足元の異変:地球温暖化と茨城:ゆらぐ名産品
毎日新聞(2009/1/11)
◇干し芋カビ被害も−−「乾きにくくなった」
参考写真 サツマイモの甘い香りが漂うはずの干し場から、カマンベールチーズのような強烈なにおいがした。天日干しの最中の何百キロもの芋が一晩で腐り、表面には赤や青のカビが生えていた。
 05年12月中旬の早朝のことだった。ひたちなか市部田野で100年間干し芋を作っている農家の4代目、飛田勝治さん(50)が初めて目にする光景だった。「気を付けていたのに。ショックだった」
 予兆は約10年前からあった。寒くなるのが遅く感じるようになり「干し芋が乾きにくくなっていた」。干し芋は最高気温が10度以下になると、収穫したサツマイモをふかし、薄くスライスして約1週間、天日に干す。飛田さんは約30年前、11月中旬には作業を始めていたが、近年は約2週間遅い。昨年は11月23日だった。
 県農業研究所によると、水戸市の11月の平均気温は約30年間で0.8度上がった。11月は、天日干し作業の前に、掘り起こした芋を低温の空気にさらし、糖度を上げる時期でもある。研究所の青木隆治技師(31)は「甘くするには、寒さも必要。平均気温の上昇は、糖度も上がりにくくしている」と分析する。
 生産農家の懸念を受け、研究所では来年度から干し芋を単独の研究対象にする予定だ。青木さんは「自然の気温だけでは、干し芋が作りにくくなってきた。干し芋の産地であり続けるには温度管理などの工夫が必要だ」と話す。
 気候の変化は、農家のサツマイモづくり自体も変えている。飛田さんは「断続的にしとしとと降る雨が減った。豪雨だと雨水が土にしみ込まず、(芋が)水を吸えない」と言う。サツマイモの成長に影響が出る恐れがあるため、スプリンクラーなどを使って給水している。約1キロ南を流れる「那珂川を越えない」とされてきた病害虫も北上し、近隣の農家と対策に追われる。
 長男直樹さん(21)は跡を継ぐため、大学で農業を学んでいるが、飛田さんは「5代目まで持つだろうか。様子を見たほうがいい」と不安を隠さない。ひたちなか市と東海村で干し芋をつくる農家は、10年前には約1000軒あったが、現在は約700軒になった。
(写真は干しいもの天日乾燥:撮影井手よしひろ)

参考写真 1月16日、井手よしひろ県議は常陸太田地域農業改良普及センターを訪ね、菊池眞義センター長、山田健雄次長(普及企画課長)より、暖冬の干しいも栽培への影響について聴き取り調査を行いました。
 茨城県の北部のひたちなか市、東海村近隣は、全国の生産量の約8割を占める、日本一の干しいも産地です。干しいもは、蒸したサツマイモをスライスし、天日で乾燥させてつくる食べ物で、おいしくて栄養豊富と、健康食品としても人気があります。
 日本で干しいもが作られるようになったのは、明治時代末期のこと、日露戦争の際には、兵隊の食料にも用いられたといいます。茨城県には、明治41年に静岡県から伝わり、冬の農閑期の副業として広まりました。
 現在、茨城県では、農業改良普及センターの指導のもと消費者から信頼される産地を目指し、「干しいも生産三ッ星運動」(生産履歴記帳・衛生加工の実践・適正品質表示の実施)が展開されています。
 この干しいもの生産に異変が起きています。干しいもの最大の需要期である年末年始の販売に大変重要な、12月中旬(12月10日からの2週間)に基本が上昇し、降雨が多くなる傾向があることです。そのために、原料のイモの糖化不足が起こり、貯蔵時にカビが発生するケースが起きています。
 農業改良普及センターでは、2月3月に収穫し加工した干しいものを冷凍処理して熟成させ出荷することや外気温に左右されない低温除湿乾燥装置などの導入などを図っています。