参考写真 日本医師会は、今年度の日本医師会医学賞並びに医学研究奨励賞の受賞者をそれぞれ決定しました。その中でも特に注目されているのが、北海道大学の浅香正博特任教授の「わが国から胃癌を撲滅するための具体的戦略」との論文です。浅香教授は、胃がんの発生とヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の研究に関する第一人者。ピロリ菌を除染することにより、胃がん発生率の減少が期待されており、胃がん撲滅への具体的な戦略を示した論文に高い評価が寄せられています。
 今、日本人男性のがんの発生率トップは胃がんです。日本は先進国の中でも、胃がん発生率が非常に高い国です。20世紀初頭、アメリカも胃がんの発生率が高かったのですが、電気冷蔵庫の普及とともに急速に下がりました。ところが、日本では電気冷蔵庫の普及後も、発生率は欧米ほど下がりませんでした。
 その原因については当初、塩分やストレスなどが指摘されてきました。しかし、1982年に胃粘膜からピロリ菌が発見され、その後の研究で、長年にわたるピロリ菌の感染によって胃の粘膜が萎縮し、胃がんが発生することが明らかになってきました。
公明党秋野参議院議員の質問で、厚労省が胃がんとピロリ菌の因果関係を初めて認める
 国際がん研究機関(IARC)が1993年、胃がんの原因の一つはピロリ菌だと結論を出しました。日本では今年2月、公明党の秋野公造参議院議員が政府へ出した質問主意書に対し、ようやく胃がんとピロリ菌の関係を容認する答弁がありました。(胃がんとヘリコバクターピロリとの関連を踏まえたがん対策に関する質問主意書:平成23年2月10日)
 これまで、国は胃がんとピロリ菌に関係を長く否定し続けてきました。秋野質問は、画期的な出来事であったと言えます。
 日本では胃がんの診断や治療の技術が進んだにもかかわらず、約40年間、毎年約5万人もの胃がん患者が亡くなっています。この数字は今も変わっていません。日本では胃がん対策がうまくいっているとはとても言えません。
 治療技術とともに胃がん予防策を強化することが大切です。日本では主にバリウムを飲んでレントゲン撮影を行う胃がん検診が行われています。バリウムを飲むことに抵抗感を持つ人は少なくありません。ですから検診率が低いことが課題であり、検診受診率を50%へ向上させることは容易なことではありません。
 こうした中で、薬剤を服用してピロリ菌を除菌すると胃がんになりにくいということが最近になって明らかになりました。ピロリ菌を除菌すれば、胃がんを予防できるということです。
 胃がん患者の95%はピロリ菌に感染しています。ピロリ菌が無い人は、ほとんどが胃がんになりません。ピロリ菌を除菌すると胃がんの発生を3分の1以下に抑制できるとされています。
 胃がん検診のあり方自体を改善する余地が大いにあります。今、行われている胃バリウム検診は受診率が低い上に早期胃がんの診断能力は低いのが欠点です。また、40歳から検診をしていますが、胃がんの97%は50歳以降に発生します。
 従って、胃がん検診は50歳以降から行うことが重要です。一方、それより若い世代はピロリ菌検査を行い、感染している場合は除菌すればほとんどの胃がんの予防が可能となります。胃がん予防対策を前進させるには、こうした発想の転換が求められているのです。
 実は、大腸がん検診用の検便キットでピロリ菌の検査もできるのです。40歳までの若い人には、大腸がんの検診とあわせて、ピロリ菌の検診も行う。ピロリ菌の感染が分かって除菌すれば、その後は胃がんになりません。検便キットを活用したピロリ菌検査は、まさに一挙両得の非常に興味深い発想です。
ピロリ菌の除菌で胃がんの予防が可能、検診とともに対策強化を
参考写真 前述の浅香教授が掲げる「胃がん撲滅計画」では、若いうちほど除菌の効果があると指摘されています。若いほどピロリ菌による胃粘膜の損傷や萎縮が少なく、除菌によって回復しやすいと指摘されています。できる限り若いうちに除菌することが大切なのです。「胃がん撲滅計画」では、ピロリ菌検査に加え、胃がんの死亡率が低い世代を除いた50歳代を対象に、胃が萎縮しているのか確認する検査を義務付けることを提言しています。
 まずピロリ菌検査を行い、陰性の人は、胃がんになる可能性は極めて低い。また、ピロリ菌に感染していても胃の萎縮が進んでいない人の場合は、除菌さえすれば、ほぼ胃がんになることはありません。もし胃が萎縮している場合は、除菌の上、定期的な内視鏡検査を行って対応すれば早期胃がんのうちに発見できのです。
 現在、胃がんを発症する人は毎年約11万人に上り、死亡者数は約5万人です。団塊の世代が胃がんを発症しやすい60歳以上となっていることから、今後も死亡者数と治療費は上昇傾向にあると予測できます。こうした中で浅香教授の先生の「胃がん撲滅計画」を実施すれば、死亡者数と治療費を大幅に減少させることが可能です。
 仮に計画を実施しなかった場合、今後、死亡者数が増加します。一方、計画を実施して検診受診率を50%へ向上させれば、2020年には死亡者数を3万人程度に減少させることが予測できます。また現在、胃がんに関する治療費は3000億円程度です。これをこのままにしておくと、2020年には約5000億円にも上る可能性がありますが、計画を実施すれば治療費を大幅に抑制することができます。
 胃がん対策を放置せず、検診と除菌を強化していけば、わが国から胃がんを撲滅できると確信します。公明党は全力で国民の生命を守る政治を一層、進めてまいります。
(この記事は、12月18日付け公明新聞の記事、ならびに北海道大学の浅香正博特任教授の所属する「北海道大学大学院医学研究科がん予防内科学講座」のホームページを参考にしました)
【ピロリ菌とは】1980年代に発見された細菌で、胃潰瘍や胃がんの原因になるとされる。らせん状のべん毛を動かして移動し、胃粘膜の下層に潜り込む。体内の酵素で作ったアンモニアで自分の周りを覆い、胃酸を中和することで強酸性の胃の中で生息し続ける。胃酸の分泌が十分ではない乳幼児期に感染しやすく、汚染された水が原因と推測されている。