タレントのスマイリーキクチさんのブログに中傷・脅迫など悪質な書き込みをしたとして、17〜45歳の男女18人が書類送検されました。インターネットでは、特定の個人に悪意ある書き込みが集中する“炎上”という現象が、起こることがありますが、ブログの炎上をきっかけに多数の人間を名誉棄損容疑で摘発するというのは初めてのことです。
普通の人々が牙を剥くネットの恐ろしさ
参考写真 スマイリーキクチさんは、足立区の出身でした。もと不良だったとか、暴走族の出身だとかの嘘の噂がきっかけで、そこから1989年に起きた、足立区の女子高生コンクリート詰め殺人事件に関係したという事実無根の噂がインターネット上に流れるようになりました。
 彼は93年にタレントとしてデビューし、NHKの「爆笑オンエアバトル」や大手家電メーカーの広告にも出演するようになるのですが、約10年前からインターネットの掲示板で事件に関与したと嘘の書き込みが始まりました。噂はその後も止まることなく、2008年1月に本人が開設したブログには数百件もの悪質な書き込みが殺到しました。このような事態が続き、「生活や仕事に影響があるだけではなく、家族にも不安な思いをさせる」と警察に被害届を出すことにしたそうです。
 今回、名誉棄損の容疑で摘発されたのは17〜45歳の男女18人ですが、警察が事実無根の誹謗中傷を繰り返した者を一斉摘発するのは初めてのことです。送検されたのは札幌市の女子高生(17)、大阪府高槻市の国立大職員の男(45)など身分も職業もさまざまな人たちで、ごく普通の人がネット上では悪質な書き込み犯に豹変するという恐ろしさをうかがわせます。
 この事件では他に、2008年12月に「殺してやる」と殺人予告の書き込みをした川崎市の20代の女が脅迫容疑で書類送検されています。
韓国ではもっと深刻な中傷被害が
 インターネットでの深刻な中傷被害は日本だけのことではありません。韓国ではネット上で誹謗中傷された有名人の自殺がいくつも起きています。
 2007年1月には、歌手チェ・ユニさんが首を吊って自殺。2月には女優のチョン・ダビンさんも自殺。二人ともネット上で整形手術疑惑などについて書き込まれたことを苦にしたものと見られており、中傷の書き込みが問題になりました。また2008年10月には、有名女優チェ・ジンシルさんが自殺。彼女は日本の読売ジャイアンツでプレーしたチョ・ソンミン選手の元妻としても知られた女性でしたが、9月に自殺したタレント、アン・ジェファンさんに絡んであらぬ噂がネット上に流れ、それがチェ・ジンシルさんを追いつめたと言われています。
 韓国政府と与党・ハンナラ党はこのことをきっかけに、ネット上の中傷に厳罰を課すこと、さらにネット上で本人確認を強化する「サイバー侮辱罪」を導入する方向で検討に入りました。韓国の現在の法律では、中傷された本人が告訴しなければ立件されませんが、この新しい法律ができると告訴なしに当局が捜査することができるようになり、罰則も強化されます。またインターネットから匿名性を排除しようという強硬な意見まで出ています。
インターネットは実は匿名ではない
 インターネットは完全に匿名で、誰が書き込んだか分かるはずがない、と思い込んでいる人はいまだに多いようです。しかし今回のことを見ても分かるように専門機関が調べれば、書き込んだ本人を特定することはそれほど難しくありません。ネットで書き込めば足跡が残ります。どんな書き込みをしても、誰が書いたかわからないという、という思い込みは改めるべきです。
対策には高度のバランス感覚が、情報リテラシーの醸成も
 ブログ炎上に対する対策も進んでいます。今回、標的となったお笑い芸人が使っていたブログサイトでは、有名人のブログに対するコメントは事前承認制になり、監視会社がチェックするようになりました。また他のポータルサイトでは、ユーザの一部を公開することで、無責任な書き込みに歯止めをかけようとする試みもなされています。
 インターネットは便利な半面、人間が抱える心の闇を反映してしまうという危険な側面もあります。匿名性を一切排除するということは不可能ですが、個人のプライバシーを尊重しながらいかに安全性を高めていくか、コントロールには高度のバランス感覚が要求されることになるでしょう。
 こうしたネット上のバランス感覚を醸成するには、ネットで情報を得る場合のリテラシー教育などが不可欠ではないでしょうか。学校教育の各節目ごとに体系的な情報リテラシー教育が望まれます。