参考写真 茨城県は医師不足とともに、深刻な看護師不足に見舞われています。平成21年地域保健医療基礎統計よると、人口10万人当たりの看護師の数は525.0人、准看護師は291.6で、合計は816.6人で、都道府県別にみると全国42位という下位に属します。
 2006年、診療報酬の改定が行われ、患者数と看護師数の割合によって、診療報酬が手厚く加算されることになりました。以前までは診療報酬で認められている患者に対する看護師の人員配置は「患者10人に対して看護師1人」というのが最も厚い人員配置でしたが、改定後は「患者7人に対して看護師1人」(7対1看護)という配置が新しく誕生しました。これにより急性期型の病院がその診療報酬を得ようとして看護師を募集しているという背景があります。
 世界的に見てみると、日本の医療の特徴は、人口に対する病床(ベット数)が先進国の中でも多く、反面、病床に対する看護師数が極端に少ないことが挙げられています。
 医師の数が不足する中で、より専門的な知識と技量を持つ看護師を求める声は高まっています。さらに、高齢社会の中で、高齢者の看護に当たる看護師の要請も多く、現在、焦点になっている「特定看護師」など、日本の看護師制度の課題について整理をしてみたいと思います。尚、ブログ掲載にあっては、2011年12月28日付けの公明新聞の記事を参考にしました。
特定看護師(診療看護師)の制度化:医師に代わり患者を診察
 医師の指示の下で、自らの判断で特定の医療行為ができる特定看護師(仮称)の制度化に向け、政府が検討を進めています。
 現在の制度では、患者への注射は医師の具体的な指示の下でしか行えませんが、特定看護師に認定されると、医師の計画に基づいて自分で薬の量や種類を判断できるようになり、カテーテル挿入時の介助や傷口の縫合などの医療行為が可能になります。
 特定看護師が検討されている背景には、医療が高度化して医師や看護師の業務が増える一方、医師不足という現状があります。現在、診察から薬の処方まで医師が行っていますが、その一部を医師の指示を受けた特定看護師が担うことで、医師はより高度な治療に専念することが可能になります。
 患者側から見れば、特定看護師制度が導入されれば、外来で数時間待っても医師の治療は数分という現状が改善され、特定看護師からきめ細かい診察が受けられることが利点とされています。
 厚生労働省が示した案によると、特定看護師の認定に必要な要件として、看護師の実務経験が5年以上あり、国が実施する試験に合格することを挙げています。
 厚労省は今後、具体的な議論を進め、来年の通常国会には看護師の業務内容を定めた「保健師助産師看護師法」の改正案提出をめざす方針です。
 しかし、制度を導入すれば看護師の業務が増えるのではないかという指摘もあります。また、報酬や待遇面、教育制度をどうするかなど多くの課題も残されています。日本医師会では、「現在、議論となっている特定看護師問題については、医師不足を補うために看護師に医師の代わりをさせたいという一部の医師と、“看護の自律、キャリアアップ”のために必要と主張する一部の看護師に端を発するものであり、業務範囲の拡大によって医療安全が損なわれることがあってはならない」と、新制度導入に慎重な議論を求めています。
外国人看護師受け入れ問題:語学研修など一層の支援が必要
 人材交流などを通して経済の連携を強化する経済連携協定(EPA)で、これまでにインドネシアやフィリピンから多くの外国人看護師候補が来日していますが、日本語による国家試験の難しさなどが問題になっています。
 日本で看護師国家試験を受験した人は、2009年度254人で合格者はわずか3人、合格率は1.2%にとどまっています。
 こうした現状に対し、公明党の古屋範子衆院議員は2010年3月、衆院厚生労働委員会で外国人看護師候補の国家試験の抜本的な改善とともに、国の責任で日本語教育に取り組むべきと要望しました。
 これを受けて厚労省は、10年度(11年2月実施)から試験問題で難読用語への振り仮名や疾病名に英語併記をするなど、設問の約200カ所で対応策を実施しました。この結果、10年度は398人が受験し、16人が合格。前年度からわずかながら、合格率が向上しました。
 一方、外務省は受け入れ前の現地での日本語指導の強化にも取り組んでいます。インドネシアでは10月、看護師・介護福祉士の候補者として来日をめざす日本語研修の開講式に200人の研修生が集まり、研修が始まっています。
 訪日後は、日本語学校で学ぶ経費の支援や看護の基礎研修などを実施。また、過去の国家試験問題を英語とインドネシア語に翻訳し、配布する予定になっています。
 外国人看護師候補者が十分に力を発揮できるよう、政府には一層の支援拡充が求められています。
訪問看護の拡充、潜在ナースの再就職に期待
 高齢化が進展する中、在宅医療の要である訪問看護の役割は大きくなっています。
 在宅介護の充実には、医師の指示に基づいて看護師などが家を訪問し看護サービスを提供する「訪問看護ステーション」の拡充が大きなポイントになります。政府の目標(9900カ所)に対し、5884カ所(2011年8月現在)にとどまっています。
 訪問看護ステーションについて、現行制度では「常勤換算で最低2.5人の看護職員が必要」と規定されています。つまり、2.5人の看護師がいないと開業ができず、例え開業しても、3人のうち1人が辞めれば事業を休止せざるを得ないのが実情なのです。訪問看護ステーションが増えない理由の一つとして、この「2.5人」という規制が指摘されています。
 厚労省は基準を見直すと「夜間や緊急時の対応が不十分になる」としていますが、看護師側は助産師が1人でも開業できることから、「助産師ではよく、看護師ではなぜだめなのか」といった声も多くあります。
 また看護師側は、1人開業が認められることの利点として、子育てで家庭に入った潜在看護師(ナース)を発掘できると指摘しています。潜在看護師は55万人いると推計され、そうした人が再び仕事に就けば、看護師不足の解消ができるという主張です。
 政府の社会保障改革案では訪問看護の拡充が一つの柱になっています。「2.5人」問題を含め、早急に具体策を示すべきです。
専門職としての看護師の処遇改善を
 日本の看護師制度の歴史は、欧米と比べると、医師の下働き、補助的な役割のイメージが強く、専門性を高め、ステップアップするようなシステムがありませんでした。
 アメリカの場合を見ると、医師と看護師は対等な関係という位置付けです。それぞれが独立した職種であり、協働しながらやっていくのが原則です。
 また、アメリカでは、看護師の資格を持っている人が看護学の大学院を修了すると、ナース・プラクティショナー(Nurse Practitioner)という上級看護職の資格が取れます。具体的には、麻酔を施すことや薬の処方など患者に対し一定レベルの診断や治療などを行うことができます。
 日本でも現在、特定看護師が注目されていますが、この制度をほぼ踏襲したものといえます。
 また、日本は欧米に比べると医療現場での分業が遅れています。アメリカのように医師と看護師の分業はもちろん、看護師に関する仕事の分業も必要です。
 看護師は自分の専門分野をさらに深めようとしても、看護師以外でもできる仕事に忙殺されているのが実態です。そうした仕事は別の人ができるような分業の仕組みをつくるべきです。
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