提供された基本のシステムを徳島県版にカスタマイズすることに関しては、ほとんど地元業者で対応できるようになりました。
徳島県では、無償で提供されているOSSを活用しました。OSSは明確な提供者がいないため、その責任の所在が明確でないとの指摘もあります。地方公共団体が活用することへの抵抗感があることも事実です。しかし、徳島県では丸山CIOの強いリーダーシップで導入を推進し、庁内の人材育成や県内中小企業のスキルの育成などにも積極的に取り組んできました。
自前で開発を進めている徳島県のシステムの特徴は、事務処理を統合的に行えるという点です。すべてのシステムが1つのデータベースを中心に稼動させることが出来ます。各システム間ですべての情報を連携させることが出来ます。今までの庁内システムは、一般競争入札により調達されているため、システムごとにベンダーが異なります。もし、ベンダー依存の体質のままに甘んじていたら、設計思想もデータ連携の考え方もシステムごとに異なったものになってしまいます。そうすると、たとえば休暇システムと電子決裁システムと文書管理システムを相互に連携しようとしても、その作業は非常に複雑、困難を極めます。徳島県の場合、1つのデータベースを色々なシステムから利用しているので、すべてのシステムが他のシステムの作ったデータと自由に連携できます。OSSを活用することで、ベンダーに依存せず、しかも自由に連携できて、コストを大幅に削減することが出来ます。
こうした既存のシステムの弊害を起こす要因を、徳島県では「デジタルの壁」と「縦割りの壁」と表現しています。OSSによって「デジタルの壁」を破ることが出来ます。縦割り行政の弊害「縦割りの壁」は、果敢な行政組織改革で突破しようとしています。来年(平成21年)4月からは、庁内職員の旅費や各種手当て、臨時職員・非常勤職員の賃金・報酬、年末調整などを一括して取り扱う総務事務センターがオープンします。各課ごとに処理をしていた事務処理が大幅に簡素化、効率化されることになります。
確かにOSSを活用した自治体の事務処理システムの構築には大きな魅力があります。しかし、それは自治体トップ(知事やCIO)の英断と職員の大変な努力があって、初めて実現することを実感した視察調査となりました。