参考写真 現行の長寿(後期高齢者)医療制度を廃止し、新たな高齢者医療制度のあり方を議論する政府の「高齢者医療制度改革会議」(座長・岩村正彦東大大学院教授)の10回目の会合が9月27日に開催されましたが、大きな進展はありませんでした。
 高齢者医療制度改革会議は、12月末に最終取りまとめを行う予定ですが、制度の根幹である運営主体や財源などがいまだに、まったく決まっていません。厚生労働省は、最終報告を受けた後、来年の通常国会に法案を提出し、2013年4月の施行をめざすとしていますが、最終案が本当にまとまるのかどうか、疑問視する声さえ広がっています。
 高齢者医療制度改革会議は8月20日に行われた会合で、新たな高齢者医療制度の創設に向けた中間報告をまとめた。その内容は、「75歳以上」(「65歳以上」と両論併記)の高齢者は市町村が運営する国民健康保険(国保)への加入を原則としつつ、仕事を続ける会社員やその扶養家族は企業の健康保険組合など被用者保険に入ることなどが柱になっています。
 具体的には、75歳以上の場合、約1200万人は国保に加入する一方で、約200万人の現役会社員らは被用者保険に移ることになります。
 国保は新制度施行に伴い、現役世代と医療費がかさむ高齢者を分けて、別勘定で運営することになります。
 2008年4月に現行の長寿医療制度が導入された当時、民主党は、こうした年齢区分などが「高齢者差別」だと批判しました。高齢者の年齢区分について「うば捨て山」などと、言葉汚く批判し続けました。
 長妻厚労相(当時)はこの点に関し、「年齢で区分するという問題を解消する」と述べていましたが、結局、新しい制度でも高齢者を別枠とする仕組みは残されることになります。
 中間報告ではさらに、国保は将来、図のように現役世代も含めた全年齢で都道府県単位の運営にするとの方針を示しています。
 しかし、この都道府県単位の運営をめぐって、意見が対立しています。
 国保の運営主体について、高齢者医療制度改革会議では市町村が参加する広域連合ではなく、都道府県が適切との声が大半を占めています。一方、全国知事会は広域連合を強く主張し、一歩も引かない構えです。
 また「財源」についても不明確なままです。中間報告では、75歳以上の医療給付費について、公費5割、現役世代からの支援金4割、高齢者の保険料1割という現行制度の構成比率を維持する方向を示しています。
 しかし、世界一のスピードで超高齢化が進む中、日本の高齢者の医療費は増加し続けていおり、厚労省の試算では、06年度に10.8兆円だった75歳以上の医療費は、25年には25兆円に膨らむ計算になります。
 改革会議では「現役世代の保険料に依存するには限界がある」など公費拡充を求める意見が相次ぎましたが、現政権による財源論議が深まらない中で、最終報告に新たな財源を書き込むことは困難との見方が強まっています。
 高齢者医療制度改革会議は次回の会合で、こうした根幹にかかわる課題とともに、自公政権時代の措置で70歳から74歳までの医療費の窓口負担2割が、1割負担に凍結されている点などについても検討することにしています。既に「2割に引き上げる方向で検討に入った」(10月3日付 日本経済新聞)との報道もあるが、仮に2割になった場合、高齢者の大きな反発が予想されます。
定着している現行の長寿医療制度
 現行制度は、約10年間かけて与野党で十分に議論して決めたものです。それに対し、現政権の議論は拙速であり、迷走していると言わざるを得ません。
 公明党のリードで現行制度は改善を重ね、国保の保険料格差が5倍から2倍に縮小され、7割の世帯で保険料が下がりました。低所得者にも配慮し、保険料は最大で9割軽減されています。当初は批判的だった高齢者の約6割が、現行制度を容認しているという調査結果もあります。
 加えて、新制度への移行には、コストや周知徹底の時間もかかります。現行制度導入に当たり、汗を流してきた各自治体の現場からは「今の制度がせっかく定着しているのに、なぜ変える必要があるのか」といった声も根強いのが実態です。
 最終報告の取りまとめまで残された時間は余りありません。政府は、新制度移行に多くの疑問を持つ国民や高齢者が納得できるような制度設計を早急に示すべきです。
 現行制度を存続させる選択が、一番ベターな選択ではないでしょうか。