今なぜ、海賊対策が必要なのか
 政府はソマリア沖・アデン湾での海賊対策のため、海上警備行動の発令による自衛艦の派遣準備を進めています。今なぜ海賊対策なのか、その論点を公明新聞(2009年2月10日付け)記事をもとに整理してみたいと思います。

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現状認識

 日本の貿易の99%は海上貿易に依存しています。海の安全は日本にとっても死活問題です。しかし、海賊による船舶の襲撃、人質事件が増加しており、深刻な問題となっています。その中でも、被害が急増しているソマリア沖・アデン湾での対策が急務となっています。
 これまで海賊被害といえば東南アジアのマラッカ海峡などが中心でしたが、日本の海上保安庁の国際協力などもあって現在は被害も減少しています。
 しかし、ソマリア沖・アデン湾の海賊は東南アジアと違い、銃やロケット弾で武装した凶悪な海賊であり、船員の身代金を取るためなら30万トン級のタンカーまで襲います。
 国際海事局によると、未遂も含めた事件数は、2004年以降、毎年300件前後で、昨年は293件。そのうち111件がソマリア沖・アデン湾に集中し、06年の5倍に上っています。昨年被害に遭った船舶すべてが航行中に襲われ、815人が人質になりました。
 海賊は母船から、小型の高速ボート数隻を出して武器で脅しながら目標の船舶に近寄り、強引に乗り込みます。昨年、世界中の海賊事件で139件の銃器使用がありましたが、102件がソマリア沖・アデン湾であり、危険性は突出しています。
 日本船主協会によると、ひとたび乗船されたら助けようがなく、ジグザグ航行で波を立てて、ボートの接近を阻止するにも限界があるといわれています。
 この海賊はソマリアを根城にしています。の温床だ。ソマリアは暫定政府しかなく統治能力もありません。
 日本船主協会によると、この海域を1年間に通る日本商船隊約2000隻が南アフリカの喜望峰を回ると、燃料代と用船料で年間約400億円の損失が出ると試算されてます。
 アデン湾は年間2万隻の船舶が航行していますが、その1割の2000隻が日本関係船舶です。
 2007年の10月以降、6隻の日本関係船舶が乗っ取られ、そのうち1隻(ケミカル・タンカー)は昨年11月に被害に遭い、23人の船員とともに今も解放されていません。23人の国籍は韓国人5人、フィリピン人18人で、日本人はいませんが、日本企業が運航事業者になっている「日本商船隊」約2300隻に乗る約5万人の船員のうち日本人は約5%しかいません。「日本商船隊」が多くの外国船員に支えられている事実を忘れてはいけません。
 アデン湾は欧州とアジアをつなぐ要衝の海域であり、国連安保理は昨年、4回の決議を採択し各国に同海域での海賊対策を要請しました。すでに17カ国が海軍艦艇・航空機を派遣しています。
海賊への対策

 昨年(平成20年)、国連安保理決議は、各国に軍艦の派遣などを要請する海賊対策の決議を4度採択しました。この決議に応じた国は、哨戒活動や、自国関係船舶の護衛活動を実施しています。特に護衛活動は効果的で、軍艦に守られた船団が海賊に襲われた事例は起こっていません。
 国際部隊としては、ヨーロッパ連合が昨年12月から、米国中心の合同海軍部隊が1月から新体制で護衛活動などを行っています。
 海賊の阻止は警察の役割であり、本来は海上保安庁の任務です。これまでも外国の海賊対策を支援するため、片道3〜7日の東南アジア海域で活動した実績もあります。
 しかし、海保には遠洋での長期任務を行う能力はありません。片道約20日もかかるアデン湾で長期任務を実施できる巡視船は1隻しかなく、海賊の攻撃に対する防御力も弱いため、事実上、海保では対応できないのです。
 そのため、海保の能力を超えた事態を支援するために自衛隊に認められた海上警備行動によって自衛艦を派遣し、そこに海上保安官を同乗させて警察任務に当たることが現実的な選択となります。
 日本も批准した国連海洋法条約の第100条には「すべての国は、最大限に可能な範囲で、公海その他いずれの国の管轄権にも服さない場所における海賊行為の抑止に協力する」と、海賊行為抑止のための協力義務が定められています。
 国際法上、公海上の海賊であれば、どの国でも逮捕・訴追・処罰できます。しかし、海賊を取り締まり、処罰する国内法がない国が多く、ソマリア沖・アデン湾でも各国は試行錯誤で対応しているのが実態です。日本も海賊対策の国内法整備が課題であり、現在、政府・与党で議論を進めている段階です。

自衛隊の海上警備行動

「さざなみ」と「さみだれ」:Vessel And Ships Photo Gallery ここで、自衛隊法第82条の海上警備行動について再確認しておきたいと思います。
 自衛隊の海上警備行動とは、海保に対処不可能な事態が発生した場合、自衛隊に、海上での生命・財産の保護や治安維持といった警察活動を支援させることをいいます。首相の承認を得て防衛相が命令することになっています。保護の対象は基本的に日本国民の生命・財産に限られ、活動海域に限定はありません。
 政府は現在、与党の要請を受け、派遣準備を進めています。海賊の逮捕・取り調べにも備え、司法警察の任務を遂行できる海上保安官を自衛艦に同乗させることになります。海賊対策の国内法が実現すれば、それに基づいた海賊対策に移行する予定です。

ソマリア沖海賊対策、海自が護衛艦2隻派遣へ
読売新聞(2009年2月3日)
 アフリカ・ソマリア沖の海賊対策で、海上自衛隊は3日、海自呉基地(広島県呉市)所属の第8護衛隊の護衛艦「さざなみ」(基準排水量4650トン)と「さみだれ」(同4550トン)の2隻を、海上警備行動の発令後に現地へ派遣することを決めた。
 赤星慶治・海上幕僚長が同日の定例記者会見で明らかにした。隊員の派遣規模は400人程度になる見込みで、今後、訓練を本格化させる。
 赤星海幕長は、乗船が検討されている海自の特殊部隊「特別警備隊」について、「射撃等が必要になった場合には、高い能力を持っている特別警備隊員の活用は十分考えられる」と述べ、前向きな姿勢を見せた。
 このほか、警護する日本関係船に不審な船舶が近づいていないか上空から監視するため、P3C哨戒機の派遣も検討することを明らかにした