大震災で4割が即避難せず、住民の意識向上も急務
 巨大な津波が甚大な被害をもたらした東日本大震災を受け、津波警報の改善に向けた検討が進められています。
 東日本大震災では地震発生直後の津波警報で、実際の津波の高さを大きく下回る予測数値が発表されたため、かえって避難の遅れにつながったことが指摘されています。同じ悲劇を繰り返しては決してなりません。
 気象庁の報告によると、東日本大震災の発生時、緊急地震速報については、地震検知約9秒後に最初の警報を発表し、その後も地震の規模がより大きく推定されるに従って警報の範囲を広げ、地震検知から約105秒後には地震の規模をM8.1と推定しました。
参考写真 しかし、推定された震源位置は、震源決定精度が十分に保証された領域よりやや沖合に外れた海域であったため、この震源と規模のデータについては津波警報の発表には採用せず、通常の震源決定作業を開始しました。
 震源地の決定作業で、通常の作業手順に則って地震発生後3分を経過した時点で、震源を三陸沖、地震の規模を示すマグニチュードを7.9と推定しました。これは、推定された震源や規模は、地震調査研究推進本部の長期評価で想定されていた宮城県沖・三陸沖南部海溝寄り連動型(M8.0前後)と良く一致しており、地震波形の記録を見ても、長周期成分の卓越や、振幅の成長などの様子は見られず、気象庁マグニチュード(Mj)が飽和しているという認識はありませんでした。以上のことから、想定されていた宮城県沖地震が発生したものと判断し、震源決定作業で推定した震源と規模(M7.9)に基づいて津波警報第一報(高さ予想は宮城県6m、岩手県・福島県3m)を発表し、直ちに検潮所等による津波の監視を開始しました。
 結果的に、この「宮城県6m、岩手県・福島県3m」との第一報が、10メートルを超す津波が来るにもかかわらず発せられたことで、避難が遅れた要因ともなりました。
 一人でも多くの命を守るために、住民の避難を促す警報に改善する必要があります。
 8月8日気象庁は、津波警報の改善の方向性について、有識者などから意見を聞く勉強会を開催、その中間とりまとめを発表しました。
 地震の規模を示すマグニチュード(M)が8を超えるような巨大地震などの場合には、発生海域で想定される最大規模の地震に基づいた第一報を発表する方針です。その際、予想される津波の高さなどはあえて発表せず、「巨大な津波のおそれ」などの表現とすることが検討されています。
 大震災を教訓として、住民に誤った認識を持たれないよう、発信情報の表現に工夫を凝らす必要があります。
 同時に、大災害時でも津波警報などの緊急情報が住民に確実に届く施設整備なども、併せて進めるべきです。
津波に対しては、何よりも早く逃げることが重要
 ただ、津波から身を守るには「海の近くで大きな揺れを感じたら、津波警報を待たずに自ら直ちに避難する」のが基本中の基本です。
 今回の大震災では、津波の常襲地域でさえ、その基本が十分に実行されていなかった実態が浮き彫りになりました。
 政府が大震災の被災者を対象に実施した面接調査では、揺れがおさまった後、すぐには避難しなかった人が42%にも上りました。そのうちの多くは家族を探したり自宅に戻ったりしていたのです。
 平日昼間の発生で、職場や学校など家族が別々の場所にいたことを思うと、すぐには避難できなかった気持ちも理解できます。
 しかし、逃げ遅れては元も子もない。政府の調査では、揺れがおさまった直後に避難した人の中で津波に巻き込まれた人は1%にとどまったが、避難が遅れれば遅れるほど津波に遭遇しています。
 三陸地方には「津波てんでんこ」という諺があります。「てんでんこ」は「手に手に」に接尾辞「こ」が付いたこの地方の方言で、「てんでんばらばらに」という意味です。「津波が来たら、肉親に構わず、各自てんでんばらばらに一人で高台へと逃げろ」がこの諺の意味です。
 早期避難を促す仕組みの整備とともに、住民の意識向上も急がなければなりません。近い将来の発生が指摘される東海・東南海・南海地震などでも、大きな津波被害が懸念されています。あらゆる取り組みを総動員し、津波被害を減らことが必要です。