医療提供体制の充実に向けて:土浦協同病院藤原秀臣病院長
土浦協同病院 9月17日、県議会保健福祉員会は閉会中審議を行い、茨城県の医療の課題や医師臨床件数制度などについて参考人からの意見聴取を行いました。
 午前中の参考人聴取は、土浦協同病院の病院長藤原秀臣氏。日本の医療の課題や茨城県の問題点などについて、具体的にご指摘をいただきました。
 意見聴取後に行われた意見交換で、井手よしひろ県議は後期高齢者医療の課題について、藤原病院長の見解を尋ねました。藤原病院長は、「後期高齢者医療制度の導入に背景には、お年寄りに医療費を削減することにあったことは間違いない。一定の年齢を切って高齢者を別立ての医療保険制度に加入させること自体に問題があるのではないか。国保や組合健保からの負担金も高額に上っています。若い人がお年寄りに医療費の負担分かち合うという当たり前の制度に戻すべきではないか。保険料が払えないと保険証を募集されるような制度もいかがなものかと考える。(後期高齢者医療制度を)いったん廃止するという新政権の方向性は間違っていないと思う」と、述べました。
 それに対して、井手県議は「確かに後期高齢者医療制度が、医療費削減を目指した部分も否定できない。一方、お年寄りの多くが加入していた国民健康保険は財政的に破綻の危機に瀕しており、市町村の財政力によって格差も拡大している。また、後期高齢者医療制度に移行して、所得が一定額以下のお年寄りは、保険料が数分の一に減少している。後期高齢者医療制度を廃止して、もとの制度に戻すだけでは問題を深刻化させるだけではないか」と質しました。
 藤原病院長は「まさにその通りであり、後期高齢者医療の見直しには、その受け皿となる保険制度の再構築も含めて、慎重に時間をかけて、社会的な同意を得ながら進める必要がある」と答えました。
 まず、後期高齢者医療制度を廃止するという看板を掲げる民主党の新政権の政策を考える上でも、現場の医師からの貴重な意見をうかがえたと思います。現在、市町村ごとに運営されている国民健康保険を、県単位に再編し、国の財政的関与を増やすなどの構造的な改革がどうしても必要となるという点を確認させていただきました。
 さらに、医療費負担に関する国の支出がOECD諸国では最下位であるとの指摘もあり、限られた財源を医療に優先的に配分する必要があることを実感しています。しかし、その財源の多くは消費税で賄う必要が今後増大します。その消費税を、新政権は年金財源に特定しようと検討しています。医療の財源をどこに見いだすか、整合性にある議論が必要になっています。
医師臨床研修制度について:水戸医療センター山口高史統括診療部長
国立病院機構水戸医療センター 午後からの参考人聴取は、国立病院機構水戸医療センターの山口高史統括診療部長より、医師臨床研修制度の現状や課題などについて意見を伺いました。
 平成12年(平成16年4月施行)の医師法の一部改正により、2年間の初期臨床研修制度が実質的に義務化されました。この改革により、研修医の基本的な臨床能力が向上したことや、研修医の待遇が改善されたなどのメリットも生まれましたが、地方の大学病院を志望する研修医が減少するなど、研修医の偏在が顕著になりました。地方の医師不足の要因の一つにあげられています。
 意見交換では井手県議が、「現在茨城県では医師不足対策として、医学生への奨学金制度の拡充や寄附講座の開設などを行っていますが、その効果をどのように認識しているか」と、山口部長の見解を尋ねました。
 山口部長は、「寄附口座や奨学金制度の効果を短期的に見ることはできない。既存の医学部や医学生への支援を重要だが、地域の高校生をいかに、より多く医学部に送り出すか、その体制を強化することが大事ではないか」と、指摘しました。
 さらに、「人口減少社会に入った日本は、10年先、20年先も医師不足が続くのか」との井手県議の質問には、「日本の医療は崩壊するといった表現が良く聞かれるが、世界的に見ても、日本の医療水準はトップクラスにあることは事実。胃の内視鏡検査は、日本では数千円でできるが、アメリカでは10万円以上かかる。イギリスで劇症肝炎の治療を行おうとすると、医療費は無料だが、診療を受けるのに1年近く待たるされる場合もある。80歳以上のお年寄りに、新たに人工透析を行うのは日本だけかもしれない。医療サービスの範囲とその負担のあり方を見直すことが必要。医師の適正な数は、その医療の必要なサービスのあり方が議論されない限り出てこない問題である」と語りました。
 県の医療行政に責任を持つ保健福祉員会としては、現場の医師の声を聴く、大変有益な参考人からの意見聴取となりました。