参考写真 4月19日、茨城県の橋本昌知事の定例記者会見が行われ、福井県の関西電力大飯原発が再稼働に向けて動き出していることについて、「福島第1原発の事故を踏まえた新しい安全基準が出されたことは一歩前進だが、その安全基準を原子力安全・保安院が策定後に第三者のチェックを受ける必要があるのでは」と語りました。
 また、原子力規制庁の発足が遅れていることについては「UPZ(緊急時防護措置を準備する区域、おおむね30キロ)などへの対応措置が示されないため避難計画などが作れない。東海第2原発の方向性が決まらないと県庁やオフサイトセンターの対応もできない」とし、国対応の遅さを厳しく批判しました。
 東海第2原発を再稼働せず廃炉にすることを求めている市民団体などから17万人の署名が提出されたことについては、「県が判断する場合の大きな要素になる」との認識を示しました。
 知事の記者会見の概要から、東海第2原発再稼動問題など原子力関連のやり取りを抜粋して掲載します。
日刊工業新聞:先日、枝野経産相が、原発が一瞬ゼロになるという話もありましたが、それに対する知事のご所感を
知事:一瞬というのはどういう意味なのか、我々も聞いていて疑問に思ったのですが、すぐどこかの原発が再稼働できるということを前提にしているように聞こえてしまうので、そういった意味ではあまり適切な表現ではなかったかと思っております。
 いずれにしても、(国が関西電力大飯発電所の再稼働を)福井県にお願いしている最中でありますから、お願いするのであればお願いするらしく、できるだけ早くということを言われればいいので、いつまでにはできないだろうから、一瞬原発が停止するというようなことを言われる必要はなかったのではないかと思います。
NHK:大飯原発の再稼働について具体的に動き出したことについて、知事の所見は。
知事:福島第一原子力発電所事故を踏まえた新しい安全基準を出されたという意味では、福井県なども前々から強く要請していたところですので、一歩前進はしたのかなと思っております。
 ただ、その安全基準が、原子力安全・保安院が策定した後、誰かによってチェックされているのだろうかということになると、国の原子力安全委員会にかけたというような話は私ども聞いていませんので、原子力安全・保安院が策定したからそれで十分なのだろうかということは誰しも考えることではないかと思います。
 そういった点で、福井県のほうでも、自分の県の安全対策委員会といったところで十分に議論したい、検証したいということを言っておられるのではないかと思います。
知事:原子力安全・保安院がつくったからそれに沿っていればいいということには必ずしもならないのだろうと思います。国としても、これまで必ず原子力安全委員会の意見を聞くというようなことをやってきていると思いますので、そういったことがまだ十分になされていないのであれば、県のレベルでやっていくということは大変重要なことではないかと思います。
 そして、きちんと安全性が確保できるだろうということを検証できたら、県議会や地元の市町村、あるいはまた県民の方々のご意見を聞いていくということがとるべき方向ではないかと考えております。
東京:東海第二の再稼働中止と廃炉の署名が今回で3回目で、計17万人、県民のみならず、近隣の都県の方々の署名もかなりあると聞いているのですが、知事はその署名を受け取られて、どのように感じられますか。
知事:県民と県民以外の方がどのくらいの割合なのか、私はまだ報告を受けておりませんが、いずれにしても、私どもとしては、そういう声について、これから東海第二発電所について何らかの決定をしていくときには十分に参考にさせていただかなくてはいけないと思っています。
茨城新聞:発足が遅れている原子力規制庁のことでお聞きしますが、県の地域防災計画の策定とか東海第二原発の再稼働の今後の検討について支障が出ているのか、逆に支障が出るような懸念がされているのかとか。
知事:原子力規制庁が発足した後やっていくとされていることが幾つかあるわけです。例えば、我々が一番関心を持っていますのは、UPZ(緊急時防護措置を準備する区域)の範囲内でどういう措置をとらなければいけないのか、それがまだ全然示されていないわけですので、そこが示されてこないと、避難計画をどこまで立てればいいのかとか、肝心なことが何も詰められないのです。ですから、 30キロメートルの圏内は全て講ずべき措置が同じだと言うのか、30キロの圏中でも、そうは言っても、そこまでではないのではないかとか、さらには、地元というのは、10キロメートルだというような新聞記事もかつてありましたが、そういう具体的な何らかの方針がきちんと示されてくるという状況にならないと、県のほうで地域防災計画(原子力災害対策編)をつくれないので、原子力規制庁の発足が遅れているということは、いろいろな面で弊害をもたらすのではないかと思っています。
茨城新聞:県庁やオフサイトセンターが30キロ圏に入っているということで、代替機能が問題になってくると思うのですが、県として具体的に代替施設の検討はされていますか。
知事:UPZの中で、20キロ圏内は危ないから、国がそこに県庁機能を置くべきではない、もっと遠くへ置けという話になるのか、また、東海第二発電所が稼働するか、稼働しないかということによっても(検討の)結果が違ってくると思っていますので、(国の)方針が出ないと、県庁がここでいいのかどうか、いざというときに県庁の機能をここに置けるのかどうかということについて、(県としての)方向を示せないと思います。
 そういった点も含めて、(原子力)規制庁のほうで早くいろいろなことを決められ、そして、それに合わせて、それぞれの原発について再稼働するのか、しないのかということを決定していかれる必要があるのだろうと思います。
読売新聞:原発の再稼働の話では、大阪の橋下市長さんなどが、工程表を示してほしい、廃炉基準を示してほしいと盛んに言われていますが、知事は工程表または廃炉基準についてはどのようにお考えですか。
知事:工程表を示すといっても、それぞれの原発によって(置かれた条件が)違うのだろうと思うのです。私は前々から申し上げておりますように、全原発廃炉というのではなくて、国として安全性が確保できると考え、しかも地元の同意が得られるところについては原発による発電を維持していってもいいのではないかと思っていますので、それぞれ、どの様に決めていくのか、それが先なのではないかと思います。
 どの原発をやめて、どの原発は維持していく、あるいは、今、(建設に)取りかかっている原発も幾つかあります。もう間もなく出来上がるものもあります。そういったものなどは新しい基準に基づいて、しかも、多分、安全性が高い工法で(建設が)なされている。そういったことで新しい原発を進めていくのも一つの方法でしょうし、そのかわりに、古い原発についてはできるだけ廃炉という方向を目指していくというのも一つの方向だろうと思っていますので、そういうことについてトータルな議論をしていく。これからの日本のエネルギー政策をどうするかによって、それに基づいた原発の扱いをきちんとさせていくことが必要だろうと思います。
知事:その前提として、(原発の)安全性の確認があるのだろうと思います。安全だということを政府として確信できるもの、地震とか津波とかいう今回の大災害などを考えても、まず大丈夫だろうというようなところで、その上で初めて地元の住民の方々がどう考えるかということになってくるのだろうと思います。
読売新聞:東海第二原発の中にも使用済核燃料が残されていて、核燃料サイクル再処理工場の是非についてもかなり意見が交わされているのですが、再処理するという核燃料サイクルは今は全量再処理が方針になっていますが、今回の事故を受けて、核燃料サイクルについては。
知事:再処理をどうするかということもありますが、私は、高濃度の放射性廃棄物、まだ(液体で)ガラス固化体にされていないもの、これについてはできるだけ早くガラス固化体に加工していくべきだろうということだけは間違いなく言えると思います。
 それ以外に、再処理施設をどうするか、青森のほうもどうするかわかりませんが、国内に使用済核燃料があるわけですから、これについての再処理を進めなければどうなるのだということも含めて、そこは考えていく必要があるだろうと思います。
読売新聞:再処理工場にはたくさん廃液が残っていて、バックチェックの関係から、ガラス固化の作業自体が止まってしまっているようなのですが、できればそれは早めに動かしたほうがいいという感じですか。
知事:そうですね。危険性から言えば(液体の方が)高いかもしれない状況で今まできてしまっているので、それをできるだけガラス固化体に変換していくことが必要だろうと思っております。
茨城新聞:国民保護法に基づく県内の避難施設のデータベース化事業の結果がまとまったようで、東海第二のUPZ圏の30キロ圏、100万人を県内で収容できる状況にあるのか、知事のお考えをお聞きいたします。
知事:今日の茨城新聞の記事にも載っていたけれども、1人当たり何平方メートルと考えるかによって全く違ってしまうものですから、何とも答えようがないのですが、国のほうから示されている(目安としている)基準2平方メートルであれば何とかなるかもしれないし、それが先般の体験からして、4平方メートルぐらい必要であろうということになれば、間違いなく不足していることになると思います。
 ただ、避難施設を長期のものと考えるのか、短期のものと考えるのか、当面、二、三日そこへ避難して、それからまた本格的に別な場所へ移っていくということであれば2平方メートルでいいのかもしれませんが、そういったことも含めてもう少し検討していく必要があるのだろうと思います。
茨城新聞:今のまさに1人当たりのスペースが非常に大事な数字になるかと思うのですが、2平方メートルというのは畳1畳分ぐらいしかないですし、実際、福島に関しては、県内で受け入れるときには、通路とか、あるいは支援物資の荷さばきとか考えて4平方メートル当たりが適当だろうという話もありますが、知事は今回の震災の経験を踏まえて、計画を立案するに当たりましては、1人当たりの避難所のスペースというのは何平方メートルぐらいが適当だと思いますか。
知事:いや、そこはまだ私自身勉強していないので、何とも答えようがありませんが、逆に、スペース的に言うと、今回の調査の中には、つくば国際会議場、今回の大震災で避難所として随分活用させてもらったのですが、そういったところが入っていないということもありますから、もう少し詳しくチェックしていく必要があると思います。
茨城新聞:既に島根原発の立地県の島根県は、隣県の中国地方の都道府県に、体育館であれば2平方メートル、公民館であれば3平方メートル当たりの応援を要請していて、避難施設を隣県を含めて確保する動きということで、隣の県その他に協力を求める動きをもう既に始めて、一応確保をしているという先行事例がありますが、知事はそういうふうな隣県に協力を求めるお考えというのはないのでしょうか。
知事:先ほど来言っていますように、UPZの中で講ずべき措置というのがどうなってくるのか(今のところ)わからないのです。それが仮に全員避難を前提につくりなさいということなのか、その辺がはっきりしてこないと対策の立てようがないし、それから、もう一つは、8月の段階で定期検査が終わってくるわけですが、その後、東海第二発電所を再稼動させるのか、させないのかによっても(避難に)大きく影響してくると思いますので、その辺は、若干、時間をもらって対応していきたいと思っています。
茨城新聞:避難するに当たっての移動手段なのですが、本県の現在の計画は、本県独自に、バスだけではなくてマイカー避難を位置づけているかと思うのですが、福島の事故の場合には、マイカー避難で非常に道路の渋滞を招いたということで、一つ問題ありということが出てきているわけなのですが、今後、改定するに当たって、移動手段に当たっては、マイカー避難というのを同様に位置づけるおつもりでしょうか。それとも、今回の経験を踏まえて、新たな考えという形をお持ちなのでしょうか。
知事:渋滞を招いたということをおっしゃられますが、それではバスでやったら何時間かかったのだろうか、どっちが早かったのかということをきちんと見極める必要があると思います。(福島の)あの地域では、ある程度のバス(の台数)が揃えば何とかバスで移動もできたのかもしれませんが、バスでピストン(輸送)をやらせたり、あるいは、夜中に、急遽、もうみんなが寝ているときに事故が起きたとしたら、運転手さんがバス会社まで行ってバスを引っ張り出してきて迎えに行かなくてはいけないわけであります。また、(県内に)24万人を輸送できるバスがあるという中には、例えば、古河とか波崎のほうのバスもあるわけです。そういうことを考えたら、どちらが早いかということで、我々としては、より迅速に避難ができる方法を選んでいく必要があるだろうと思っています。
茨城新聞:その中ではマイカー避難も有効だというお考えに変わりはないということですか。
知事:多分、有効だと思います。検証しなくてはわかりませんが、バスを全部集めてやるよりは、マイカーも使うという形のほうが早いと思います。仮に渋滞がある程度あったとしても。
 それと、もう一つは、今回の場合、(自家用車の)高速利用というところが最初進まなかったので大変だったのですが、高速が利用できれば自家用車の避難というのは早くできます。そういったことも考えていく必要があるのだろうと思います。
茨城新聞:先ほどからのお話を聞いておりますと、県の新しい原子力防災計画の策定作業というのは、国のほうからUPZの中で講じるべき措置が示されないとそれにはなかなか着手できないということなのでしょうか。
知事:そうですね。それは国で(UPZを)30キロと決めてきたわけですので、その中で何をやるべきかということについてもきちんと示していく責任があるのだろうと思います。
茨城新聞:それが示されないと県は作業に入れないということですか。
知事:私がいつも言っていますように、(原子力発電所から)6キロのところと31キロのところと同じ対応ができる体制をつくっておくのかということなども含めて、これからきちんと考え方を(国から)示してもらわないと困るのではないかなと思います。
日本テレビ:その関連で、今回の防災指針で、同心円で、PAZ、UPZ。それはアメリカもIAEAの新しい国際基準を踏まえて、同心円でPAZについていかに早く避難させるかということと、自家用車での相乗りでの避難ということが最優先ということで考えているのです。それが原則論で、そこのところで、安全以外の説明不足のところがあるので、なぜ同心円かという部分、今回、水蒸気爆発を見込みますと、強風でない限りは、同心円に爆風で放射性物質が飛ぶので、だからPAZなのです。水蒸気爆発を想定しているので。
 そこのところを専門家等の意見もあるので、きちんと踏まえたわかりやすい説明、UPZも、隔離性のある、健康リスク、発がんリスクを想定する場所としているので、その30キロ先でマックスとなっています。今後、規制庁になった場合には、食糧制限の範囲のところも検討はすることになっているので、相当な説明不足、議論不足のところがあるので、そこは県のほうからわかりやすい説明というのが必要だと思うのですが、その辺どうですか。
知事:我々もまさに今おっしゃられたようなことをきちんと説明してもらわないと困ると思っています。(UPZが)30キロということだけ示しても、そこで何をやればいいのか、また、健康不安などについてきちんとチェックする体制(をつくる)だけでいいのか、30キロまで全部が避難できる体制をつくっておくべきだということなのか。ましてや、茨城県の東海第二発電所の場合に、再稼働するのか、あるいはやめるのかもはっきりしていません。こういうときに、稼動していない原発の場合どうするかなども含めてきちんとした方針を示していくべきだと思います。
 いずれにしても、国は一番原子力に関しての知見を持っているわけですので、そこから示してもらうことが適当ではないかと思います。
日本テレビ:福島原発は廃炉にするようですが、一方で、脱原発の案にしろ、原子力の研究開発の安全研究を含めて、廃炉にしても技術者が確保されなければ安全は維持できません。使用済燃料は残っているわけなので、そういう意味で、原子力機構をどういうふうなビジョンになるかということだと思うのです。県としてもう少しイニシアチブをとって、原子力機構自身を、国内で唯一の研究開発機関なので、どう生かしていくかというか、組織をどういうふうにしていくかというのは県のビジョンにあってもいいと思うのですが、その辺はどうでしょうか。
知事:私は、そういう(安全を維持するという)意味で、原発の研究者、技術者というものをこれからも確保していくことは不可欠なのだろうと思っております。
 そういう点で、大分(原子力関連の学科や専攻の)志願者が減ってきてしまっているのは残念に思っているのですが、これから、例えば、原発を産業として輸出していくという問題などもあるわけです。そういう場合に、国内に技術者がいないということは輸出だけして無責任だということになってきますので、そういうことも含めて減原発ということを言っているわけでして、(原発を)全部やめるのか、あるいは一部残していくのか、十分な検討が必要だろうと思っています。
 また、それとあわせて、最先端の研究、特に(使用済燃料の)再処理等についてしっかりした体制をつくっていくことが、世界に対してのある意味の責任にもなってくるのではないかと思っています。
 ただ、そこについて、県が何か言うかというよりは、国として当然考えてしかるべき問題だろうと思っています。我々としても、今申し上げたようなことについて、何かの機会にいろいろ働きかけすることはやぶさかではありませんが、それは国のほうで当然考えていかなくてはいけない課題だと思います。
日本テレビ:技術者を育てるためには、原子炉をつくっていかないと。実際問題、実際につくっていく過程での技術力を維持するという、それが必要なので、小さなものを含めて試験研究をつくっていく。技術者の育成でそこが非常に重要だというような専門家の意見が大きいのですが、そういう部分というのは、県内でも国内でも、高温ガス炉の建設が最後で、もう二十数年経っていて、実際に原発関連メーカー、日立製作所ですが、修理を含めて、部品は売り物なので、なかなか部品さえもつくるのが困難だという話も現実にあります。
 そういう部分で、安全を維持するためには、技術者を維持するためには、一方では、小さい試験研究炉をつくって技術者を育てるということが非常に大事だと思うのですが、その辺のところの知事のご所見はどうですか。
知事:高温ガス炉を研究していくということと現在の原発の安全性を守るための研究というのは、仕組みが違いますので、必ずしも一致するものではないと思います。
 ただ、何らかの形で研究者、技術者を維持していくことは必要です。これについては、小型(試験研究炉をつくって技術者を育てるということ)でいいのか、私が申し上げているのはそれとは少し違うので、安全性というものを確保でき、地元の方々に納得していただけるのであれば、国内(の原発を)全部廃止する必要はないのではないか。それは先ほど申し上げたような点を含めて、減原発という方向がいいのではないかと思っております。
 ですから、ある程度、現地での発電というもの、100万キロワット、150万キロワットという形で、安全であれば、それを進めていくことによって、技術者、研究者というものもきちんと継続して育てていけるのではないかと思っております。