参考写真 科学技術への行政刷新会議による事業仕分け結果に批判が相次いでします。
 11月24日には、東京大学など9大学の学長が記者会見を開き、政府が進めている事業仕分けで、科学技術予算の大幅削減が行われていることに対して、反対する声明を発表しました。
 また25日には、ノーベル賞と数学界最高のフィールズ賞の受賞者、江崎玲於奈氏、利根川進氏、野依良治氏、小林誠氏、益川敏英氏、森重文氏の6人が、政府の事業仕分けで科学技術関連事業が削減されることに対し「緊急声明」を発表しました。
 さらに野依博士は、自民党の自民党文部科学部会と宇宙・海洋開発特別委員会合同会で、「(スパコンなどの科学技術予算を)不用意に、事業を廃止・凍結を主張する方々には、『果たして将来、歴史という法廷に立つ覚悟が出来ているのか』」との、厳しい表現を用いて民主党の事業仕分けを批判しました。
 「宇宙開発」、「高速増殖炉」、「海洋地球観測探査システム」、「次世代スーパーコンピュータ」、「X線自由電子レーザー」などは、「国の持続的発展の基盤であって、長期的な国家戦略をもって取り組むべき重要な技術」というふうに定義された、「国家基幹技術」です。これらの事業は、オリンピック競技のように、まさに熾烈な国際競争のもとにあります。この重要性から、万難を排して、国の誇り、ナショナルプライドをかけて、絶対に勝たなければいけない技術です。
 次世代スーパーコンピュータは、事業仕分けで「凍結」という評価を受けています。「見直し」という声も出ていますが、依然、予断を許さない状況です。
 次世代スーパーコンピュータは、科学技術の「基盤」、あるいは「頭脳」にあたる部分です。だからこそ、アメリカも中国も、威信をかけて、熾烈な競争をしているわけです。道路あるいは宿泊施設などは、しばらく凍結しても、多少、不便はありますが、無駄になるものではないのではないかと思います。
 しかし、次世代のスーパーコンピュータは、いったん凍結したら、瞬く間に、各国に追い抜かれ、その影響は、計り知れません。コンピュータ産業だけの問題ではありません。「中国あるいはアメリカから買えばいい」という不見識な人がいます。全く不見識です。次世代スーパーコンピュータは、科学技術、さらには文明社会の「頭脳部分」にあたるものですから、諸外国から買ってくれば、その国に隷属するということを意味します。
 国際競争は果てしなく続く競争ですから、勝ち続けなければいけないというふうになっています。科学技術の成果が実を結び、さらにイノベーションを生み出すまで、時間は非常にたくさんかかります。ですから、拙速に成果を求めるのではなくて、将来への投資として、継続性を持って、科学技術振興を考えて頂きたいと思います。
 不用意に、事業を廃止・凍結を主張する方々には、「果たして将来、歴史という法廷に立つ覚悟が出来ているのか」と私は問いたいと思っています。
科学技術立国のビジョンはどこへ行った
参考写真 11月13日のスパコンに関する仕分け作業では「世界一を目指す理由は何んですか。2位では駄目なのですか」と、民主党の議員は言い放ちました。先端科学への理解と重要性を理解できない仕分け人たちによる発言が相次ぎ、開発事業費を事実上凍結するという結論に導いてしまいました。
 次世代スパコンは、ウイルス解析や気候変動問題のシミュレーションなどの科学研究やジェットエンジン開発などで必須のもので、先端技術の土台を支えるものです。1秒あたり1京回という計算速度が売りで、現在、世界一とされる米国製の10倍の速度になる見込みでした。2012年度から本格稼働の予定でしたが、開発を中止すれば日本は最先端コンピュータを作る技術を失い、さらに1、2年遅れれば、国際競争に復帰することは困難になるでしょう。
 米国はこの不況下でも開発予算を増額していますし、中国は最高性能の国産スパコン開発を国家戦略として進めています。
科学に必要なのは広大なバックグラウンド
 科学技術の進歩というのは優れたインフラがあって初めて実を結ぶものです。ひとつの成功の陰には広大な裾野が広がっていることを忘れてはなりません。iPS細胞(新型万能細胞)を開発した京都大学の山中伸弥教授もiPS特許に関する記者会見の中で「iPS細胞は10年支援していただいて幸運にも花開いた成果のひとつであり、10年前にこの研究が特許につながると言い当てるのは不可能だろう。日本の科学研究費はもともと少ないのに、さらに下げるということになれば想像を絶する」と語りました。
「それがいったい何の役に立つのか」という不毛な質問
 今回の仕分作業は、財政論に終始して国としてのビジョンが抜け落ちているように思えます。日本が科学技術立国としてどうすべきかという議論はほとんどなく、先端技術に関しても「それがいったい何の役に立つのか」という態度だったように感じられます。
 この質問は相手をやり込める時には非常に便利なものです。相手の話を「ふんふん」と聞いておいて、「それがいったい何の役に立つのか」といえばいいのですから。この場合、相手の話を理解する必要すらありません。説明者は誠実に答えようとすればするほど、窮地に陥ることになります。
 「スパコンの開発で世界一になります」「それがいったい何の役に立つんですか」
 説明するためにはスパコンがどのような分野で使われるかを説明して、世界の開発状況を説明して、さらに遅れを取ったらどうなるかを説明しなければなりません。しかも相手の理解力に応じて噛み砕いて話す必要があります。おそらく説明し始めた時点で話は打ち切られるでしょう。
 この種の質問に答えた例として1831年に電磁誘導を発見したファラデーの話があります。ファラデーは発電機の原理ともなる電磁誘導の実験を行った時に、政治家が放った質問にこう答えています。
 「磁石を使ってほんの一瞬電気を流してみたところで、それがいったい何の役に立つのかね」
 「20年もたてば、あなたがたは電気に税金をかけるようになるでしょう」
 また、ある女性が同じような質問したときには、「生まれたばかりの赤ん坊は社会にどんな役に立つのでしょうか?」と答えたともいいます。
 説明されたことを理解せずに、「それがいったい・・・」と言うよりも、「それをいかに役立てるか」を考えるのが、政治家が科学に対峙した時のあるべき姿勢ではないでしょうか。