相談体制の全国整備を、抜本対策へ基本法の制定も必要
 HTLV−1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)については、政府の特命チームにより、妊婦検診に急遽抗体検査が組み込まれ、話題となっています。
 しかし、妊婦の間にも、その関心はあまり高いとは言えず、今後、検査の主旨の徹底やHTLV−1の知識啓発などが大きな課題となって来ると思われます。
 ここでは、10月23日付公明新聞に開催された聖マリアンナ医科大学山野嘉久准教授の講演を転載させていただきます。

fa34dc97.jpg HTLV−1はATL(成人T細胞白血病)やHAM(脊髄症)を引き起こすウイルスで、感染者は国内に100万人以上といわれます。感染者の5%がATLを発症しますが、潜伏期間は40〜50年。白血病の中で最も死亡率が高く、発症者の平均余命は約1年で、毎年約1000人が亡くなっています。
 一方、HAMにかかるのは0.3%で、数年から数十年かけて発症します。脊髄が侵される病気で、両足の激痛や排尿障害による苦しみは、まさに「生き地獄」だと言います。残念ながらATLもHAMも治療法はまだ確立されていません。ですから、感染予防が非常に大事になります。
 感染経路は、母乳を介した母子感染が全体の約60%を占めます。赤ちゃんにとって母乳が大事なのは当然です。しかし、6カ月以上の長期授乳で20.5%だった感染率が、粉ミルクだけで育てると2%台に減らせることも分かっています。
 3カ月未満の短期授乳や、母乳を冷凍保存した場合でも、断乳と同じく感染率を大きく減らせるとのデータもあります。
 感染が判明しても、母乳を与えるか否かの判断は母親の自由です。しかし、この病気がどれだけ大変なものかも含め、正しい情報は伝えないといけません。
 感染を告知された母親は、さまざまな悩みを抱えています。相談対応のまずさによる医療関係者への不信、母乳を与えないことへの罪悪感や家族の無理解、子どもに感染させてしまった自責の念――など。こうした悩みに対し、十分に応えられる体制は、残念ながらまだありません。相談体制を全国的に整備する必要があります。
 2003年に鹿児島県のHAM患者・菅付加代子さんが、HAMの難病指定をめざして設立した患者会「アトムの会」は、NPO法人「日本からHTLVウイルスをなくす会」に発展し、09年には関東地方のNPO法人「はむるの会」も発足しました。
 その間、公明党には、江田康幸衆院議員を中心に継続的に尽力していただき、HAMの難病認定も実現しました。さらに総合対策を求める患者さんや研究者の思いを受け止め、手を差し伸べ続けてくれたのが公明党です。感謝の思いは尽きません。
 9月8日、首相官邸にHTLV―1対策の特命チームが設置され、総合対策づくりへ国が動き出しました。特命チームの議論で、「妊婦健診での抗体検査の実施」が決まり、このほど、全国に通知されました。今年度は特例交付金の枠組みで実施されますが、来年度は予算編成の中で検討していくとしています(19日の特命チームの会合で来年度の継続が決定)。
 HTLV―1の撲滅へ、抜本的な対策を推進する基本法の制定も必要ではないかと考えます。打つ手を誤らなければ、撲滅も可能だと強く訴えておきたいと思います。