参考写真 大規模地震等の災害発生時、学校施設は地域住民のための応急的な避難所ともなる役割を担っています。そのために、耐震性の確保だけでなく、食料・生活必需品等を提供できるように必要物資を備蓄するなど、避難生活に必要な諸機能を備えることも求められています。
 この度の東日本大震災をはじめ、過去の大規模地震の際にも、学校施設は多くの住民を受け入れ、避難所として活用された実績は多々ありますが、その一方、当然のことながら学校施設は教育施設であるために、防災機能の整備が不十分なため、避難所としての使用に際して不便や不具合が生じたことも事実です。
 平成19年に文科省の研究機関がまとめた報告書(「学校施設の防災機能の向上のために〜避難所となる学校施設の防災機能に関する調査研究報告書〜」国立教育政策研究所文教施設研究センター平成19年8月、平成20年7月一部追記)によると、学校施設の必要な機能について、以下のようにまとめられています。
1)トイレ、シャワー
  • 避難所となる学校施設では、多数の避難住民が24時間生活を送ることとなるため、トイレ機能の確保が最大の課題である。
  • 断水時のトイレの使用に当たって、洗浄水を供給するためには、受水槽やプールの水の利用を具体的に検討する必要がある。
  • 学校施設を地域開放するために整備された屋外や屋内運動場内のトイレ、シャワー設備を災害時にも有効に活用することが望ましい。
  • トイレやシャワーが使用できない場合や不足する場合に備え、仮設トイレ・仮設シャワー等の設置数、設置方法、設置場所、汚物処理・排水方法等を検討することが望ましい。また、応急的な対策として、携帯トイレを備蓄することが望ましい。
  • トイレの検討に当たっては、夜間の使用を考慮し、照明の設置等についても併せて検討することが望ましい。また、仮設トイレについても照明がない場合の対応を検討しておくことが望ましい。
  • シャワー設備を災害時に活用するに当たっては、温水を供給するための熱源について検討しておくことが望ましい。

2)電気、水、ガス
(全般)
  • 電気、水、ガス等のライフラインの確保に関しては、復旧までの期間を想定し、その間の具体的な対策を検討する必要がある。
  • 電気、水、ガスに係る設備及び配管等の耐震性を確保することは、災害時のライフラインの被害を軽減するとともに、災害後の電気、水、ガス等の利用の継続につながる。

(電気)
  • 電力供給は早期に復旧する場合が多いが、停電時に必要な電力を確保するためには、可搬式発電機等の利用や非常用発電設備の設置を検討する必要がある。
  • 夜間の照明は、避難住民の不安を解消する意味でも効果が大きい。必要に応じて仮設用照明器具の利用も検討する必要がある。また、屋外照明については、太陽電池等の自然エネルギーを利用した充電式照明設備を設置することも考えられる。
  • 屋内運動場等の避難住民が生活するスペースでは、使用するコンセント数や使用機器の消費電力を確保できるよう検討しておくことが望ましい。

(水)
  • 断水時における水の使用用途(飲料用、生活用、トイレ洗浄用等)に応じて、プールの浄水装置や配管等の整備、可搬式ポンプの利用等を検討することが必要である。
  • 水の供給源としては、受水槽やプールの水の利用のほか、雨水利用や井戸による地下水利用も考えられる。

(ガス)
  • ガスが復旧するまでの調理に利用するため、カセットコンロ等を備蓄することが望ましい。
  • 給湯や調理等に使用する都市ガスの代替として、プロパンガスの利用を想定する場合は、プロパンガス及び必要器具の調達方法などについて事前に十分な検討が必要となる。

3)情報伝達手段
  • 避難所を運営する際の関係機関等との連絡のためには、電話やFAX等の情報伝達手段の確保が不可欠であり、避難所に指定されている学校施設には、災害時優先電話や地域防災無線などを設置することが望ましい。また、携帯電話のメール機能は通話よりもつながりやすい場合が多いので、その活用についても検討することが望ましい。
  • ラジオやテレビは、避難住民が必要な情報を得るための重要な手段である。また、避難住民の連絡手段として、電話やインターネットの利用も想定される。これら情報機器の活用のために、避難住民が利用するスペースには、テレビ、電話、インターネット用の配線やコンセント等を準備しておくことが望ましい。
  • 避難所内の連絡手段として、校内放送設備や掲示板等の具体的な活用方法を検討しておくことが望ましい。

4)室内環境
参考写真
  • 避難住民の生活の場として、健康で衛生的な室内環境を確保する必要がある。
  • 冬期の避難生活を想定し、暖房設備や可搬式の暖房機器など、生活スペース等の暖房方法を検討しておく必要がある。併せて、暖房時の換気方法についても検討することが望ましい。また、床に発泡スチロール等のマットを敷設することも、寒さ対策として効果的である。
  • 夏期の避難生活は、暑さ対策が重要であり、扇風機等の使用や仮設エアコンの設置などを検討しておく必要がある。また、日よけのためのカーテンの設置や窓を開放した際の虫よけ対策なども検討しておくことが望ましい。
  • 夜間就寝時の照明を調整するためには、照度調整や点灯範囲を工夫するほか、
  • 段ボール等を活用した簡易な遮光方法が考えられる。また、夜間のトイレ等への出入りに配慮し、消灯後の通路等の照明についても検討しておくことが望ましい。
  • 多くの避難住民が屋内運動場等の広い空間で集団生活を送る場合、プライバシーの確保が困難となり、避難生活が長引くにつれ、避難住民は大きなストレスを抱えることとなる。必要最低限のプライバシーを確保するために、段ボール製等の簡易な間仕切りを活用することも考えられる。なお、間仕切りの設置は、冬期の寒さ対策としても効果があるが、夏期は、風が通らなくなることに留意する必要がある。
  • 避難生活で生じるゴミの集積・回収、調理や洗濯等の排水処理、食料品の衛生管理についても必要なスペースや設備、取扱方法等について事前に想定しておくことが望ましい。
  • 避難住民の喫煙については、ルールを定め、必要に応じ、喫煙スペースを設けるなどの対応が望ましい。

5)要援護者対策
  • 要援護者を円滑に受け入れるためには、スロープ、障害者用トイレの設置等の学校施設のバリアフリー化が必要となる。
  • 特に、トイレについては、洋式便器を設置することが望ましい。また、トイレを単にバリアフリー仕様とするのみならず、更衣やおむつ替え等の機能も備えた多機能トイレとすることにより、要援護者に限らず、避難住民の生活に利便をもたらす。 】
  • 要援護者は一般の避難住民以上に室内環境の管理が大切なため、温度調整など個別の対応が可能な部屋を利用することが考えられる。

6)必要物資の備蓄
  • 学校敷地内または近隣に備蓄倉庫を整備するなど、避難所開設直後の応急対応に必要な食料・飲料水、生活必需品等の物資を備蓄しておく必要がある。

 こうした過去の教訓が、今回の大震災で活かされたかどうかは大いに疑問です。
 特に、短時間で復旧するという想定が今回の震災では通用しなかったため、電気の確保が最大の課題となりました。そのためには、長時間稼働が可能な自家発電装置の設置が必要です。
 また、携帯電話は一人一台の時代になっており、その充電器や多数のコンセントを整備することも重要です。
 段ボール製の間仕切りは、福島からの避難者を受け入れた霞ヶ浦総合体育館で、その威力を発揮しました。着替えをするするためのブランインドルームなどは、必ず整備することを考えるべきです。
 情報伝達については、一般の電話や携帯電話が通じないため、市町村の災害対策本部との連絡用の無線設備の構築が望まれました。