参考写真 生存していれば111歳になる男性の白骨遺体が都内で発見されたことに端を発する「高齢者の所在不明」が大きな社会問題になっています。
 この背景には家族や地域関係の希薄化が指摘されているが、行政自身の課題も浮き彫りになりました。今回の問題を高齢者に関係する行政のあり方を見直す契機とすべきです。
 第一の課題は、住民基本台帳の管理です。同居しているはずの家族が高齢者の所在を知らず、台帳が放置されている事例が多数、明らかになっています。これは、台帳の記載内容の変更が本人や家族らの申請を原則としているためです。
 行政は台帳を「職権消除」する権限を持っています。客観的に所在に疑問がもたれる高齢者については、この権限を行使し実態に即した台帳を管理する体制を築くべきです。
 第二は、個人情報の保護です。高齢者の所在確認はプライバシー保護を優先するあまり、困難となっています。こうした傾向は大都市ほど顕著で、民生委員すらも本人や家族との接触が難しいのが現実です。
 個人情報が守られるべきことは言うまでもありません。しかし高齢者保護を目的とする場合に限り、高齢者の個人情報を柔軟に利用することも検討すべきです。
 一方、こうした制度面に加え、行政の運用上の対応も再考すべき課題といえます。
 今回の問題は台帳や戸籍、社会保障の部署が関係しています。この問題が起きた要因の一つに部署間の連携欠如が指摘されています。まさに「縦割り行政」の弊害です。
 今回の問題を受け、各地で戸籍上のみで生存している高齢者も続出しました。さらに、高齢世帯の孤立化防止などを定める「地域福祉計画」を昨年度末現在、全国で51.4%の自治体が策定していないことも明らかになっています。
 行政の怠慢と指摘されても仕方ありません。問題解決へ向け、コミュニティー活動や高齢者福祉などで住民との距離を近づける見直しなど、行政の姿勢が問われていることを強調したいと思います。
 「新しい福祉」を掲げる公明党は、年内にまとめる「社会保障トータルビジョン」の中で「高齢者の孤立化」への対応策を提言するため、党を挙げての議論をスタートさせています。今月5日の参院予算委員会でも山口那津男代表が政府の緩慢な対応をただし、早急な対応を求めています。
 公明党は3000人を超える地方議員を擁しています。地域の守り手として、9月議会で「高齢者の所在不明」の対応策を訴えていきたいと思います。
地域福祉計画、茨城県内でも21市町村が未策定
 「地域福祉計画」の茨城県内市町村の策定状況は、44市町村のうち21市町村(47.7%)が未策定となっています。
 地域福祉計画は、改正社会福祉法の2003年4月施行により、高齢者や障害者が安心して暮らせるよう、各市区町村が策定を求められています。計画には相談支援体制の整備や、地域福祉への住民参加促進、福祉・保健・医療の連携の方策などを盛り込むようになっており、地域の福祉をどのようにしていくかを各自治体が考え、決める大切な計画です。
 県内では2004年にトップを切って日立市と東海村が策定しましたが、現在までに策定した市町村は23に止まっています。査定していない21市町村の内、15市町村は今後2年以内での策定を予定していますが、常陸太田市、河内町、五霞町、境町、美浦村の5市町村は策定の予定も決まっていません。
高齢者の見守りのための全国市町村先進事例
 全国の市区町村が策定する「地域福祉計画」には、高齢者の孤立化防止や所在把握などに役立つ先進的事例が数多く盛り込まれています。
 例えば、秋田市の地域福祉計画では、水道メーターの検針員が検針の際、独り暮らしの高齢者宅を見回るなどの支援策を定めています。
 また、愛知県北名古屋市の計画には、70歳以上の独り暮らしの高齢者に安否確認などを目的として牛乳を配達する事業が盛り込まれています。
 横浜市栄区では、区内の公田町団地の高齢者宅に人感センサーを設置。12時間以上、室内で人の動きが無ければNPOスタッフが訪問し、安否を確認する仕組みを構築しました。
 北海道喜茂別町は、町の公募に応じた「地域おこし協力隊」を結成。集落人口の過半数を65歳以上の高齢者が占める「限界集落」で全戸訪問を行い、高齢者の生活支援を展開しています。
 長野県木島平村でも、消防団員などが、緊急時の訪問用として独り暮らしの高齢者宅の連絡先をリスト化しました。
 石川県能美市では、希望者に配食サービスを行い、配達時に本人からサインをもらえなかった場合、業者が市へ連絡を入れる仕組みをつくりました。
 また、岐阜県中津川市などでは、近隣住民や民生委員らが参加し、見守りが必要な高齢者の情報を図面に明記する「支え合いマップ」を作成しています。
 香川県小豆島町では、独居高齢者宅を訪問するなどのボランティア活動をした高齢者に対し、介護保険料の割引になる点数を付与する制度を運用しています。
 民間事業者でも、ヤクルトグループが、全国約150の自治体などから、高齢者の見守りを兼ねた飲料配達を受託しています。