臨界事故基金、医療中心8割活用
茨城新聞(2009/03/02)
来年度、防災ヘリ更新も
1999年9月に発生した東海村臨界事故の後、県が国の交付金で創設した「原子力安全等推進基金」の残りが15億円となった。これまで原子力に対する負のイメージをぬぐい去るのを狙いに、医療を中心とした分野に活用してきた。総額95億円の基金は、来年度までに8割以上が使われる予定で、残りは2012年度までの運用を国から求められている。
県によると、同基金は、臨界事故後に国が支出した事故対策などの交付金で、03年度までに総額95億円となった。
臨界事故の直後、本県産の農産物などが売れなくなり、宿泊・観光施設も予約のキャンセルが相次ぐなどの風評被害が発生。当初、同基金が対策費に充てられた。また、基金のうち3億円は00年度から、東海村と那珂市の住民を対象に、不安を解消するための毎年の健康診断費用として使われている。
県議会で現在審議されている来年度予算案では、老朽化した日立製作所水戸総合病院(ひたちなか市)の建て替え補助を計上。同病院は地域の中核病院として災害、救急医療の機能を強化するほか、改築後は新たにリニアック(線形加速器)を整備する予定だ。
さらに、救急搬送件数が急増している県立中央病院(笠間市)の救急センター整備、95年に導入され臨界事故で患者を搬送した防災ヘリコプター「つくば」の更新なども盛り込まれた。
これまでの使途はさまざまだが、県立中央病院のリニアックを増設するなど基金活用の狙いの一つである医療放射線の施設整備に有効活用された。東海村で昨年末に稼働した大強度陽子加速器施設(J―PARC)に関しても、産業利用促進を目的とした研究センター整備費として使われている。
当初は、基金を一括して活用する構想も検討された。放射線を利用した最先端のがん治療施設「FFAG加速器」の建設は、予算の範囲内で実用化の見通しが立たないことから、06年9月に断念したという。
「県財政は未曾有の危機であり、基金がなければできない事業ばかり」(県幹部)。県は医療関連の施設を整備することで万が一の原子力災害に備えるとともに、放射線治療施設を整備し基金の目的を果たす考え。基金の残り約15億円についてもこれまで同様の使途を検討していく。

基金の醸成当初は、臨海事故への対応という意味合いからも、医療分野に放射線を活用する試みへの支出が検討されました。国の高エネ研(高エネルギー加速器研究機構:KEK)との連携の中、「FFAG加速器」の研究が進められました。FFAG加速器は、一秒に何千回という連続照射ができ、操作の調整も簡単で、構造的に小型の加速器も作ることができるようになります。県は、FFAG加速器を使った粒子線治療施設建設を、原子力安全基金を活用して整備することを検討してきました。
しかし、このFFAG型加速器の開発には相当の時間と費用がかかることがわかりました。また、全国各地の主要病院で、従来型の陽子線治療機が相次いで導入され、茨城県で導入した場合の採算性などに懸念が示されました。
こうした経緯を経て、2006年9月16日に行われた井手よしひろ県議の一般質問に対し、橋本昌知事が「(井手)議員のご指摘にもありましたよう、近年、粒子線治療以外にも患者の身体的負担の少ない、たとえば強度変調放射線治療(IMRT)が可能なリニアックやトモセラピ、定位放射線治療が可能なリニアック・CTやサイバーナイフなど、高度な放射線治療の実用化が進んでおります。県といたしましては、これらの高度放射線治療施設なども視野に入れながら、原子力安全等推進基金の使途を検討してまいりたい考えております」と答弁し、原子力安全基金の使途については、現実的な医療や防災、地域活性化への投資に方向転換が図られました。

また、東海村で08年12月に稼働したJ―PARC(大強度陽子加速器装置)の産業利用促進を目的とした「いばらき電子ビーム研究センター」を、旧NTTネットワーク研究センターを譲り受け、再整備する費用として使われました。(基金活用約9億円)
また、医療分野では、放射線医療の充実を図る観点から、県立中央病院に放射線治療装置(リニアック)を1機増設するために、約36億円が活用されました。
また、21年度予算には、救急搬送件数が急増している県立中央病院に「救急センター」を整備するために、17億8000万円の予算が計上されました。(平成21年度は4億8900万円)
また、ひたちなか市の日立製作所水戸総合病院の建て替え補助を、原子力安全基金をから支出する予算を計上しました。日製水戸病院は地域の中核病院として災害、救急医療の機能を強化し、新たに放射線治療装置を整備するために基金から4億円を支出する計画です。
また、防止体制の整備では、阪神淡路大震災を契機に1995年に導入され県の防災ヘリコプターの更新を行うための費用として2億円(総額は9億9900万円)を予算化しました。
こうした活用事業のために、平成21年度末での基金残高は、約15億円程度となります。残金に関しては、国との取り決めにより平成24年度までに使い切る方針です。
井手県議らは、医療設備の充実や防災機能の充実に、原子力安全基金を活用することは、その目的にかなうと主張してきました。さらに、こうした県民の命と健康を守る取り組みに、地域格差を助長させてはならず、ドクターヘリや防災ヘリの充実が不可欠であるとも強く主張してきました。
防災ヘリの更新が予算化された現在。ドクターヘリの早期導入が求められています。
(写真は、臨界事故当日夜の被爆線量調査[1999/9/30])