震災復興で注目される、まちづくりの視点
 東日本大震災の被災地で本格復興に向けた「まち」の再生が進みだしている中、持続可能なまちの形態として「コンパクトシティ」が注目されています。全国の自治体が高齢社会への対応や財政破綻の危機などに直面する日本において、持続可能なまちへの転換は全国的な課題といえます。
持続可能なまちに再生/暮らしに必要な機能を集約
参考写真 「コンパクトシティ」とは、住宅や学校、病院、商店街、行政機関など、暮らしに必要な機能が一定の地域内に集約された「まち」のことです。
 鉄道やバスなどの公共交通機関を使えば、自動車に頼らず、歩いて生活することができるのが特徴です。主に中心市街地の活性化や環境負荷の軽減などの観点から、取り組みが進められてきました。
 東日本大震災の被災地では各自治体が「復興計画」を策定していますが、岩手県や仙台市など、コンパクトシティの概念を盛り込む自治体が目立っています。
 大震災で3000人以上の死者が出た宮城県石巻市は、防災上の課題とともに「人口減少や高齢化の進行、コミュニティ機能の低下、経済活動の低迷や環境問題」といった課題に対応するため、「災害に強く安全・安心でコンパクトなまちづくり」を表明しています。中心市街地エリアは「(商店街や住宅など)多様な都市機能を集積させ、にぎわいのある新生中心市街地をめざす土地利用を推進する」としています。
 また、宮城県は大震災で被災した県内の全142漁港のうち、約4割に当たる60漁港を拠点に、魚の加工や流通などの機能を集約することにしています。
 共通しているのは「持続可能なまち」への再生をめざしていることです。
 東北地方は大震災の前から全国を上回るスピードで人口減少や高齢化が進んでいました。復旧・復興で震災前のように戻したとしても、その集落や漁港などが将来にわたり存続できるかどうか、見通せない状況でした。
 まちの本格復興には、地域住民の意思を尊重することは大前提として、社会や経済、環境、エネルギーなど、さまざまな観点から持続可能性を考慮したまちづくりが求められています。
高齢社会への対応急務/車依存からの脱却必要 地域力の強化が不可欠
 人口減少や高齢化は、全国の自治体が同様に直面している課題でもあります。コンパクトシティへの転換は、全国的にも必要性が高まっています。
 世界に例を見ないスピードで高齢化が進んでいる日本。2011年版の「高齢社会白書」によれば、日本の総人口のうち65歳以上の高齢者は約23%を占めており、既に5人に1人が高齢者になっている。今後の高齢化の進展で、30年には高齢化率が32%に達し、実に3人に1人が高齢者になると予測されています。本格的な高齢社会に対応した、新しい「まち」への転換が急がれています。
 大震災を受けて、地域で支え合う「共助」の大切さが再確認されましたが、高齢者は災害などの緊急時に“弱者”になる可能性が高くなっています。
 高齢者の安全を守るには、地域力の強化が欠かせません。筑波大学大学院の谷口守教授は「高齢者が増えると、人と人とのつながりが相対的に強くなるまちづくりが求められる。まちの形態的には、コンパクトシティが高齢者にとっていいことは間違いない」と強調しています。
 一方、高齢になれば誰もが自分で自動車を運転できなくなるため、買い物や通院など日常生活で不便を感じる場面が少なくない。谷口教授は、「車の運転を前提にした住まい方では、対応できないことが増えてくる」と指摘しています。
 現在のまちは、少なからず自動車の利用に依存した構造になっています。自動車を使わなくても生活に困らないまちに変える必要があります。
財政破綻の危機回避を/膨らむまちの維持費を抑制
 自治体の多くが抱えている大きな課題の一つが、危機的な財政状況です。
 郊外への開発が進み「まち」が拡大するにつれ、道路や上下水道などのインフラ(社会基盤)を整備・維持するコスト(費用)は必然的に増大します。その財政負担が自治体に重くのしかかっています。
 谷口教授は「自治体はもう財政制約的に、新たなインフラに回せる予算は少なくなっていくことは明らかです。コンパクトシティに転換しないと将来、財政が破綻する可能性がある」と指摘しています。
 人口減少に対応し、膨らむまちの維持費用を抑制していかなければなりません。
 一方、コンパクトシティは環境問題に対しても有効です。二酸化炭素の排出など環境負荷を軽減できるほか、空いた土地を自然に戻し、失われた生態系を再生させる取り組みなども可能になるからです。
 持続可能な社会を見据え、コンパクトシティへの転換が急がれています。