東京電力福島第1原子力発電所の事故は、国際原子力事象評価尺度で最悪の「レベル7」の状況が続いています。1号炉がメルトダウンしていたことも明らかになり、原子炉施設の復旧作業は難航。住民避難も警戒区域以外の自治体に広がるなど、国の原子力災害への対処は混乱しています。あるべき対処法を定めた原子力災害対策特別措置法の仕組みから見て検証してみたいと思います。(このブログ記事は、5/15日付けの公明新聞を参考にいたしました)
原子力災害対策特措法:適切に運用されたか
参考写真 原子力災害への対処は、放射線漏れを起こした原子力発電所(原発)の復旧を急ぐと同時に、放射線から国民の生命・財産を守るための避難を迅速・適切に実施することが基本です。
 そのための体制が原子力災害対策特別措置法(原災法=2000年6月施行)に定められています。国の責任で迅速に初期動作を実施することが目的です。
 今回の東京電力福島第1原発事故のような緊急時には、原発施設の事故拡大防止と復旧対策は、事業者である東京電力(東電)が行い、住民避難については、国と地方自治体が一体となって取り組む体制が構築されています。
 ところが、原発施設の復旧作業が一進一退の状況であるため避難の解除も展望できていません。しかも、避難区域外であった地域にまで避難措置が拡大されるなど、迅速に放射線から国民を守るための原災法が機能しているとは到底、言い難い状況です。
 原災法は、被ばくによる死者2人を出した1999年9月のJCO臨界事故の際、住民避難で混乱したことの反省に立って制定されました。その二の舞いを防ぐため、まず、国と地方自治体が迅速に行動するための拠点として、全国にある原子力施設の周辺地域に、緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンター=全国22カ所)を整備しました。(写真は福島県のオフサイトセンター)
 また、事故情報が確実に国と地方自治体に届くように、原子力事業者に対し、原災法10条が定める基準以上の放射線が漏れる異常事態が起きた場合の報告義務を課しました。
 さらに、その事故が原災法15条の基準(10条の基準の100倍の放射線漏れ)に当たる場合、首相は原子力緊急事態を宣言し、閣議で原子力災害対策本部を設置しなくてはなりません。このように、原子力災害については、国が主体となって事故対策に取り組む体制になっています。
 この対策本部は、防災基本計画で決められた体制に基づき、放射線の拡散予測データを使って周辺住民の避難について判断します。
 ところが、今回の事故では、国民にとっては、原発に何が起きたのかも当初はよく分からず、住民避難についても、半径20キロの警戒区域が設定されたのに、その範囲外にある福島県飯舘村が避難対象になるなど、容易に理解できない状況になってしまいました。
原災法の運用に数々の問題点、首相官邸が司令塔の役割果たさず
参考写真 今回の原発事故で、原災法は想定通りに機能していません。
 公明党の東京電力福島第1原発災害対策本部(党対策本部=斉藤鉄夫本部長)によると、官邸の不手際で原災法の運用面で多くの課題を残したことが判明しています。
 まず、初動については、原災法10条の通報義務は守られました。しかし、原災法15条の原子力緊急事態宣言(3月11日19時3分。地震発生と原子炉自動停止は同日14時46分、東電の全交流電源喪失通報は同15時42分)は、同法の規定通りに「直ちに」宣言されたとはいえません。
 また、政府の原子力災害対策本部の対応はどうだったか。浜田昌良党対策本部事務局長は、「情報のコントロールタワーになるべき本部が、『なにを基に、どう議論し、判断した』という発信をしないまま、東電、官房長官、原子力安全・保安院がバラバラで会見した」「対処が後手後手で発表も唐突。原子力の情報公開としては一番悪い」と厳しく指摘しています。
 確かに、原発冷却のための放水、放射能汚染水の流出、放射線漏れといった事象が日々、マスコミで報道されるだけで、政府から系統立てた説明が行われていません。
 また、防災基本計画で利用することが決まっている緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)で作成した試算図を政府は公表せず、細野首相補佐官が5月2日、「国民に開示して説明を加えるのが本来の姿。公表が遅れたことを心よりおわびする」と謝罪。原災法の想定とはほど遠い実態が明らかになっています。
 SPEEDI同様、対策本部が使う緊急時対策支援システム(ERSS)も事故発生直後から電源喪失で使用不能になりました。これは、原発事故を遠隔地から分析し放射性物質の放出予測をする仕組みです。
 また、福島県のオフサイトセンターは事故原発に近すぎるため利用できないなど想定外の事態も続いています。
 原子力施設での事故が発生し、原子力緊急事態に該当する場合(原災法第15条)には、国は内閣総理大臣を長とする原子力災害対策本部を内閣府に設置するとともに、最寄りの原子力災害対策センターに、国、県、関係町、事業者、防災関係機関、専門家等が一堂に会する「原子力災害合同対策協議会」を組織し、事故の状況把握と予測、事故収束のための措置、環境放射線モニタリング、住民広報、住民避難、被ばく医療措置、避難した住民に対する支援など各種の応急対策を関係機関が一体となって行いことになっています。現場には、国の責任者として産業経済省の副大臣、県の責任者といて副知事が陣頭指揮に当たることが、法律で定められています。
 しかし、そのオフサイトセンターが機能を停止したため、地元の自治体との連携を行うシステムが全く機能していません。地元のオフサイトセンターが機能していないのであれば、県をはじめ市町村の原子力防災の責任者を国の原子力災害対策本部に招集するべきであったと考えます。政府の稚拙な危機管理が、現状の現地の混乱を招いたと指摘せざるを得ません。