民主、議員立法を原則禁止 全国会議員に通知
朝日新聞(2009/9/19)
 民主党は9月18日、政府・与党の二元的意思決定を一元化するため、議員立法は原則禁止し、法案提出は原則、政府提案に限ることを決め、同党所属の全国会議員に通知した。政策決定がスムーズになり、族議員の誕生を防ぐといった効果が期待されるが、政治主導が不完全なままでは従来の政府見解にとらわれて自由な立法活動が阻害される可能性もある。
 民主党は、自民党政権では党内の事前審査を経ないと政府が法案を提出できないといった弊害があったとして、政府・与党一元化を主張しており、すでに党政策調査会の廃止が決まっている。これにより、族議員の関与で法案の内容がゆがめられたり、法案の提出が遅れたりすることがなくなるとみられている。
 議員立法が認められる例外として「選挙・国会など議員の政治活動に係る、優れて政治的な問題」にかかわる法案とした。公職選挙法や政治資金規正法の改正案といった「政治とカネ」の問題に関連する法案などが該当するとみられる。
 ただ、議員立法がこうしたケースに限られ、原則禁止されれば、超党派や党内有志による立法活動ができず、政策決定の幅がこれまでより狭まる可能性がある。例えば、改正臓器移植法や水俣病救済特別措置法など今年の通常国会で成立した弱者救済にかかわる法律は有志議員によって成立にこぎつけた。臓器移植法は党議拘束を外すことで採決が可能になった経緯もある。だが、議員立法の原則禁止により、こうした法案の提出が難しくなる恐れがある。

 政権交代後の民主党の動きは、私たちの常識を遙かに超えるものとなっています。そもそも「議員立法」は、国会議員自らが法律案を作成し、国会に提出することです。基本的に衆議院では20名以上、参議院では10名以上の議員の賛同者がいると、政府(内閣)の意向とは関係なく法律案を国会に提出することが出来ます。
 重要な法案でも、議員立法で提出されているものも多く、古くは、優生保護法(現在の母体保護法)、文化財保護法、人身保護法、精神衛生法(現在は精神保健及び精神障害者福祉に関する法律)、覚せい剤取締法などが議員立法で成立しています。近年では、薬害肝炎救済法、特定調停法(企業再建の一手法である特定調停の手続きの根拠法)、ストーカー規制法、特定非営利活動法人法(NPO法)、政治資金規正法など、国民生活のも関係の深い法律がたくさんあります。
 民主党は、党サイドに政策を立案したり、検討する部門を持っていません(民主党は政策調査会を廃止しています)。党は政府に多くの議員を送り込み、政策決定を一元化させることによって、国の政策決定を機能的に強化できるとしているわけです。
 しかし、これはかえって、少数の民主党幹部による内閣と立法府の占有と言うことになりはしないでしょうか?
 民主党内の多様な意見や、場合によっては少数意見であっても野党との間で建設的な法案が生まれる可能性を摘んでしまうやり方です。
 今回の議員立法の禁止は、いいかえれば民主党執行部、しいては鳩山=小沢の了解なしには、民主党所属議員は一切の立法を行えないということになるわけです。小沢チルドレンを代表とする、民主党の新人議員はまさに賛成のための挙手をするロボットと化したわけです。
 評論家の立花隆氏が、静岡新聞に「鳩山新内閣発足」という上・下の評論を投稿しています。
識者評論「鳩山新内閣発足」上・「脱官僚依存」の危機
静岡新聞/評論家立花隆(2009/9/18)
参考写真 だいたい、マニフェスト、マニフェストとしかいえない政治家たちは、一見「脱官僚依存」したようで、マニフェストを作った「党官僚」への依存を強めただけではないのか。政治家にとって一義的に重要なのは、自立心であり、自分の考えを持つことだ。議員の党官僚への過度の依存は党官僚組織を強大化し、かつてのスターリンのような党書記長職の権力を一方的に高めてしまう。これはキケンだ。

識者評論「鳩山新内閣発足」下・永久闇将軍的権力の確立
静岡新聞/評論家立花隆(2009/9/19)
角栄超える小沢幹事長
 民主党の場合、スターリン的な党組織の専制政治化がすでにもたらされているのではないか。この場合、書記長ではなく幹事長と呼ばれているが。
 今回の選挙の最大の立役者として、幹事長小沢一郎の功績が大きく評価され、参院選も彼が中心的に仕切ることになった。すでに民主党内の小沢の影響下にある議員の数は150人になんなんとして、ゆうに一つの政党以上になっている。日本の政治史上、これにならぶ数の力を一身に具現したのは、全盛時代の田中角栄だけである。あの時代、田中は自民党の総裁すなわち日本国の総理大臣の首を次から次にすげかえ、希代のキングメーカーといわれた。
 この勢いで参院選でも小沢の勢力がふえると、小沢は民主党の代表の首を自由にすげかえることが可能になり、民主党を足場にした小沢の永久闇将軍的権力が確立することになる。田中の秘蔵っ子といわれた小沢の政治家のモデルは田中角栄である(とくにその政治力の行使の仕方において=自分の思い通りに政治を動かそうとする欲望の強さにおいて)。そこまでいくと、小沢は師をしのぐことになる。
 民主党のプランによると、官僚組織の中に多数の政治家を副大臣とか政務官などの形で送りこむことになる。それと、国会の各常任委員会を多数派として支配することを通じて、官僚組織を完全にコントロールできる体制をととのえるのだという。
 そうなると、世界最強といわれた日本の官僚組織が小沢の完全コントロール下におかれるわけだ。そのような未来を予知させる事態がすでに出現している。官僚の力をそぐために、事務次官など官僚組織のトップが独自の記者会見をすることが禁止された。官僚の情報発信力を奪ってしまうわけだ。官僚組織のトップたちの集まりであった事務次官会議もつい最近廃止された。官僚たちの内部的自己調整機能を奪うわけだ。
 事務次官会議を仕切るのは事務方の官房副長官で、影の総理大臣と呼ばれてきた。麻生政権最後の官房副長官は元警察庁長官の漆間巌で、彼は、民主党代表だった小沢の西松建設からの献金問題が起きたとき、「この事件は自民党には波及しない」とのイレギュラー発言をしたことで、民主党(つまりは小沢一郎)の怒りをかっていた。今回事務次官会議廃止でクビを取られたのもそのせいだろうといわれている。
 西松建設事件の影響は他にもある。あのとき、小沢に民主党代表を辞任すべしとアドバイスした民主党長老が一人は渡部恒三、もう一人は藤井裕久だった。渡部は今回の人事で衆院議長確実といわれたのに外された。藤井は財務大臣確実といわれたのに一時は外されかかった。それもあの辞職勧告のためといわれた。
 ともかく、今回の人事で閣僚人事も、党役員人事も基本的に小沢の圧倒的な影響下で決されていったと伝えられている。これから民主党の政治家たちはみな小沢の影響下におかれざるをえないし、日本の官僚組織のすべても小沢の意向を気にしながらことを決めていくことになるだろう。岩手小沢王国で起きたことがこれから全国規模で起きていくことになるのではないか。
 そんな世の中になったらたまらんなと思う。一見清新な鳩山政権の誕生も素直には喜べない。

参考写真 立花氏は小沢幹事長をスターリンに喩えたが、ワイマール憲法下のドイツにおけるナチスの台頭にも、相通じるものがあるように私には思えてなりません。1932年、民主的な選挙で第一党になったナチスは、立法権を一元的に掌握。政府が都合の良い法律を次々と成立させていきました。その最たるものが「全権委任法」でした。民主党が言い出した「議員立法の原則禁止」「行政府の党幹部による支配」は、ナチスによる全権委任法に通じるといったら、言い過ぎでしょうか?
「マニフェストの熟読を」―長妻厚労相が訓示
医療介護CBニュース(2009/9/17)
 鳩山新内閣の長妻昭厚生労働相は9月17日、厚労省に初登庁した。舛添要一前厚労相からの事務引き継ぎの際には、少し緊張した面持ちだったが、その後の訓示では、民主党の衆院選マニフェスト(政権公約)の冊子を手にしながら、「政権が交代した今、ある意味では、国民と新しい政府との契約書、あるいは命令書と考えてもよいと思う。厚労省所管の部分を熟読し、どうすれば実行できるか知恵を出してほしい」と、約1000人の職員を前に訴えた。

参考写真 民主党幹部の奢りの姿を垣間見たのは、9月17日の長妻昭厚労大臣の職員への訓示。民主党のマニフェストを高く掲げながら、「(このマニフェストは)国民と新しい政府との契約書、あるいは命令書」と語る映像はにはゾッとさせられました。民主党の言う脱官僚化とは、党幹部の意思を一義的に官僚にも押しつけ、それに反するものは首を切るとの強い姿勢の表れなのでしょうか。
 民主党の暴走を止めることができるのは、有権者である国民だけです。心して、新政権を監視していいただきたいと思います。
(上、中の写真はいずれも管理者の責任で挿入したイメージ写真です。下の写真は、テレビ画面からのキャプチャーです)