「資源のない日本は付加価値のある産業でしか生きる道はない。研究が1、2年で成果が出ないから予算を切るというのは、してほしくない」。ノーベル化学賞受賞が決まった北海道大学の鈴木章名誉教授は10月14日、高木文部科学相との面談で、こう要請しました。
 今回の受賞理由は、医薬品や液晶物質などを効率良く合成するための化学反応法の開発だ。有機合成は「日本のお家芸」ともいえる分野であるだけに、この分野での米パデュー大学の根岸英一特別教授との“日本人ダブル受賞”を心から喜びたいと思います。
 半面、鈴木博士の言葉からも、日本の科学の現状には不安を感じざるを得ません。
 不安の第一は、民主党政権初の当初予算編成となった今年度、科学技術振興費が前年度比3.3%減の1兆3321億円と、27年ぶりに前年割れとなったことです。
参考写真 その前段階の事業仕分けでは、医薬品や半導体の開発、化学反応の解析などで利用が拡大している次世代スーパーコンピューター(スパコン)開発予算に対し、仕分け人だった蓮舫・現行政刷新担当相が「2位ではだめなのか」と事実上の「ノー」を突きつけたことは、今も鮮明に記憶に残っています。結果としてスパコン事業は40億円の減額を強いられました。
 また、基礎研究や教育経費も削減された。このため日本学術会議は「科学技術立国の基盤が危うくなる」として8月、基礎科学や人材育成の充実を菅首相に勧告しました。首相は、この警鐘を真摯に受け止めるべきです。
 日本の科学技術、ものづくりは現在、新興国の台頭で激しい国際競争にさらされています。危機感を持つ欧米諸国が科学技術への公共投資を増しているのとは対照的に、予算減額にひた走る民主党政権の科学技術戦略の欠如が日本の将来を脅かしていることを厳しく指摘する必要があります。
 もう一つの不安は、若手研究者が海外に出ずに、国内だけで研究する傾向が強いことです。米国の大学で博士号を得る外国人学生の出身国割合は中国の30%、韓国の10%に対し、日本は2%に過ぎません。これでは、世界の研究競争に取り残されてしまいます。。
 公明党は、先端分野の基礎研究の強力な推進や研究者の養成、さらには博士号取得者が任期付きで雇用され研究を続けるポストドクターに対する就労支援の充実など、科学技術立国への環境づくりを一貫して主張しています。
 科学技術にこそ、日本の未来がかかっている。このことを政府は肝に銘じるべきです。