最近、追加経済対策の財源として、「政府紙幣」や「相続税減免付き無利子国債」の発行を求める声が、自民党内や一部マスコミに高まっています。
参考写真 2月6日には、自民党本部で「政府紙幣・無利子国債(相続税減免措置付き)発行を検討する議員連盟」の設立準備会合が行われました。「100年に1度の危機には100年に1度の対応が必要だ。プラス、マイナス両面をよく検討し、政治家として強い意志と覚悟をもって進めていきたい」と、菅義偉元総務大臣は強調。自民党の起死回生の選挙対策とも言われ、様々な議論が今後巻き起こることは必至の状況です。
 そもそもこの2つの政策は、元財務官僚で竹中平蔵元総務相のブレーンである元財務官僚の高橋洋一東洋大教授らが提唱しました。「政府紙幣」は、現行の日本銀行券とは別に政府が発行する紙幣で、財政赤字を出さずにデフレ防止・インフレ誘導でき、経済活性化に効果があるといわれています。そもそも、現在発行されている硬貨は日銀が発行した貨幣ではありません。「日本国」との刻印があるように、これが政府発行の貨幣です。一方、「相続税減免国債」は、利息を付けない国債を発行し、それを相続目的で所有してもらおうとする考えです。「相続税減免国債」には、相続税を減免(または非課税)とすることにより、高齢富裕層の「眠っている資産」を市中に引き出す効果が期待されている。
 しかし、「政府紙幣」は、市中の混乱を招きかねない上、日銀が引き受ければ、無利子・無期限国債を日銀に引き受けさせることと同じ意味となることもあり、問題が多いとされています。さらに、「相続税減免国債」も一部の資産家だけにその高架が限定されるため、「金持ち優遇政策」と批判があることも事実です。
(写真は、政府紙幣「板垣退助50銭」昭和23年3月10日発行)
 2月12日、公明党茨城県本部の石井啓一県代表(衆議院議員)は、財務金融委員会で中川昭一財務・金融担当大臣に対して、「政府紙幣」ならびに「相続税減免国債」について質疑を行いました。


政府紙幣の発行について

参考写真 石井衆院議員は、「政府紙幣の発行というのはどういう政策なのか。内外の事例や問題点はどうなのか。この点について政府参考人に説明していただきたい。その上で、財務大臣の見解を伺いたい。」と、答弁を求めました。
佐々木豊成財務省理財局長
 「政府紙幣」ということにつきましては、日銀が発行しております銀行券に加えまして、政府も紙幣を発行し、これを財源といたしまして景気対策に取り組むというようなご意見ではないかと考えております。
 内外の事例につきましては、まず、我が国におきまして、明治維新当初、政府が太政官札を初めとする各種の紙幣を発行しておりましたが、これらの増発がインフレを招いたために、これを克服する手段の一つとして日本銀行が設立されまして、紙幣の発行権限はこれ以降日銀に集中されるということになりました。
 主要国を見ますと、我が国と同様に、政府が紙幣を発行する、それから中央銀行が銀行券を発行するという体制になっております。ただ、シンガポールなどにおきましては、中央銀行の役割を果たす政府機関のシンガポール通貨庁が紙幣を発行している、こういう例がございます。ただ、これらの紙幣は、中央銀行による銀行券の発行と並行して発行しているというものではございません。
 問題点でございますけれども、まず、政府紙幣が市中で銀行券と並行して流通するといった場合には、政府紙幣が金融機関からさらに中央銀行と還流してまいりましたときに、政府が引き取るための財源が必要となります。いずれ、政府が引き取るときの財源が必要となり、また、還流してこないように政府紙幣を日銀で保有しておきなさいというようなことをいたしますと、これは、無利子、無期限の国債の日銀引き受けと同じでございまして、戦前戦中の日銀引き受けによるインフレに対する反省から設けられました財政法第5条の趣旨に反することになると考えております。
参考写真 さらに、中央銀行と並行して政府が紙幣を発行するというのは、世界的に見て異例でございまして、二種の紙幣が発行され併存するということに伴う混乱を招きかねないというほかに、安易な発行に流れまして財政規律を失うおそれがあるなどの問題点があると考えております。
中川財務・金融担当大臣
 今の緊急経済対策の中に政府紙幣なるものを発行するというような考えは、私の頭の中にはございません。


無利子非課税国債について

 石井衆院議員は、「利子がつかないかわりに相続が免除される無利子非課税国債について、省庁横断の勉強会がもたれていると報じられているが、どういう検討をしているのか、また過去の事例や問題点について、政府参考人に伺いたい。その上で、今後の取り組みについて財務大臣に伺いたい」と、答弁を求めました。その上で、「相続税非課税となると、対象が非常に限定される。少数にメリットのある政策をやることについては慎重に考えた方がいい」と、指摘しました。
川北力財務省大臣官房総括審議官
 現下の経済金融情勢におきまして家計金融資産の有効活用を図っていくためにどのような方策があり得るかということにつきまして、先般、関係省庁の課長クラスで集まって、幅広く勉強することといたしております。この勉強会では、無利子の非課税国債を含めまして、さまざまな活用方策ということについて幅広く意見交換をしているところでございます。
竹下亘財務副大臣
 相続税が非課税になる国債といたしましては、1950年代のフランスにおいて、保有者が死亡した場合に相続税を課さないという特典を付したいわゆるピネー国債が発行された例がありますが、このピネー国債に対しましては発行当初から、租税回避の手段として用いられるのではないか、もちろん金持ち優遇という批判もその一方でございまして、それ以降は相続税非課税の優遇措置を付した国債は発行されておりません。
 また、1973年には、ピネー国債は、相続税を課税する新ピネー国債へ強制借りかえされたものと承知いたしております。
中川財務・金融担当大臣
 現に市中にあるお金、とりわけほとんど利子のついていない要求払いの預金でありますとか、あるいは場合によってはいわゆるたんす預金的なものをぜひこの際活用する。有効にそういうお金を、多分政府が借りてということにつきましては、その趣旨そのものは私は否定をしておりません。
 今、政府部内でも、また各党間でもいろいろな御議論があっていいんだろうと思います。