農産物例外はあり得ず 農家に致命的な打撃
参考写真 民主党の小沢一郎前代表は、筋金入りの“自由貿易論者”です。近著でも「自由経済・市場開放の観点から、相手が本当に自由な貿易を望むなら農産物の輸入も自由化すべきだ」(『小沢主義』)と主張して、はばかりません。
 海外から安い農畜産物が入ってくると、国内産の市場価格は軒並み下落します。そうした懸念に対しては、「すべての農産物の輸入を自由化したとしても、きちんとした対策を講じていれば、それで日本の農家が困ることはない」と断言してます。小沢氏によると「きちんとした対策」とは、市場価格が生産費を下回った場合に差額を補てんする「不足払い」です。今、民主党が掲げている農家への戸別所得補償制度のことです。
 2007年の参院選向け同党マニフェストには、貿易自由化と戸別所得補償制度を一体として推進することが明記されていました。両者は、言わば“車の両輪”だったのです。しかし、参院選で同党は貿易自由化を表に出さず、戸別所得補償による全販売農家への支援だけを訴えました。政府・与党の品目横断的経営安定対策に対する“小規模農家切り捨て”批判に、巧みに便乗した結果です。
 当時、どれだけの農家が、貿易自由化と戸別所得補償が一体的な政策であることを理解していたでしょうか。民主党は、戸別所得補償という片方の車輪だけで地方の農家票の取り込みに成功し、参院での与野党逆転を果たしました。
 今回の衆院選に際し、最初に公表された同党マニフェストは、戸別所得補償の対象拡大に加え、貿易自由化路線をさらに鮮明にした。世界屈指の農産物輸出国である米国と自由貿易協定(FTA)を締結する、と明確にうたったのです。
 あまりにも唐突な「日米FTA締結」に対して、農業者から不安と怒りの声が相次ぐと、民主党はマニフェストの「締結」を「交渉を促進」に修正しましたが、貿易交渉から農産物を外すとは明言していません。
 すべての貿易を対象とし、10年以内に関税を撤廃するのが、FTAの原則です。米国からの日本の輸入総額のうち、農林水産品が約3割を占めます。これだけ大きなウエートを占める農産物を最初から例外扱いするFTA交渉など、あり得めせん。どうすれば、そういう変則的なFTA交渉が可能になるのか。民主党には説明責任があります。
 万が一、農林水産品の関税が撤廃された場合には、国内農家は一挙に国際的な市場競争の嵐に襲われます。食料自給率の低下も必至です。戸別所得補償を行っても、国際競争に耐えることができるのは、ほんの一部の農家だけです。
 国内には競争力のある農家だけを残し、海外からの食料調達を安定化させる、それが民主党の本音です。まさに“行き過ぎた市場原理主義”と言わざるを得ません。