参考写真 衆参両院の選挙制度をめぐり、裁判所からは「1票の格差」の是正を求める判決が相次ぎ、国会は両院ともに早急な選挙制度改革を迫られています。
相次ぐ「違憲」判決/露呈した二大政党制の限界
 最高裁は今年(2011年)3月、「1票の格差」が最大2.30倍となった2009年の衆院選について、「違憲状態」との判断を下しました。また、最大格差が5.00倍となった2010年の参院選についても、各地の高裁で「違憲」もしくは「違憲状態」との判決が相次いでいます。
 最高裁はこれまで、「憲法は投票価値の平等を要求している」として、各選挙区における議員1人当たりの有権者数が平等であることを重視する一方で、選挙制度の仕組みを決める国会の裁量権も認めつつ、判決を下してきました。
 国政選挙に対して「違憲」判決が相次いでいることは、国会の裁量権を考慮したとしても見過ごせないほどの投票価値の不平等が生じていることを示しています。
 総務省が今月発表した住民基本台帳人口(3月末現在)を基にした報道各社の試算では、「1票の格差」はさらに広がっています。このまま放置すれば、選挙結果を「無効」とする判決が下される可能性もゼロではなく、早急な制度改革が求められています。
 一方、現行選挙制度の課題も浮き彫りになっています。
 衆院は1994年、二大政党による政権交代が起こりやすい小選挙区比例代表並立制を導入しました。当時はリクルート事件など「政治とカネ」をめぐる事件が続発、その原因は、過剰なサービス合戦に陥る中選挙区制と、政権交代がないからだとされていました。
 しかし、衆院選が現行制度で既に5回行われたものの、二大政党制や政権交代の実現で政治が良くなるという期待は裏切られています。むしろ、近年は「政争主義」や「対決至上主義」が横行し、二大政党制の限界を露呈しています。
 参院でも衆院での対決型政治の影響で民主、自民両党の激突が目立ち、法案審議や国会同意人事などで国会が動かない場面が増えてきています。
【1票の格差とは】
 議員1人当たりの有権者数が選挙区ごとに異なることによって生じる「1票の価値」の格差。2009年の衆院選で小選挙区ごとの当日有権者数を比較すると、最も少ない高知3区(21万1750人)の「1票の価値」は、有権者数が最も多い千葉4区(48万7837人)の2.30倍となっています。また、2010年の参院選の選挙区では鳥取県(当日有権者数48万5912人、定数2)の「1票の価値」は、神奈川県(729万4561人、定数6)の5.00倍です。
衆議院の選挙制度の問題点
「1人別枠」廃止は急務/著しい得票率と議席数の乖離
 衆院の「1票の格差」を是正するため、最高裁は今年3月の判決で「1人別枠方式」の廃止を求めています。1人別枠方式は小選挙区の300議席を、まず47都道府県に1議席ずつ配分し、残り253議席を人口比で割り振る仕組みです。
 最高裁は判決で、この方式を「格差を生じさせる主因」と指摘。制度導入から10年以上が経過した現段階では「合理性は失われた」として「できるだけ速やかな廃止」を求め、「投票価値の平等の要請にかなう立法的措置を講ずる必要がある」としています。
 政府の衆院議員選挙区画定審議会は2010年の国勢調査結果に基づき、小選挙区の区割り見直しに着手していましたが、最高裁判決を受けて作業を中断しています。国会が結論を出さなければ作業が進まない事態に直面しているのです。
 ただし、「1人別枠方式」を廃止しさえすれば、「1票の格差」の問題が解決するわけではありません。
 駿河台大学の成田憲彦教授は「完全に人口比例で各都道府県に議席を配分しても県間格差は1.64倍。(区割り改定が行われる)10年にわたり2倍より低く抑えることは難しい」と指摘しています。さらに、今後の日本政治は「国民的合意を形成することが課題」とし、「小選挙区中心の『並立制』では、合意形成型の政治を確保できない」と述べています。
 また、小選挙区制において特に問題なのは、得票率と実際に獲得する議席数(議席獲得率)が著しく乖離していることです。
 2005年の衆院選では、小選挙区での自民党の得票率は48%でしたが、議席数では全体の73%を占める219議席を獲得。民主党は36%の得票で、52議席(17%)にとどまりました。また、09年の衆院選では、民主党が47%の得票で221議席(74%)を獲得、自民党は39%の得票で64議席(21%)に止まりました。
 現行制度は、こうした小選挙区の弊害を緩和、修正するために比例代表との並立制としていますが、現状は小選挙区偏重となっています。より民意を反映するには、比例代表の比重を強める必要があります。
小選挙区比例連用制の検討を
 世界の選挙制度を大きく分類すると、(1)小選挙区制(2)比例代表制(3)小選挙区と比例代表を組み合わせた制度――の三つになります。
 東京工業大学の田中善一郎教授によると、小選挙区制は米国や英国など47カ国、比例代表制はヨーロッパ諸国など70カ国、組み合わせの制度は日本や韓国など21カ国で採用されています。
 小選挙区制の特徴は、民意を集約して議席に反映させることです。一方、各選挙区で最も多く得票した1人のみが当選するため、死票が多くなります。
 大政党に有利で小政党には厳しい制度ですが、二大政党化を促し、結果としては民意によって政権党が選ばれることになります。
 しかし、実際の選挙結果を見ると、議席数では過半数を確保しても、得票率は50%に届いていないケースが多いのも事実です。場合によっては得票率の低い政党の方が多くの議席を獲得し、政権を握る“逆転現象”が生じることもあります。
 一方、比例代表制は、民意をほぼ正確に反映できることが大きな特徴です。得票数に比例して議席を配分するため、死票が少ないのが長所です。
 ただ、小政党でも議席を獲得しやすいため、小党乱立を招く可能性があります。一つの政党が単独で過半数を得ることは難しく、「政権が不安定になる」との指摘もあります。
 小選挙区と比例代表を組み合わせた制度としては、日本の衆院などで採用されている小選挙区比例代表並立制や、ドイツなどの小選挙区比例代表併用制、その折衷案的な小選挙区比例代表連用制などがあります。
 併用制は有権者が小選挙区と比例代表の2票を投票するのは並立制と同じですが、議席の配分は比例代表の得票数によって決定されます。当選者は小選挙区の候補を優先しますが、比例代表中心の制度です。
 連用制は、小選挙区での獲得議席が少ない政党ほど比例代表の議席が優先的に配分される制度です。日本では1993年、有識者による「政治改革推進協議会(民間政治臨調)」が連用制を提起しました。
参考写真 この連用制を現行の並立制と比較して検証してみます。
 現行の制度では、比例票をドント式で配分します。ドント式は各党の得票を1から順に整数で割っていきます。右の表の事例では、A党の得票7000票を1、2、3と割っていくと7000、3500、2333となります。同じようにB党、C党も計算し、その商(割り算の結果)が多い順に議席を配分していきます。その結果は、比例の定数9はA党に4、B党に3、C党に2議席が配分されます。
 それに比べて連用制は、ドント式の整数1から割っていくのではなく、小選挙区で獲得した議席に1を足した数字から割っていきます。A党の場合は小選挙区で10議席を獲得しているとすると、11から12、13、14と割っていきます。B党は小選挙区が4議席とすると、5、6、7、8で割っていきます。C党は1議席ですので、2、3、4、5で割ります。こうして計算された結果を上から配分していくと、A党は1議席、B党は4議席、C党は4議席となります。
 このように連用制は、小選挙区制度の欠点を比例制度の中で是正する効果が高く、選挙制度改革の大きな選択肢となり得ます。
公明党は連用制、並立制、中選挙区制の3案を引き続き検討
 9月21日、公明党の政治改革本部は、衆院選挙制度について、「1票の格差」是正や定数削減のために抜本改革を行い、各党に選挙制度に関する協議会の設置を呼び掛けていくとする中間取りまとめを行いました。
 今回の中間取りまとめでは、「1票の格差」是正について「国政に携わる側として行っていかなければならない」との認識で一致。定数削減に関しては、すでに前回の選挙制度改正で比例代表を先行して20議席削減していることを踏まえ、「小選挙区から削減すべき」と結論づけました。
 あるべき衆院の選挙制度としては、「民意に沿った制度の改正を行い、次期衆院選から実施する」として、比例代表に重きを置く小選挙区比例代表連用制や併用制、中選挙区制の3案を引き続き検討していく方針を決めました。