東京電力福島第1原発事故の被害者に対する本格的な損害賠償が今月からようやく動き出すことになりました。
 東電は8月30日、原発事故に伴う損害賠償の基準や手続きを発表しました。茨城県でも31日は、風評被害に遭った県内観光業者ら向けの説明会が初めて水戸市内で開かれました。
 説明会では、文科省原子力損害賠償対策室の松浦重和次長が、賠償の範囲を示した中間指針の内容を説明。東電福島原子力補償相談室の橘田昌哉氏が賠償金支払いの手続きを説明しました。
 これでやっと、避難住民や被害者の生活再建が一歩でも、前に進むことを期待したいと思います。ともかく、スピードが第一です。
 しかし、一般的に損害賠償の制度は、被害を金銭に評価する手続きが必要で、今回の原発賠償でも同様の手続きが取られます。避難の際の交通費や宿泊費、離職によって失った利益のように、損害額が出しやすい場合であっても、領収書などの書類がないと簡単にはいかないし、精神的被害の算出にいたっては非常に困難です。
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 東電はそのため、政府の「原子力損害賠償紛争審査会」が先にまとめた賠償の基準に関する中間指針を参考にして、さまざまな損害に対する基準額を提示しました。しかし、手続きが進む中で、賠償額について東電側と被害者側の主張が対立する可能性もあります。
 その場合、「原子力損害賠償紛争解決センター」で、東電との和解交渉を仲介してもらうことになります。同センターは申し立て受理から3カ月をめどに和解をめざす方針ですが、解決しなければ裁判になります。訴訟になれば時間と費用がかかります。
 この一連の手続きは、法制度としては公平・公正であっても、損害賠償を求める側は書類づくりなど煩雑な作業を強いられます。東電に対する「被害概況申出書」や、紛争解決センターを利用するときの「和解仲介手続申立書」にしても、そう簡単には記入できません。
 長期間、将来展望もない避難生活を強いられ、あるいは多大な損害を受けて仕事の立て直しに奔走している人を困惑させないよう、関係者は利用者本位で手続きを支援してほしい。法制度を生かすのは手続きです。
 現行法は原発事故の損害賠償については、電力会社に無限責任を負わせています。しかし、今回の事故は現行法の想定をはるかに超えた事態です。特別の手法をとらない限り、避難住民や被害者の生活再建が大きく遅れてしまうことは誰の目にも明らかだす。
 公明党の「国が前面に出て賠償に当たるべき」との主張もあって、与野党協議で原発事故の国の責任が認められ、賠償金の仮払い法などが成立し賠償制度の基盤が整いました。
 公明党の山口那津男代表は、党の中央幹事会で弁護士を積極的に活用する制度の整備を強調しました。被災者の側に立った視点で賠償の枠組みを進めていく責任が、政府にはあります。
参考:「福島第一原子力発電所および福島第二原子力発電所の事故による原子力損害への本補償に向けた取り組みについて」(東京電力のホームページ)