船上で治療が可能に、米中ロなどが所有
被災地に派遣し救援活動の拠点に

参考写真
 大地震などの大規模災害時に、被災現場の沖合に派遣して負傷者の治療などに当たる「災害時多目的船」への関心が高まっています。
 東日本大震災では、津波による壊滅的な被害で、被災地の医療体制は“マヒ”状態に陥りました。
 岩手、宮城、福島3県380病院のうち、全壊または一部損壊した病院は約8割の300病院に達しました【表参照】。参考写真道路網の寸断などによって患者や医薬品の搬送も困難になり、人工透析患者などの災害弱者への対応が後手に回ったり、高齢者が避難所で体調を崩して亡くなったりするケースも相次ぎ、多くの課題を突き付けられる形となりました。
 こうした中で今、注目を集めているのが「災害時多目的船」です。多目的船は、諸外国では「病院船」と言われている船舶で、米国や中国、ロシアの海軍などが所有しています。これらの船舶には、手術室や病室はもちろん、ヘリポートなどが備えられており、災害で陸路が寸断された場合でも、船上で治療や手術などを行うことができるようになっています。
 特に米国は、2隻の病院船「マーシー」と「コンフォート」を運用しており、世界規模で実施される災害救援活動などで活躍してきたことが知られています。
 例えば、12の手術室と1000床の病床を確保しているマーシー(上の写真)は、2004年12月に起きたインドネシア・スマトラ島沖地震でインドネシアなどに派遣され、5カ月間にわたる活動で10万7000人以上を治療し、466人の手術を行った実績があります。
 日本は、こうした多目的船を所有していません。かつて1995年の阪神・淡路大震災を機に検討されたこともありましたが、海上保安庁の船舶が医療機能を備えることを理由に、導入が見送られた経緯もあります。
 しかし、今回の東日本大震災では、そうした海上保安庁の船舶が、十分に医療機能を発揮できたとは言い難く、災害時多目的船の導入を望む声が、改めて大きくなっています。
公明党プロジェクトチーム発足し、議論を加速
 防災・減災対策に取り組む公明党は、災害時多目的船の導入に向け全力を挙げています。
 2011年5月26日に発表した「東日本大震災復旧復興ビジョン」に「病院船の導入」を明記。この公明党提言を反映した形で、11年度第3次補正予算には、多目的船導入の調査・検討のための費用として3000万円が計上され、内閣府に有識者検討会が設置されました。
 さらに公明党は、国会質問などで政府に導入を重ねて要求したほか、先月には、党内に災害時多目的船検討プロジェクトチーム(PT、座長=木庭健太郎参院幹事長)を発足させ、導入と運用の在り方への議論を加速させています。
 首都直下地震や東海、東南海、南海3連動地震への懸念も高まる中、災害時多目的船の一刻も早い実現が待ち望まれています。
船舶による「医療機能の充実を」と方向性、有識者検討会が報告書
 災害時多目的船の導入に向けた可能性を探るために、内閣府に設置された有識者検討会は3月、検討結果をまとめた報告書を発表しました。そこでは、災害時多目的船を含めた海からの災害支援の必要性や課題について論点が整理されています。
 報告書ではまず、東日本大震災の教訓を踏まえ、日本が「防災先進国」「海洋国家」の視点に立ち、海からの災害支援も含めた防災施策を検討していくことが重要だと指摘しています。
 さらに、船舶を活用した災害支援に期待される役割を分析し、他の手段よりも移動範囲や輸送能力などで利点がある点を評価し、船舶による「医療機能の充実を図るべき」との方向性を明示しました。
 一方で、報告書は、災害時多目的船が医療機能を発揮するために乗り越えなければならない課題を、さまざま挙げています。
 例えば、海からの災害対応を効果的に行うためには、陸地側やヘリなどを使った空との連携が必須だが、そのための運営の制度検討や事前準備、教育・訓練などが必要になると強調しています。
 乗船する医療スタッフについては、相当数の人員が必要になることを重視し、「(自衛隊といった)官のみで必要な要員を確保することは難しい」と言及しています。
 さらに、災害時だけでなく平時の活用策も検討しなければならないとして、(1)離島や遠隔地等への巡回支援(2)国内外での防災意識の啓発教育(3)海外における災害対応や国際貢献―などを想定しています。
 こうした論点を踏まえた上で、報告書は、船舶による医療機能の強化に関して、実現に向けた方策を「早急に決めるべき」とし、さらに検討を深めていく必要があると結論付けています。
参考:災害時多目的船に関する検討会