参考写真 八方ふさがりの菅直人・民主党政権。その中でも、菅首相は遂に民主党の看板公約である年金制度の改革案を修正する可能性に言及しました。具体案づくりの期限を6月に設定し、与野党での合意を目指すと言っています。
 そもそも民主党の年金政策は、国政選挙毎にその内容がコロコロ変わっており、その実態も明確になっているとはいえません。
 しかし、その柱は、すべて税金で賄う最低保障年金を設けることです。最近は定職に就かない人が増えているため、年金の保険料を払えず、老後の年金をもらえない人が急増する恐れがあります。そこで、だれにでも月額7万円の年金を支給し、老後の生活を支えるのが目的です。これによって保険料の未納が増えている問題は解消。保険料を払った人には、払った分に応じて年金を上乗せするというのが基本的な考えです。
 以下、民主党年金政策の欺瞞性を整理してみたいと思います。
民主党の年金マニフェストの欺瞞性
  • 国政選挙で初めてマニフェストが争点となった2003年衆院選において、民主党は年金制度の抜本改革を提案しました。その内容は、1.厚生年金等と国民年金を一元化し、すべての人を対象とする「所得比例年金(仮称)」を設けることに加え、2.税を財源とする「国民基礎年金(仮称)」(2004年以降のマニフェストでは最低保障年金と改称)を設け老後の最低限の保障を行う、今までの「二階建」とは異なる制度の提案でした。
  • 多くの国民がこの改革案に期待し、民主党に一票を投じたことでしょう。しかし、当初からこの改革案では、最低保障年金の支給額や所得制限、自営業者や3号被保険者の保険料など制度の根幹となる給付と負担の関係が示されず、著しく具体性に欠けるものでした。
    そのため、公明党としても早急に具体的な数字を示すよう求めてきましたが、民主党はそれを拒み逃げ続けました。
  • その後、民主党は、政権交代のきっかけとなる2009年衆院選において、新たな年金制度の施行を4年後の2013年度以降に先送りするマニフェストを発表。結局、2003年に抜本改革を提案していらい今日に至るまでの約7年間、制度設計の検討は全く進んでいません。
  • なぜ、民主党はいつまでたっても具体案を示すことができないのでしょうか。それは、巨額の財源確保をはじめ、その設計によっては現行制度よりも負担増となる、あるいは給付減となる人が発生するなど、多くの問題を抱えているからです。
  • その代表的なものが改革案の柱である最低保障年金です。2003年のマニフェスト(図A参照)では、基礎年金部分の上に所得比例部分が上乗せされる二階建てを想定したイメージ図が示されていますが、ここ数年、民主党が説明に使っている図は、所得比例年金の少ない人に最低保障年金を上乗せすることを想定した図(図B参照)です。
  • 図Bが示すように、民主党の年金改革案には現行制度のような国民共通の基礎年金部分がなく、かつ最低保障年金には所得制限が設けられるので、中高所得層のサラリーマンの厚生年金の給付水準は現行制度より下がる可能性があります。また財源を確保できなければ、最低保障年金の支給対象はさらに少なくなるでしょう。
    実は、これは当初から指摘されていたことであり、国民の批判を恐れる民主党は、敢えてこうした問題には触れようとしないのです。
  • さらに、最低保証年金の財源を確保するためには、税金をよりたくさん集めなければならなりません。2008年の社会保障国民会議の試算では、25年度には9~13%の消費税率引き上げが必要になります。
  • こうした議論の経過のうえに、政権獲得後の民主党の年金政策は、大きく変質してきました。税方式による年金改革の急先鋒であった“ミスター年金”こと長妻昭厚生労働相は、2009年11月、「私は年金は破たんするとは一言も言っていない。年金は破たんしない」とテレビで明言し、周囲を驚かせました。
    民主党が2010年6月に示した「新年金制度の基本原則」では「未納・未加入ゼロの原則 保険料の確実な徴収により無年金者をなくす」と、いつの間にか税方式から保険方式への転換を強調しています。
    昨年12月、藤井裕久・現官房副長官が会長をつとめた税と社会保障の抜本改革調査会は「社会保険方式である所得比例年金を基本に、それだけでは年金額が十分ではない高齢者に税を財源とする最低保障年金を補足給付する新
    年金制度を提案している」と「中間整理」に明記しており、民主党の年金政策は、国民に広く知らされることなく大きく変質してしまっています。
  • このように、われわれが進めてきた2004年改革を批判してきた民主党ですが、結局、これを上回る具体案を示すことができないのが現状です。同様に、廃止を訴えていた後期高齢者医療制度や障害者自立支援法に代わる新たな制度づくりも難航しています。さらに、「子ども手当」を巡る迷走を見れば、民主党マニフェストの実現可能性は極めて低いと断ぜざるを得ません。

 1月20日付の朝新聞社説は、こうした民主党の年金政策の欺瞞性を指摘する内容となりました。論旨も分かりやすく、以下、全文を引用させていただきます。
年金改革―民主案は税方式なのか
朝日新聞社説(2011/1/20)
 「税と社会保障の一体改革」をめざす政府・与党は、野党とも協議を進めたいという。だが、肝心の民主党の年金改革案があやふやでは、話が始まらないのではないか。
 原因は民主党がきちんとした案を示さず、中途半端な説明をしてきたことにある。まずは党内の議論を整理して、国民に民主党案とは何なのかを明らかにすることが先決だろう。
 これまでに民主党は月額7万円の最低保障年金をつくるとし、その財源は税で賄う「税方式」としてきた。これに対し、経済財政相に就任した与謝野馨氏は「社会保険方式」を主張していることから、食い違いが指摘されている。菅直人首相と民主党は早急に、この問題を解決すべきである。
 税方式には、保険料の納付実績が問われる社会保険方式と違って未納問題が起きないという利点がある。
 自公政権時代の2004年、閣僚の未納が相次ぎ発覚し、これを追及した菅氏自身にも未納が見つかり党代表を辞任した。その後、菅氏や岡田克也・現幹事長は「未納者はいなくなる」「全員がもらえる」と、税方式を前提にした説明をしてきた。
 鳩山由紀夫代表のもとで戦った一昨年の総選挙でも、政権公約に「消費税を財源とした最低保障年金を創設し、全ての人が7万円以上の年金を受け取れるようにする」と書いた。これを税方式と理解した人も多いはずだ。
 ところが、民主党が昨年6月に示した「新年金制度の基本原則」では「未納・未加入ゼロの原則 保険料の確実な徴収により無年金者をなくす」と、保険方式を強調した。
 さらに12月、藤井裕久・現官房副長官が会長をつとめた税と社会保障の抜本改革調査会は「社会保険方式である所得比例年金を基本に、税を財源とする最低保障年金を補足給付する」と「中間整理」に明記した。
 これなら「社会保険方式で改革するのが合理的」という与謝野氏と根本的な違いはない。現行制度は受給者全員について基礎年金の半分を税で賄うが、民主案では、年金が一定額以上の人には税で賄う最低保障部分を減らしたり、払わなかったりするだけだ。
 民主党が政権獲得後、保険方式に傾斜したのは現実的な動きともいえる。税方式にこだわると必要な財源が膨らみ、消費税などの増税幅が大きくなる可能性が高いからだ。保険方式を是としている自民党や公明党などと協議する上でも有効だ。
 現行制度の最大の問題は、未納者が多く発生し、いずれ低年金・無年金になってしまうことだ。貴重な税財源をどう使ってそれを防ぐのか。与野党で一致できる点を見つけ出して改革を進めるには、政府・与党案の骨格を早く示すことが欠かせない。