年内に地元住民の生活再建の青写真示せ
 10月19日、関東地方1都5県の知事は八ッ場ダムを現地調査し、国に工事中止の撤回を求める共同声明を発表しました。この日八ッ場ダムを訪れたのは、東京都の石原慎太郎知事、茨城県の橋本昌知事、栃木県の福田富一知事、群馬県の大澤正明知事、埼玉県の上田清司知事、千葉県の森田健作知事。
 共同宣言では、利根川水系で1989年以降、6回の渇水に見舞われたことなどを指摘し、「首都圏の治水・利水の安全性を確保する上で必要」としました。その上で、国の対応について、「今日まで何一つ具体的な説明がない」と非難し、中止の理由と代替案を早急に説明するよう求めています。また、中止する場合、地元住民の生活再建案を年内に示すべきだと12月28日との期限と付けて、国交相に要望しています。
八ッ場ダム建設事業に関する
1都5県知事共同声明

 昭和22年のカスリーン台風の記録的な豪雨によって、現在の関係都県の地域では、死者が1,100人にも及ぶ等の壊滅的な被害を被った。
 その後、利根川における治水対策は鋭意進められてきたが、利根川の洪水に対する安全性は未だ十分なものではない。
 現時点でカスリーン台風と同規模の洪水が発生した場合には利根川の至る所で堤防が決壊する可能性があり、国土交通省の試算によればカスリーン台風時と同様に埼玉県大利根町で利根川の堤防が決壊した場合の想定被害額は34兆円にも達する。
 また、カスリーン台風ほどの大規模な洪水ではない近年の洪水においても、利根川の堤防や堤防下の地盤からの漏水が至る所で発生している。幸いにも水防団による懸命の水防活動により事なきを得ているが、これらの漏水はそのまま放置すれば堤防決壊につながる可能性がある非常に危険な現象である。

 一方、利水に目を転じてみると、関係都県では、水需要に対し、完成しているダム等のみでは安定的に供給できないため、八ッ場ダムに参画することを条件に、毎秒10.93立方メートルの暫定水利権を既に取得し給水している。
 暫定水利権は、河川に水が豊富なときにのみ取水力珂能となる不安定な権利である。
 実際、首都圏の水需要の大部分を依存している利根川水系では、平成に入って以降において6回もの渇水に見舞われ、中でも平成8年には夏冬合わせて117日もの長期の取水制限が実施されている。仮にその時に八ッ場ダムが完成していたとすれば取水制限日数を100日減少させることができる。
 また、近年は年間の降雨量が減少傾向にあり、今後、地球規模の気候変動に伴う渇水リスクの高まりが指摘されていることを考慮すれは八ッ場ダムの完成により供給能力を安定化させることが必要不可欠である。

 このような利根川の治水・利水の現状を踏まえ、これまで、国は、八ッ場ダムを首都圏における治水・利水の安全性を確保する上で必要な施設として、関係都県の知事や議会の意見を聴いて、特定多目的ダム法に基づく手続きや、地元住民の意向を踏まえた協議を積み重ねながら、建設事業を進めてきた。
 政権が交代しても、国土交通大臣が利根川の治水・利水の安全性の向上を図る責務を有する河川管理者であり、国がそれを実現するための施設である八ッ場ダムの事業主体であることに変わりはない。
 このような責務を有する国土交通大臣が、今般、八ッ場ダムを中止する理由や関係都県の治水・利水の安全性の確保について何の代替案を提示することもなく、一方的に『建設中止』のみを表明したことは、あまりにも無責任な行為であり極めて遺憾である。
 また、中止の表明以降、関係部県知事が再三説明を求めているにもかかわらず、今日まで国から何一つ具体的な説明がないというのは極めて異常な状態と言わざるを得ない。

 さらに、八ッ場ダムに係る地元住民は、長きにわたる国の働きかけにより、下流都県のために苦渋の選択として八ッ場ダム建設を受け入れ、6年後に完成するダム湖を中心とした生活再建を切望しているにもかかわらず、国は、このような地元住民の意向を全く無視し、頭ごなしに中止を押し付けようとしている。このような姿勢は、新政権が掲げる「国民の生活が第一」という方針と全く矛盾している。
 新政権が「国民の生活が第一」、「地域主権」を政策の根幹として掲げるのであれば、国は、地元や関係都県の考え方を尊重し、八ッ場ダム中止の方針はいったん白紙に戻した上で、国会の開会までに、中止しようとする理由を明碓な根拠に基づいて説明するとともに、地元や関係都県の意見を十分に聴くよう強く要請する。

 八ッ場ダムの治水・利水の必要性は、各地の住民訴訟判決において、司法の場でも認められており、政権が交代しても、八ッ場ダムが利根川の治水・利水上必要不可欠な施設であることに変わりはない。
 ここに、1都5県知事は、一致団結し、八ッ場ダム建設事業の中止撤回を国に対し強く求めることを宣言する。

平成21年10月19日

付記
 地元住民の皆様の生活再建に関して、12月28日までに納得が得られなければ人道上、生活上の由々しき問題である。
 国は責任を持って早急に生活再建の青写真を示し、地元住民の皆様の納得と理解を得るべきである。