再生へゆっくり進行<ひたちなか海浜鉄道開業1年>
茨城新聞(2009/5/13)
 ひたちなか海浜鉄道が開業から1年を迎えた。初年度の2008年度は年間利用者数が75万人まで回復、運賃収入もわずかながら前年度を上回った。足取りは緩やかながら、再生に向け、まずまずのスタート。吉田千秋社長は「いよいよ2年目。勝負の年」と意気込む。
 「沿線にのどかな風景が広がり、旅気分が味わえる」。先月29日に開かれた同鉄道一周年記念イベントで、観光案内などのアナウンスを担当した市親善大使の茨城大四年、内山聡子さん(22)は鉄道の魅力を話す。
 ひたちなか商工会議所の井上薫副会頭は変化を「以前は窓がほこりだらけだったが、最近はきれいになった」と行き届いた清掃に見いだしている。
 市が出資する三セク新会社として再スタートした海浜鉄道の滑り出しはまずまずだ。
 市湊鉄道対策協議会が国に提出した再生計画での利用者数の目標は68万人。初年度はこれを7万人上回り、07年度に比べ4万5千人増えた。
 旅行会社と連携して観光バスでの行程の一部に海浜鉄道乗車を組み込む企画も好調。「75万人は予想以上」と湊線存続を訴え続けた本間源基市長も評価する。
 運賃収入も約1億7700百万円で前年度をわずかながら上回った。決算では数100万円の赤字だが、鉄道資産の減価償却費の影響が大きく、実質的には経営が成り立ちつつある。
 地元の高校を今春卒業した新入社員も採用。吉田社長は「地域で経営が永続する会社と見られるようになった」。
 ただ、通学定期が持ちずかに上向いていた反面、過去2年わずかに上向いていた通勤定期は減少に転じた。「これからが正念場」と関係者は口をそろえる。
 安定的な利用者確保の鍵を握るのは鉄道本来の利便性だ。本間市長は「日ごろから乗ってもらえる人たちのサービス向上は欠かせない」と注文を付ける。
 海浜鉄道は3月に実施した初のダイヤ改正で、勝田発の最終列車を従来より46分遅い午後11時6分に設定。これまで指摘されていた終電時間帯の早さの解消にも動いた。
 「ダイヤ改正はサービスそのもの。改善の積み重ねで利便性を向上させる」と吉田社長は強調。本年度は金上駅に行き違い施設を整備、待望の運転本数増が視野に入る。
 また、鉄道再生を地域活性化と連動させるため、市観光協会や商店街などとの関係も強化する方針だ。
 苦戦が続く全国のローカル鉄道。国交省も海浜鉄道の成否に注目する。吉田社長は「海浜鉄道とひたちなか市が全国のモデルとなるよう努めたい」と力を込める。

参考写真 4月1日に開業1周年を迎えた「ひたちなか海浜鉄道」(勝田〜阿字ケ浦間、14.3キロ)の1年間の輸送人員と運賃収入が、前年を上回るすばらしい結果となりました。
 ひたちなか海浜鉄道によると、昨年4月から今年2月までの輸送人員は75万人で前年を4万5千人上回りました。定期券客は41万8千人と前年並みでしたが、開業効果もあり一般乗客が、16%増え33万2千人になりました。一方、旅客収入は1億7704万円で前年を370万円程上回りました。一般客収入は前年を3%上回りましたが、定期券収入が前年99%とわずかに下回りました。
 開業一年目でのこの成果は、ひたちなか海浜鉄道関係者の努力の結果であり、同時に、湊線を守るために努力されたボランティア、地域住民、ひたちなか市の行政・観光・商工関係者の支援のたまものです。中でも、吉田千秋社長の手腕は高く評価されてもいいと思います。
参考写真 ひたちなか海浜鉄道は、08年3月までは、茨城県を代表するバス会社であった茨城交通が運営しており、「茨交(いばこう)湊線」の愛称で永く親しまれていました。
 しかし、経営難に陥った茨城交通は、05年末に地元ひたちなか市に、08年3月限りで湊線を廃止する意向を示します。同時期に廃止が表明された日立電鉄(日立市〜常陸太田市)、鹿島鉄道(石岡市〜鉾田市)が地元自治体の充分な支援を受けられず消えていった中で、湊線は、ひたちなか市が財政支援を視野に入れて存続を求めました。県も、地元自治体の動きに呼応し、存続に協力する姿勢を貫きました。地元住民の間でも、「おらが湊鐵道応援団」を結成するなど、存続へ向けての具体的な動きが展開されました。
 その結果、茨城交通は07年3月に提出予定だった廃止申請を見合わせ、財政面でも、当初5年間で5億円と言われた赤字が、1億円程度まで圧縮できる見通しが示されました。ひたちなか市と茨城交通は、交渉を重ね、07年9月、ついに第三セクター鉄道として存続することが決定しました。
 第三セクターのスタートにあたり、湊線では全国から社長を公募するというユニークな手法を取り入れました。その結果、富山県高岡市と射水市を結ぶ路面電車「万葉線」の再生に活躍した吉田氏(前職:万葉線株式会社総務課次長)が就任することになりました。そして、社名も公募で「ひたちなか海浜鉄道」に決定。08年4月1日、ひたちなか海浜鉄道は新たなスタートを切りました。