八ッ場ダム、中止公約の民主は候補見送り
読売新聞(2009/8/14)
 群馬県長野原町の八ッ場(やんば)ダム事業中止を、民主党が政権公約(マニフェスト)に掲げる。国は秋から本格工事に入る予定で、争点に急浮上。
 ところが、水没予定地のある群馬5区で、民主は候補者の擁立を見送った。地元住民は何とも、やり場のない思いだ。
 群馬5区は、自民党の小渕優子・少子化相(35)、社民党の土屋富久氏(72)ら3人の争いとなる見通し。民主はダムに反対する社民と選挙協力し、候補を立てない。民主は「政権交代すれば中止できるのだから、共闘して過半数を取るほうが大事だ」とする。
 小渕氏の選対顧問の高山欣也・長野原町長が今月6日、民主党本部に姿を見せた。鳩山代表にあてた要請書を持参していた。「ダム中止は地元住民の心情を全く無視したもの。地元住民は疲れ切っている」。中止撤回を求める内容だった。しかし、要請書を鳩山代表に直接手渡すことはできず、職員に託した。高山町長は訪問の意図を、「政権交代も想定し、地元首長としての意思表示をしておかなくてはという思いからだ」と語った。「中止方針は変わらないが、地域と相談の上で進める」と説明を受けたといい、「政権が代わった時の対応は、別途考える」と述べ、党本部を後にした。
◆睡眠薬手放せぬ住民も◆
 水没予定地の川原湯温泉街で土産物店を営む樋田三恵子さん(80)は「選挙後を考えると眠れなくて、睡眠薬が手放せない。50年以上、嫌な思いをしてきた。暗いトンネルをようやく抜けられそうなのに……」と漏らす。計画が持ち上がってから半世紀の時が流れた。事業費3200億円が既に投じられている。
 閣僚の小渕氏には応援要請が相次ぎ、選挙区内を回る余裕はない。土屋氏は社会保障政策に焦点を当てる。双方の陣営は、地元でダム問題に触れる機会はほとんどない。
 飲食店を営む男性(63)は「民主は候補者を立てれば、白黒はっきりできた」と語る。旅館業の男性(45)は「民主の候補がいないのはおかしい」と釈然としない。食品製造業の男性(57)は「勝ち目がないので(候補を)出せないのは、何となく理解できる」と話した。
 代替地へ6月に引っ越した男性会社員(43)は「ダムを止めると言うが、どうやって止めるのだろう。地元の票は参考にされず、結果だけを受け入れるのか……」とため息をついた。
 注目される争点の現場。住民は空白地帯に置かれたようになっている。

参考写真 民主党は“地方自治”という言葉をどのように理解しているのだろうか。国が群馬県長野原町で建設計画を進めている八ッ場ダムについて、民主党が次期衆院選の政権公約(マニフェスト)で、中止を掲げたことを巡り、関係する都県の知事から反発の声が相次いでいます。
 八ッ場ダムは、事業費4600億円のうち、群馬県や水の供給などを受ける東京都、埼玉県、栃木県、茨城県、千葉県の5都県が約10億〜約950億円を負担しています。2015年度の完成を目指し、この秋からようやく、本体工事が始まることになています。
 7月28日には、上田清司埼玉県知事が定例記者会見で、「極めて無責任」と強く批判しました。30日には、水没予定地区住民の移転地造成やJR線の付け替え工事が進む群馬県の大沢正明知事も、「地元の知事の話を一度も聞かずに中止と載せた」と民主党の対応に反発しています。 
 さらに、東京都の石原慎太郎知事は、31日の定例記者会見で、世界的な異常気象で予期せぬ渇水に備える必要があり、関連事業も進んでいるとして、「かなりの巨費を投じて進行中の工事を止めるというのは、結果として大きな無駄にしかならない」と述べました。
 同じ31日には、千葉県の森田健作知事がダム本体工事予定地や住民の移転代替地などを視察しました。「千葉にとっても治水・利水の面で(八ッ場ダムは)大変重要。鳩山代表も政権を取ったら、現実的に考えるのではないか」と語っています。
 八ッ場ダムを巡っては、市民団体のメンバーらが6都県の知事らを相手取り、事業負担金の支出は違法として支出差し止めなどを求めた訴訟が行われています。すでに、東京地裁など3地裁で、災害軽減などダムの役割を認めて、原告側“敗訴”の訴えを退ける判決を出しています。
 その上、ご当地である群馬5区には民主党の候補を立てないという無責任ぶり。そこの住む住民の直接の意思はどのように汲み取る考えなのでしょうか?
 井手よしひろ県議は、昨年7月八ッ場ダムの現場を訪問。地元首長や住民代表から生の声を聴取しました。「民主は候補者を立てれば、白黒はっきりできた」と語る住民の姿をそこに垣間見ることが出来ました。(写真は昨年7月に行った八ッ場ダム建設予定地の茨城県議議会公明党議員団の現地調査)
民主党県議団は八ッ場ダムに賛成の大きな矛盾
 一方県内の民主党の対応に目を向けてみると、民主党の県議団は八ッ場ダム関連事業の県負担を求める議案に賛成をしてきた事実があります。2004年の定例県議会では、県が八ツ場ダム建設にかかる負担金の大幅増を受け入れることに、民主県議団は賛成しました。
 8月9日付茨城新聞には、民主党県連幹事長の長谷川修平県議は、「民主党本部は無駄な公共事業の象徴として八ツ場ダムを『中止』と一言で済ませるが、暫定水利権などの善後策をどうするのか。われわれにヒアリングも説明もない」と述べています。
 茨城県は、既に八ッ場ダムの事業に192億円を拠出し、完成を前提にした暫定水利権を得て利根川から取水し県南西地域の水道水の一部に使っています。仮に事業が中止され、暫定水利権が消滅し、取水できなくなったら大きな問題になることは火を見るより明らかです。
 大規模公共事業は全て“悪”とのステレオタイプで、有権者からの支持を得ようとする民主党の考え方は実に安直です。マニフェストに八ッ場中止をうたうからには、まず党内の意見を集約することが必要です。
参考:「群馬県八ッ場ダム建設予定地を現地調査」