新成長戦略 目標実現の具体策が見えない
読売新聞社説(2009/12/30)
 高い目標を掲げるだけで、明るい未来は開けない。肝心なのは実現する具体的手法の明示だが、そこが欠けている。
 政府は30日の閣議で、新たな成長戦略の基本方針「輝きのある日本へ」を決定した。
 国内総生産(GDP)を2020年度まで実質で年2%、名目は3%を上回るペースで成長させる数値目標を掲げた。
 名目GDPは今年度の470兆円から650兆円に増える計算だが、現状はここ6四半期連続のマイナスで、50兆円も減った。名目GDPをしぼませるデフレに再び陥ったこともあり、目標達成のハードルは極めて高い。
 成長戦略は公共事業依存でも、小泉路線のような市場原理主義でもない、新需要の創造という「第3の道」を進むとしている。「コンクリートから人へ」などの政権公約に沿った考え方だろう。
 具体的には、環境・エネルギーと医療・介護を、日本が強みを持つ2分野として集中的にテコ入れし、100兆円の需要と420万人の雇用を新たに生み出す。
 高成長が続くアジアとの取引活性化や、科学技術の支援、雇用下支えの強化なども図る。
 方向性に問題はないが、具体策は政府が過去10年に出した十指に余る成長戦略と大差ない。
 関係府省が持ち寄った案をまとめたため、新味のないアイデアが並んだのだろう。策定作業は約半月と短く、成長戦略がないという批判をかわす「やっつけ仕事」との印象もぬぐえない。
 政府は来年6月までに、この基本方針に肉付けをして成長戦略を完成させ、実現に向けた工程表も示す方針という。
 だがこの際、民間からアイデアを広く募って、効果や実現性の高いものに絞り込むなど、抜本的に練り直した方がいい。新産業の育成や技術支援に必要な費用をどう工面するのかも示すべきだ。
 消費税率を4年間は上げないという政権公約にこだわれば、安定した財源は得られまい。「経済成長で税収が増えれば賄える」とする“上げ潮”依存は禁物だ。
 中長期的な財政再建の道筋も同時に示し、社会保障などの将来不安を和らげる必要もある。
 景気の底割れを防ぎ、デフレを解消しないと、どんな立派な成長戦略も絵に描いたモチになる。
 政府は来年度予算の公共事業を前年度より2割近く減らし、小中学校の耐震化など急ぐべき事業も削った。これらを復活して、景気回復に役立てるべきだ。

参考写真 果たしてこれが、政府が公表する成長戦略と呼べるものなのでしょうか。
 確かに、「我が国の経済政策の呪縛となってきたのは、二つの道による成功体験である」として、公共事業による経済成長と供給サイドの生産性向上による成長戦略の間違いを否定していることは共感が出来ます。しかし、第3の道として導き出した結論は、「2020年までに環境、健康、観光の三分野で100兆円超の『新たな需要の創造』により雇用を生み、国民生活の向上に主眼を置く『新成長戦略』である」と、書かれてしまうと、中学生の作文になってしまいます。公共事業によらない、供給サイトの生産性向上によらない、具体的な成長戦力を示してくれなくれば、国民を産業界も納得できません。
 具体的に言えば、「グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略」という項目にいても、その基本となる原子力政策への言及なしにしては、私は砂上の楼閣に過ぎないと考えます。
 また、政府が否定した公共事業も供給サイトの生産性向上も、大きな成長戦力の一つであることはていできません。読売新聞が指摘するように小中学校の耐震化やそれに関連する前政権のスクールニューディール政策は、公共事業を新たな成長戦力に進化させる、大きな試みであったと思います。こうした優れた政策を全面否定せざるを得ない民主党政権の政策立案能力に、既に限界が見えています。
 蛇足ですが、一つだけ気になる表現を指摘しておきます。(5)科学・技術立国戦略〜IT立国・日本〜の中で、「行政の効率化を図るため、各種の行政手続の電子化・ワンストップ化を進めるとともに、住民票コードとの連携による各種番号の整備・利用に向けた検討を加速する」という一文が唐突に出てきます。民主党政権は、納税番号制度の導入には積極的だとされています。私も個人的には、早期の導入に賛成の立場ですが、「住民票コードとの連携」云々という表現には、違和感を感じました。税、年金、社会保障、そして国民サービス、こうした一体的な行政を行うためのツールをどのように検討していくか、国民には丁寧な説明が迫られます。
参考:「新成長戦略(基本方針)〜輝きのある日本へ〜」