郡山にBNCTの拠点病院、茨城県の研究施設と競合?
 東日本大震災の復興支援に関連して、ホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy:BNCT)治療が話題になっています。BNCT治療とは、原子炉等から発生する中性子とそれに増感効果のあるホウ素との反応を利用して、正常細胞にあまり損傷を与えず、腫瘍細胞のみを選択的に破壊する治療法です。現在は臨床研究の段階ですが、がん細胞と正常細胞が混在している悪性度の高い脳腫瘍をはじめとするがんに特に効果的で、生活の質(QOL)に優れています。特に肺がん治療に有望とされています。
 このBNCT治療を、福島県が復興の一つの柱にしようとしています。総合南東北病院(南東北がん陽子線治療センター)に、このBNCTの臨床研究拠点を創設し、京都大学や筑波大学の研究者とともに治療や研究を行なうと発表しました。
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 しかし、この動きに神経をとがらせているのが茨城県です。東海村は、原子力を医療に活用する分野でも、先導的な役割を担ってきました。東海村では、BNCTの実用化に向けた新たな取組が、以前から続けられており、2009年1月現在で96例の治験の実例があります。茨城県では、つくばの高エネルギー加速器研究機構と東海村の原子カ研究開発機構、J−PARCを中心に関係者が連携して、東海村にBNCTの実用化に向け、機器の開発や施設の整備が開始されていました。
 茨城県では、産学官プロジェクトチームがBNCTの研究を進め、2015年度までに先進医療の認定を目指すとしています。東海村には、現在、「いばらき中性子最先端医療研究センター」が整備中であり、国も、この計画を支援する立場でありました。
 しかし、福島県でも同様の計画が発表され、国の3次補正予算に約100億円の予算が盛り込まれました。今まで脈々と続けられた茨城での研究を、国は今後どのように位置づけようとしているのか、理解に苦しむとの意見もあります。
 茨城県では、東海村のいばらき量子ビーム研究センターの敷地内に、「いばらき中性子最先端医療研究センター」を整備中です。並行して筑波大学を中心に小型直線加速器を用いた治療装置の開発が進められています。2012年度中には施設の整備にあわせて治療装置等の組み立てと据え付けを完了させ、13年度当初から試運転を行う予定です。その後、動物実験で安全性と有効性を確認したうえ、患者に対する臨床試験を開始し、2015年度中には先進医療の承認を受け、がん患者の治療を開始する計画です。 福島県において行われるBNCTの研究は、主に京都大学が進めてきたものです。円形加速器を用いた京都大学の大型の治療装置と同じものを民間医療機関に設置し、BNCTの治療法の実用化のための研究を行うものです。
 この治療装置は、加速器だけでも重量が60トンにもなる大がかりなもので、一般の病院への設置は困難であると言わており、専門の病院を福島に整備することに目的があるようです。
 BNCTを広く一般の病院に普及させようとする茨城県の研究は、重量が3トン程度の小型直線加速器を用いた治療装置の開発を進めており、その研究の方向性は若干異なるようです。
 茨城県は、BNCT研究に対する国の支援が、福島県の施設に偏ることがないよう、強く国に働きかけていくことになります。