参考写真 最近、「地方分権」という言葉より、むしろ「地域主権」という言葉が定着してきました。閉塞した日本の社会、政治をひらくカギが地方自治の拡大であるといわれて久しくなっています。その中では、国から地方への権限移譲だけでなく、地方自治体の自治能力の向上も重要な議論の対象となっており、自治の主役として地方議会のあり方に注目が集まっています。
地域主権の時代へ/住民本位の議会こそが地方自治の基盤に
 「地方分権の10年」と言われた1990年代の第1次地方分権改革から20年。現在は2007年4月施行の地方分権改革推進法(推進法)に基づく第2次地方分権改革の途上にあります。
 第1次地方分権改革は、国の行財政改革論議の中で議論が始まりました。この経緯から明らかなように、国から地方自治体への権限移譲を進めることで国の行政をスリム化することが目的でした。第1次改革の成果である地方分権一括法(2000年4月施行)は国と地方自治体の関係を「上下」から「対等」に改革し、国が地方自治体を手足のように使うことができた機関委任事務の制度を廃止しました。
 第2次改革では、政策実施に関し、国が地方自治体の自由な裁量を縛っている「義務付け」「枠付け」の見直しが主なテーマであり、それを進めるために新・地方分権一括法案を柱とする地域主権関連3法案(地域主権改革推進を図るための関係法律の整備法案、国と地方の協議の場に関する法案、地方自治法改正案)が、国会で継続審議になっています。
 第1次、2次改革はともに権限移譲を柱とする地方分権改革の性格が強くなっています。しかし、先の3法案には、地域主権戦略会議の設置、国と地方の協議の場の創設、地方議会制度の改革といった、分権ではなく地方自治の拡大につながる制度改正も含まれています。
 ただ、制度改正の実効性を高めるためには、地方議員の行動力が要請されています。
 地域主権が進む中、これからは一層、地方自治体の「自治能力」の向上が求められます。住民と最も身近に接する地方議員が集う地方議会の重要性はさらに高まります。
自治体をめぐる問題/首長と議員の協働で二元代表制を生かせ
 地域主権の確立に向け、地方自治体の自立が求められる中、思わぬ課題が表面化しています。それは、首長と地方議会の“対決”による混乱に他なりません。
 日本では憲法の定めるところにより、県知事や市長など自治体の首長と、地方議会議員の両方を、ともに住民の直接選挙で選ぶ「二元代表制」を採用しています。
 国会の場合、行政トップの首相は国民の直接選挙ではなく、国会議員の投票で選出される議院内閣制であり、首相は基本的に国会の多数派から選ばれるため、首相と国会は緊密な関係を保ちやすい仕組みになっています。
 ところが、地方自治体の「二元代表制」は、大統領と連邦議会議員の双方を国民が別々に選出する米国型であるため、地方議会の多数派と意見を異にする首長が当選する可能性は常に存在します。
 しかも、日本の首長は、議会に条例案も出せるし、議会が機能しない場合、首長の判断で意思決定ができる専決処分も認められています。そのため、首長と地方議会が妥協のない“対決”をした場合、地方自治は機能不全に陥ることになります。
 「二元代表制」の下では、首長と地方議会は互いの立場と役割を尊重し協働して自治体を支えなければなりません。市議会を半年も招集せず専決処分を繰り返した鹿児島県阿久根市長のような対決型は、「二元代表制」を逆手に取った「恣意的な自治体運営」と批判されても仕方がありません。
今必要な地方議会改革の着実な動き
 「二元代表制」の課題が露呈する一方、この制度を生かすために、地方議会による自主的な改革の動きが広がっています。その動きが議会基本条例の制定です。
 条例であるため地方自治法など法律に反する内容は定められないものの、議会と住民との関係を独自に規定するなど地方自治拡充に向けた主体的な取り組みであり、地方の自立の基盤づくりとなっています。
 本年9月、東京都で最初の議会基本条例を制定した多摩市では、条例策定作業の前に市議会を「もっとよく見えて、わかりやすく」する改革から始めました。例えば2008年5月、全会派が協力して「議会基本条例制定をめざす議会改革特別委員会」を「出前委員会」と名付け、市役所の外で開催しました。多くの市民が集い、市議会への要望が直接伝えられました。
 議会改革特別委員会の委員長を務めた公明党の安藤邦彦議員は、議会改革の背景について、「地方自治の現場は、どうも二元代表制になってない。市長任せだ。しかし、市長一人で市政全部をチェックできるはずもない。こうした危機感で全会派で取り組んだ」と報告しています。さらに、住民に身近な市議会が「事業評価をやり、議員同士の議論で創造的な合意形成をめざし、さらに市民の提案も取り入れる努力が自治を広げる」と訴えています。こうした地方議会の可能性を開く取り組みこそが地域主権の確立につながります。
全国都道府県議会議長会の緊急要請
 全国都道府県議会議長会は今年1月、「議会機能の充実強化を求める緊急要請」をまとめました。全国都道府県議会議長会は、地方分権の推進のためには、「議会活動の自由度を高めつつ、地方政府における立法府にふさわしい法的権限を確立する必要がある」と主張、議会の権限強化に関し、以下のような改革案を提示しました。
  1. 真の二元代表制を実現するため、議長に議会の招集権を付与すること。
  2. 議会意思を確実に国政等に反映させるため、議会が議決した意見書に対する関係行政庁等の誠実回答を義務付けること。
  3. 住民から選挙で選ばれる「公選職」としての地方議会議員の特性を踏まえ、その責務を法律上明らかにするとともに、責務遂行の対価について、都道府県議会議員については「地方歳費」または「議員年俸」とすること。

地方議会に突きつけられた「定数」と「報酬」の二つの課題
 さて、この臨時国会には、地方自治法の改正案が提出されています。その内容は、地方自治法90条及び91条の改正です。いわゆる地方議会の議員定数について人口に応じて上限数が定められていますが、この規定が撤廃されることになっています。その目的は、議会の自由度を拡大させることです。
 この改正案が成立すると、地方議会の議員定数の規模はどの程度にするのがいいのか、まさに地方の判断によって決めるということになります。議員定数の削減が市民運動のトレンドとして行われており、議員定数は少なくれば少ないほど良いといった風潮があることも事実です。しかし、二元代表制の中で、住民代表としてどの程度の規模が適切なのか、各自治体での慎重な議論が必要です。
 また、議員の報酬も議論の的となっています。今マスコミでは、「ボランティア議員」が喧伝しています。地方議員の報酬を議会の開催日だけに限定する「日当制」が、すでに導入されて地方議会もあります。地方議員の活動を支えるための報酬は、どの程度が妥当なのか、この問題も冷静な検討が必要です。