八ッ場ダム中止 公約至上主義には無理がある
読売新聞社説(2009/9/24)
 民主党の政権公約(マニフェスト)墨守の危うさが、最初に顕在化した例といえよう。 国土交通省が群馬県内に建設中の八ッ場(やんば)ダムのことである。
 民主党は衆院選のマニフェストで、無駄な公共事業の実例としてこのダムを名指しし、政権交代後の建設中止を明記していた。
 前原国交相は就任直後、公約通りダム建設中止を宣言したが、建設推進を求める地元住民らの意向を無視した一方的な発表だったことで、反発が一気に広がった。
 この動きを受け前原国交相は、地元の理解が得られるまで中止の法的な手続きを始めないと表明した。だが、中止の方針自体は変えなかったため、地元の憤りは収まらなかった。
 23日には、現地で開かれた前原国交相との意見交換会を、住民がボイコットする騒ぎになった。
 八ッ場ダムに対しては、治水や利水の恩恵を受ける周辺1都5県も建設続行を求めている。公約に掲げたからといって、中止を強行できる状況ではない。
 事態がここまでこじれた以上、前原国交相は建設中止発言を撤回し、白紙の状態で自治体や住民と話し合うべきではないか。
 それと並行して、ダム建設のメリット、デメリットを慎重に再検討し、政府としての最終方針を決めても遅くはあるまい。
 50年以上前に計画が持ち上がった八ッ場ダムに対し、地元住民は最初、反対の立場だった。だが、国との長期間の話し合いの結果、次第に住民も軟化し、2000年代に入ると、水没予定地の住民は次々と移転に応じていった。
 地元では今、建設されるダムを目玉に、観光客を誘致して経済振興を図ろうとの動きもある。
 こうした地元にとって、いまさら中止といわれても、納得できないのは無理からぬことだろう。
 ダム建設の総工費は4600億円だ。うち約3200億円は関連工事などに投入済みである。1都5県も多くを負担しており、国の都合で中止すれば、これを返還しなければならない。
 前原国交相は、中止の場合、自治体の負担分を返還する考えを示しているが、その財源は貴重な国民の税金である。
 一方で、地元での環境整備事業などは継続するとしており、これにも相当な資金が要る。結局、ダムの完成より、中止した方が余計にお金がかかる計算だ。
 前原国交相は、そうした損得勘定も考慮に入れる必要がある。

参考写真 八ッ場ダムの建設中止を巡って世論が大きく分かれています。先に、毎日新聞が社説で、「鳩山政権の課題 八ッ場ダム中止 時代錯誤正す『象徴』に」との記事を掲載し、地元住民への思いやりのかけらもない主張を展開しました。さらに、「八ッ場だけの損得を論じても意味はない。全国で計画・建設中の約140のダムをはじめ、多くの公共事業を洗い直し、そこに組み込まれた利権構造の解体に不可欠な社会的コストと考えるべきなのだ。『ダム完成を前提にしてきた生活を脅かす』という住民の不安に最大限応えるべく多額の補償も必要になるが、それも時代錯誤のツケと言える。高くつけばつくほど、二度と過ちは犯さないものである」との結論は、毎日新聞の社説氏は国民の血税をどのように考えいるのか、見識を疑わざるを得ないものでした。
 マスコミの論調が皆、毎日新聞のそれと同じようになるならば、今後の日本はどのような方向性に向かってしまうのかと、恐る恐る翌日の新聞を開きました。そして、目にしたのが、上記の読売新聞の社説です。
 読売新聞では、八ッ場ダムの建設中止を「民主党の政権公約(マニフェスト)墨守の危うさが、最初に顕在化した例といえよう」と、書き起こしています。「墨守」とは大辞林によると、「墨子がよく城を守り通し、楚軍を退けたという故事から、昔からのしきたりや自説を固く守ること」とあります。墨子(ぼくし)は中国戦国時代の思想家で、墨家の始祖。一切の差別が無い博愛主義(兼愛)を説いて全国を遊説しました。(出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)。鳩山首相が掲げる「友愛」と墨子の「兼愛」がどのような関係にあるかはよくわかりませんが、なかなかふるった表現です。
 「地元にとって、いまさら中止といわれても、納得できないのは無理からぬことだろう。ダム建設の総工費は4600億円だ。うち約3200億円は関連工事などに投入済みである。1都5県も多くを負担しており、国の都合で中止すれば、これを返還しなければならない。前原国交相は、中止の場合、自治体の負担分を返還する考えを示しているが、その財源は貴重な国民の税金である。一方で、地元での環境整備事業などは継続するとしており、これにも相当な資金が要る。結局、ダムの完成より、中止した方が余計にお金がかかる計算だ。前原国交相は、そうした損得勘定も考慮に入れる必要がある」と、全く毎日新聞と反対の結論を導き出しました。
 毎日のように八ッ場ダムの問題がマスコミを賑わしています。どうか、この問題を扱う方は、八ッ場の現場を自分の目で見て、地元の住民の話をまず聞いて頂きたい。その上で、現場の空気を味わったマスコミ人にこそ、八ッ場ダムの記事は書いてもらいたいと思います。
(写真は八ッ場ダムの現地調査を行う公明党山口那津男代表ら)
(2009/9/25 18:35 読者に誤解を与えるような表現がありましたので、一部修正いたしました)