茨城県の潮来市は、“水郷”として全国に知られています。その東南部、東関道潮来インターにほど近い場所に、日の出地区はあります。
 ここ潮来は“水郷”という名が示すとおり、かつて霞ヶ浦の一部であった沼地が干拓によって次第に陸地化され、人為的に造られた土地という特性があります。特に、日の出地区は、旧名を「浪逆(なさか)」と呼ばれ、その由来は、万葉集の中に登場する「常陸なる浪逆の海の玉藻こそひけば絶えすれあどか絶えせん」の古歌によるといわれています。万葉集の通り、かつては湖であったところを、昭和14年に干拓が始められ、さらに昭和48年に鹿島開発に伴うニュータウンとして区画整理事業が始まりました。(昭和49年当時の国土地理院の航空写真を転載しています。ご参照下さい)
 これが、現在の「日の出ニュータウン」です。道路は碁盤の目上に整備され、住宅の建設が進み、潮来市民の25%近く2319世帯が暮らしています。
 この日の出地区が、今回の東日本大震災で液状化被害の直撃を受けました。斜めになった電柱、傾いた住宅、割れた水道管、至る所で陥没し、波打つ道路。歩道には50センチ以上突き出したマンホール。日の出地区に入ると、そこは正に異次元の空間のように壊滅的な被害を受けています。(3月19日、井手よしひろ県議は公明党・山口那津男代表と共に現地を調査しました)
 4月1日現在でも約70人の住民が避難所に避難し続けており、電気の復旧は県内で最も遅い3月18日までかかりました。断水も続き、復旧は5月下旬になる見込み。下水道も5月半ばの復旧見込みということで、トイレも使えない状況が続いています。
 液状化現象とは、砂の地盤が地震の揺れにより液体になる現象です。比重の大きい建物が沈み込んみ、反対に地中にある比重の軽い砂などが浮き上がったりします。
 水道や下水は管と管のつなぎ目がはずれ、そこから液状化した土砂が入り、下水道管が完全に詰まってしまっています。このために、復旧に2カ月以上かかる状態になっています。
 また、舗装された道路は沈降せず宅地だけが沈んだために、道路が敷地より高くなってしまっている場所も多くあります。このままでは、宅内の排水がままならず、復旧にあたっては道路そのものの高さを低くしてほしいとの要望が寄せられています。
 今、この地区で被災した方の関心は、どのような公的の支援を受けられるのかということです。新興の住宅団地であるため、多くの方がローンを抱えています。液状化して不等沈下した住宅を直すためには、・耐圧板工法、・プッシュアップ工法、・硬質ウレタン注入工法、・グラウト注入工法、・アンダーピニング工法など、様々な手法があります。一般の住宅を直すためには、300万円から800万円近く掛かるとされています。
 朝日新聞では、同じように液状化被害が出ている千葉県浦安市の事例が紹介されていました。
 いまだに上下水道が使えない浦安市今川地区。会社員の男性(38)方の2階建て住宅は、駐車場が道路から30センチほど沈んだ。床は玄関から奥に向かって傾いている。
 地震翌日の3月12日、住宅販売業者を呼ぶと「奥に13センチ下がっています」と言われた。発泡ウレタン樹脂を基礎に注入する沈下修正を行えば、「利益を乗せずに500万円と」あっさり提示された。
 その後、市文化会館で開かれた県建築士事務所協会市川・浦安支部の無料相談会に行くと「その傾きだとジャッキで床を上げて基礎を補強する必要があるのでは」と言われた。費用は最高で1千万円近いと聞き、頭を抱えた。
 2年ほど前に新築したばかり。住宅ローンは4千万円以上残っているという。
(朝日新聞3月18日付)
 国の被災者生活再建支援法では、被害の程度を4段階に分けて、最高300万円が支給されます。生活再建支援法の対象となるのは(1)建物の50%以上が損害を受けた「全壊」、(2)大規模な改修が必要な「大規模半壊」、(3)全壊以下の被害でも建て直しが必要な「半壊」、(4)住宅が「居住不能」な場合と定められています。損害が20%未満の「一部損壊」は、基本的に支援の対象にはなりません。全壊の場合は最大300万円が支給されます。
 この判定は、市町村の担当者が行うことになっていますが、120センチのひもにおもりをたらして、6センチ以上の傾斜(外壁又は柱の傾斜が1/20以上)が付いた場合は、「全壊」と判定されます。傾きが2センチ以上6センチ未満の場合は損害の割合を全体の15%として、屋根、壁、基礎など他の部位の損害と足し合わせて判断します。2センチ未満の場合は損害と判定せず、ほかの部位だけで判定することになります。
 前述の浦安市の場合、「建物自体の被害はひび割れ程度。建物の傾斜度も全壊・半壊の基準以下の場合が多い」と一次判定を行った市の担当者は語っていると伝えられています。
 そもそもこの判定法は、不等沈下が起こった場合の判定法であり、日の出地区でも見られる家屋が垂沈下した場合には、どのように判定されるのか疑問が残ります。
【参考】災害に係る住家の被害認定基準運用指針(平成21年6月改定)

 液状化被害に対する行政の対応は、未だに確立しているとはいえません。記憶に新しいところでは、阪神・淡路大震災の際の「芦屋浜シーサイドタウン」の事例があります。兵庫県が開発した埋め立て地・芦屋浜シーサイドタウンでは、液状化被害で、695戸ある戸建て住宅の大半が傾きました。住民達は、開発した県の責任を追及するために、芦屋浜復興会議を結成して、独自にボーリング調査も行いました。芦屋浜復興会議は、住宅修繕費として一戸当たり500万円を県に要求しました。しかし、県は、沈下した岸壁を耐震護岸に強化しましたが、住宅の補修費については「個人補償はできない」と拒絶しました。結局、各世帯が自己負担した修繕費は300万円から900万円といわれています。
 一方、2000年の鳥取県西部地震では、米子市の安倍彦名団地で大半の住宅が液状化で傾きました。鳥取県は、「人口流出を防ぐ」と独自の住宅再建支援策を実施し、液状化被害にも「道義的責任がある」とし、一戸最高約116万円を支給しました。
 今回の大震災でも、すでに千葉県は、県独自の住宅再建支援策を実施する方針を固めています。国の支援制度の対象外となる住宅について、被害の程度に応じて修繕費の助成や借り入れた費用の利子補給などを検討しています。
 国に対する液状化被害対策拡充を強く求めるとともに、茨城県や潮来市も、きめ細やかな支援策の検討が必要です。

現在の日の出地区を大きな地図で見る(GoogleMap)

国土地理院撮影の航空写真(昭和49年)
(国土地理院撮影の航空写真:昭和49年)
 3月31日、公明党の八島功男県議は、潮来市日の出町地区の住民43名から、様々な要望を直接伺いました。そのおもな内容を八島県議のブログから引用します。

  • 何と言っても上下水道を一日も早く復旧して欲しい。5月末は余りに遅く遠い。道路の本管ができなければ自宅に引き込めない。
  • 情報を早く伝えて欲しい。末端まで早く正確に全ての情報が必要だ。防災無線、チラシ、テレビ、壁新聞、回覧、これらでも足りないくらいだ。町内会に4割の人が入っていない。全員が一般紙を取っているわけではない。全ての情報を全員に知らしめて欲しい。
  • 潮来市に電話をすると代表電話に架かる。ここで質問に回答できないと担当課に廻る。時間が掛かり要領得ない。職員の教育をして最初に出たワンストップで回答できる態勢を作って欲しい。
  • 支援室に言ったが、若い職員で頼りなかった。ベテランを配置して、はっきりと自信を持った回答を聞かせて欲しい。
  • 液状化で、自宅敷地の地盤が下がった。道路は上がった。今後も道路が上がることはあっても下がらない。ましてや水道管等埋設物保護のため道路の高さは変えられない。それでは困る。雨が降れば敷地に水が入り、床下床上浸水になる。下水の配管も、道路側配管が上にあれば自宅からの下水は流れず、かえって逆流する。
  • 液状化した自宅の土台・家の傾斜の改築や、地盤の補強等をする工法の標準型を教えて欲しい。復旧工事を依頼するのに騙されたくない。市が責任ある業者を紹介し、工法の標準的な価格を示してもらえば安心である。
  • この日の出町は、将来安心して住むことができるのだろうか。
  • 町内の地形図があれば知りたい。常陸利根川と堤防囲まれたこの地は、もともと沼だったので水はけが悪い。その上に堤防で囲まれていて、雨も外には流れない。だから水が溜まる一方で今後の液状化の心配が続く。例えば、井戸のような排水竪穴を作り、雨水や低い層の浸透水を集めて排水するなど、常に水を抜く仕組みが大事ではないか。
  • 地盤改良には、砂にセメントを混ぜて地盤にするほうが良い。
  • 入梅の雨対策に間に合うように上下水を完全復旧させて欲しい。畳が上がるほど液状化の凄まじかった家では、今から消毒の準備をしている。
  • この日の出の街は、国策や県の開発の中で、鹿島開発に全国から人を呼ぶためにアルカディアのような触れ込みで開発したところだ。県に国にこの地を守る義務がある。今更だが騙された気持ちだ。
  • 全壊、半壊、大規模な半壊等に、原因として液状化を明確に記載して欲しい。また家の傾斜等も納得いく基準化が欲しい。もし法律を変える為に署名が必要ならいつでも立ち上がるつもりだ。
  • 家を修繕する費用は、見舞金とか、無利子の借入とか、もっと負担軽減をして欲しい。
  • 保育園の費用も登園しなかった日は、無料にして欲しい。
  • ともかく道路をシッカリ直して、自宅敷地の高さ基準をはっきりして欲しい。道路はどこが基準なのか。常陸利根川の水位より低い道路はダメ。この高さの基準を明確にして欲しい。
  • アパートに入居していた。退去を求められたが、転居する家は決まらない。引越し費用の助成はないのか。新築してまだ引き渡し前、ローンの最終資金実行前で住民票移動していない人の保障はしてくれるのか。
  • 日の出中学校の正門やフェンスは危険で、通学に不安だ。
  • 防災無線で、「絶対に」と言って下水に水を流さないように言っていたが、絶対になとはできないことを言うべきでない。