制度設計、財源あいまい/政府・与党内でも見解に相違
 民主党は2003年以来、最低保障年金の創設や厚生年金と国民年金の一元化などを柱とする、新たな年金制度を提案してきました。ところが当初、月7万円としていた最低保障年金の額も漠然としたものになり、最も大事な負担と給付の関係が一向に示されていません。一元化についても所得の捕捉がきちんとできることが大前提です。
 また民主党は、最低保障年金部分を全額、税で賄うとの考え方ですが、巨額の財源が必要です。その財源をどう手当てするのかを7年以上経っても明らかにしておらず、このような状況では実現は難しいと言わざるを得ません。
 直近では、現在の基礎年金の国庫負担割合をめぐり、迷走の果てに一時的な財源を確保して、何とか2分の1を確保しました。このままでは2012年度以降、国庫負担2分の1は維持できなくなります。
 その原因の一つは、民主党がマニフェストで主張した子ども手当などの施策に、財源を費やしていることにあります。国民の多くは、すでに民主党のマニフェストに期待していません。そのような公約を、無理に押し通す必要があるのでしょうか。
参考写真 一方、後期高齢者医療制度についても、民主党は政権交代後、直ちに廃止するとしていましたが、13年3月末まで廃止を先送り。政府が示した新制度案も、さまざまな課題を抱えています。
 具体的には、国保移行分の運営主体をこれまでの広域連合から都道府県単位に移すとしていますが、これに全国知事会は大反対。また70~74歳の自己負担分が現行の1割から2割に引き上がります。さらに、1000億円ともいわれるシステム改修費が、制度改正に伴い発生します。現行の後期高齢者医療制度は、これまでも修正を加えており、国民の間にも浸透しています。拙速な移行は混乱を来すだけです。
 年金、高齢者医療制度ともに、政府・民主党内で意見が統一されていません。このような状況で、まともな政権運営ができるはずもありません。
(1月20日付公明新聞の記事を参照しまとめました)
高齢者医療―こんな改革はいらない
朝日新聞社説(2010/10/29)
 いたずらに混乱を招くだけで、副作用が大きすぎるような改革は、やめるべきだろう。
 後期高齢者医療制度を廃止したあとに、どんな新制度をつくるのか。厚生労働省の改革会議で、議論が進んできた。7月に原案が示され、先日は新制度で保険料などの負担がどう変わるかについての試算も出た。
 だが、新制度案はきわめて複雑で、誰の負担にどう影響するのか、理解することすら容易ではない。それでいて、本質的なところで中身は現行制度と変わりない。小手先の変更に終始した印象はぬぐえない。
 75歳以上のお年寄りの医療費を切り離して別勘定にし、保険料、現役世代からの支援金、公費(税金)の三つで賄う。「うば捨て山」と批判された構造自体は温存されるのだ。
 ただし、会社に勤めていたり、息子や娘らに扶養されていたりする人は健康保険組合などへ戻る。それ以外は国民健康保険に加入する。
 これで民主党が政権公約に掲げた「今の制度を廃止する」との約束を守ったと説明はできても、看板を変える以上の意味は見いだせない。
 その一方、各保険制度ごとに「別勘定」ができるため、お金のやり繰りは格段に複雑化する。制度のわかりにくさは、それ自体が不信を招く要因だ。高齢者と、それを支援している現役世代の双方が納得できないような制度になりかねない。
 厚労省は、他にいくつかの制度変更も提案している。
 高齢者の保険料率の伸びを今よりも抑える。高齢者への支援金を現役に割り当てる際、中小企業の社員が中心の協会けんぽでは負担を軽く、高収入の社員が多い健保組合では重くする。70歳から74歳までの窓口負担を1割から2割に引き上げる、などだ。
 また、長期的な課題として、国民健康保険の運営全体を市町村から都道府県単位にする方針も打ち出した。
 こうした変更は、現行制度下でも実施できる。余計な制度いじりと切り離し、実現可能性を探ればよい。
 政府は来年の通常国会に法案を提出するというが、こんな案は出すべきでないし、通るとも思えない。
 きのう、政府・与党社会保障改革検討本部が官邸に設置された。医療、介護、年金などを含めた改革の全体像について、財源の確保と一体的に議論するという。高齢者医療の混迷も、むしろ増税の必要について議論を深める契機と考えたい。
 新規の財源という要素が入れば、「年齢で差別し、負担を押し付け合う」現状を脱する道も見えてくる。その前に制度を変えても、また変更が必要になることは目に見えている。二度手間は避けるのが当たり前だ。