参考写真 2004年の「年金安心100年プラン」による年金改革からわずか7年。厚労省の社会保障審議会年金部会に示された「年金支給開始年齢の引き上げ」案は、あまりにも唐突で、国民を愚弄する計画です。“政治指導”を強弁する民主党政権が、いかに官僚を制御できずにいるのか、官僚の独断専行を許しているのか、雄弁に物語るものとなりました。
 年金の支給開始時期という老後の生活設計の屋台骨の部分を、かくも簡単に議論して良いのだろうか。年金に対する国民の不信感が、いや増して高まることを懸念します。
 現在、厚生年金のうち基礎年金は原則65歳から、報酬比例部分は60歳からそれぞれ支給されています。
 このうち、報酬比例部分について男性は平成25年度まで、女性は30年度までに65歳とし、基礎年金と時期を合わせることが既に決まっています。
 これに対して厚労省は、来年60歳となる1952年(昭和27年)生まれの人は、引上げ前倒しはできないので、1953年生まれの人から引き上げていくこととし、従来の3年に1歳ずつ引き上げるスケジュールを前倒しし、2年に1歳ずつ引き上げる例を提示しました。(第1の案)
 さらには、支給開始年齢が完全に65歳に引き上がった以降も、厚生年金・基礎年金とも引き上げる例を提示しています(第2、第3の案)。第2の案では、厚生年金について、現在の65歳への引上げスケジュールの後、さらに同じペースで68歳まで引上げ。併せて基礎年金についても68歳まで引上げるとしています。第3の案では、第1の案で前倒しを行った上で、さらに同じペースで68歳まで引上げるとされています。
 支給開始年齢の引き上げで、当然年金会計の負担は軽減します。厚労省の資料によると、2016年において1歳引き上げることによって8000億円縮小すると試算しています。
 しかし、それには大きな影響が伴います。一番の問題は、引き上げた場合、無収入の人が増えることです。政府は、希望者全員の65歳までの継続雇用を徹底させるため、高年齢者雇用安定法の改正を検討しています。しかし、経済界が反発し、実現のめどは全く立っていません。仮に定年が延長されても、若者の就職に影響が出る心配があります。
 世代間格差も深刻です。厚労省の引き上げ案では、61〜64歳の「団塊の世代」の給付には影響は出ませんが、51歳以下の開始時期は、現行の64歳から68歳まで4年間も引き上げられます。仮に、年金額を月25万円と仮定すると、1200万円もの年金支給額に格差が生まれてしまいます。
 厚労省は部会の議論を受け、来年の通常国会にも法案を提出したいとしていますが、冗談ではありません。民主党政権は、“年金支給開始時期の引き上げ” をマニフェストに一言もうたっていません。仮に、法案提出を強行するのであれば、消費税の引き上げと同様に、総選挙での国民の審判を仰ぐべきです。
参考:厚生労働省第4回社会保障審議会年金部会「支給開始年齢について」