暫定税率は来年度全廃、たばこ増税に前向き 首相方針
朝日新聞(2009/10/30)
 鳩山由紀夫首相は30日、来年度税制改正の焦点の一つになっている、たばこ税増税について「増税という方向がありうべしだと思う」と語り、前向きに検討する考えを示した。ガソリン税などの暫定税率についてはマニフェスト(政権公約)通り、10年度から全廃する考えを明言した。
 政府税制調査会は30日、各省庁からの来年度税制改正要望を締め切った。政権交代に伴い、麻生政権下の8月末に提出されていた要望を白紙に戻し、税調が各省庁に再提出させていた。
 たばこ税の増税は、厚生労働省が要望した。たばこ税は現在、1箱300円のたばこで1本8.7円で、税収は国と地方あわせて約2兆円強。首相も政府税制調査会への諮問で「健康に対する負荷を踏まえた課税へ」と、たばこ税の増税論議を求めていた。
 一方、暫定税率について首相は30日、記者団に「暫定税率はいったん廃止する」と語った。暫定税率を廃止すると、ガソリン1リットルあたり約25円の値下げにつながり、国と地方分をあわせて2.5兆円の減税となる。
 不況で税収が落ち込むなか、来年度から実施する「子ども手当」などの財源を確保するため、鳩山政権内には暫定税率を段階的に廃止する案などが浮上していた。政府税制調査会の議長役を務める峰崎直樹財務副大臣も29日、暫定税率を来年度から全廃しない可能性をにおわせていた。
 暫定税率を廃止し、地球温暖化対策税などに振り替えることで税収を確保する考え方についても、鳩山首相は「(暫定税率の)廃止後、環境のために増税してよいかは、国民にしっかりと訴えて理解を求めない限り難しい。やはり、切り離して考えなければいけない」と述べた。
 環境省は来年度税制改正要望で、2兆円規模の「地球温暖化対策税」の創設を求めた。だが、鳩山首相が環境対策の増税の条件に国民の理解を挙げたことから、来年度から導入できるかは不透明だ。
 各省庁からの要望では、税調が「ゼロベースでの見直し」を求めた租税特別措置について期限切れを迎えたものにも延長要望が目立った。
 税調は12月半ばに、10年度の税制改正案をまとめる予定。業績悪化に苦しむ中小企業向け支援税制や、「子ども手当」などの財源となる所得税の控除の廃止など、国民にどんな負担をどれだけ求めるかが焦点となる。
暫定税率廃止・高速道路無料化はCO2削減公約と明らかに矛盾
 鳩山首相は自ら“国際公約”に掲げた温室効果ガス削減目標を本気で達成する気があるのでしょうか?連日の首相の国会答弁や記者会見の模様を聞いていると、そう疑わざるを得ません。
 首相は9月の国連気候変動首脳会合において、地球温暖化をもたらす二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出量を2020年までに1990年比で25%削減すると表明しました。この野心的な目標自体は率直に評価する。世界の世論を日本がリードできれば、こんなにすばらしいことはありません。次は、日本が具体的な施策の実行で、世界に向かってその本気度を示すことが必要です。
 しかし、民主党がマニフェストの柱としたガソリン税などの暫定税率廃止と高速道路料金の無料化は、むしろ温室効果ガスの排出を促す政策であり、25%削減方針に逆行するものです。
 鳩山首相は暫定税率について「国民との間の約束の中で、まず廃止をすることは当然だ」と来年度から全廃する意向を繰り返し、高速道路無料化についても「段階的に実施する」との考えを変えていません。
 鳩山政権として、実際に民主党のマニフェスト通りに暫定税率廃止と高速道路無料化に突き進むのであれば、「整合性なき環境政策」との批判は免れません。
 首相は「国民に約束した高速道路の無料化、さらには暫定税率の廃止も当然前提にして25%削減を実現させる」とまで発言しています。25%削減は相矛盾する政策を実行しながら達成できるほど、生やさしい目標ではないはずです。
 国立環境研究所の試算では、暫定税率が廃止されれば、年平均で720万トンのCO2が増加。これは1990(平成2)年のCO2排出量の0.6%に相当します。この0.6%という数値は、90年比で25%の削減という目標に大きな足かせとなることは必至です。
 また、NPO法人・環境自治体会議環境政策研究所は高速道路無料化と暫定税率廃止で、年間980万トンもCO2排出量が増えると試算しています。
 両政策が温暖化防止の流れに反するのは明らかです。
【参考】「無料化+暫定税率廃止」の主な影響(環境自治体会議環境政策研究所)
項 目影 響備 考
CO2排出量増加量年間980万トン増加地域内流動に関する分は推計していないので、それを加えるとさらに増加する。全体ではこの2〜3倍程度と推測される。
航空機の輸送量減少11%減少減便・地方路線廃止の加速。
鉄道(主に新幹線や特急が対象)の輸送量減少36%減少基幹収益部分である新幹線・特急の減収により路線全体が崩壊の危険性。
バス(都市間高速バスなど)の輸送量減少43%減少バス事業者の多くが高速バスで市内路線の赤字を補填。これが低下すれば市内路線も維持不能で全面崩壊の危険性。
交通事故の増加年間死者250人負傷者42,000人増加自動車走行kmあたり事故率より試算。