
有機ヒ素に汚染された井戸水を飲んだ茨城県神栖市の住民39人は、健康被害を受けたとして国と県に計約1億円の損害賠償と原因究明を求めた裁定。国の公害等調整委員会は、必要な調査や周知をしなかったとして、県に対して、因果関係がみられる37人に一人当たり5万〜300万円、計約2800万円の賠償を命じました。公害等調整委員会が自治体の責任を認めたのは初めてのケースです。旧日本軍が製造した可能性が高いと言われる原因物質ですが、なぜか、国の責任は認めませんでした。
住民の健康被害が顕在化したのは2003年3月。3月17日に、筑波大学附属病院から潮来保健所に「神栖町の住民が手足のしびれ、ふるえ等の症状を訴えているので、井戸水の検査をしてほしい」との依頼があったのが発端です。原因の井戸水を使用していた住民は、12世帯(33人)と判明で、その内体調不良者18人との報告がありました。3月20日には、県衛生研究所で、当該井戸水の水質検査を実施した結果、基準値を超える高濃度のヒ素が検出されました。ヒ素の値:4.5mg/リットルで基準値の450倍にも及んでいました。井手よしひろ県議らは、いち早く20日、公明党県議会として関係部門より第1回ヒアリングを実施しました。

今回の裁定で県の責任が問われた要因は、これより4年前の1999年に、付近の井戸水から高濃度のヒ素を検出したにもかかわらず、水質汚濁防止法に基づく十分な調査や住民への告知をしなかったことが重要視されたためです。
5月11日、県生活環境部の大部好広次長らが記者会見しました。説明によると、1999年に民間企業の寮の井戸水から環境基準値の45倍のヒ素が検出された際、県は対策指導要領に基づき、半径約100メートル以内にある他の井戸などを調査しました。しかし、ヒ素が検出されなかったため、寮の井戸水のヒ素を「自然由来」と判断した経緯があります。大部次長は「高濃度のヒ素が検出された井戸水は飲まないよう伝えた。他は検出されなかったので、周知はなかなか難しかった」と述べました。さらに「当時は原因が見当たらず、県内では45倍以上のヒ素を検出した井戸もあった。自然由来との判断は、大きな間違いとは言えない」と釈明しました。
公害等調整委員会は、こうした県の対応について、「汚染を把握しながら周辺住民に知らせず、原因究明も進めなかった」と県の責任を認めました。その上で、県の対応の違法性を認め、住民1人あたり最高300万円、総額2826万円の慰謝料を支払うよう県に命じたわけです。
1999年当時の県の対応は、確かに不十分であったと言わざるを得ません。2003年当時、4年前にこうしたヒ素の検出事例があったことは、私ども公明党の調査でも一度も説明された事はありませんでした。さらに、そのヒ素を徹底的に調査し、自然界に存在しない「ジフェニルアルシン酸」であったことを解明できていれば、子供の健康被害は未然に防げたはずです。
5月12日付けの読売新聞は「『大丈夫だろう』で済ませてしまった県の対応の甘さが厳しく指摘された」との解説を掲載しました。まさに、その通りだと思います。
県は、裁定に不服がある場合は、30日以内に地方裁判所に民事提訴することができます。
(写真上:健康被害が発生した井戸があった住宅、写真下:現地調査を行う石井啓一衆議院議員ら公明党議員団、撮影はいずれも2003年4月21日)
茨城・神栖のヒ素汚染:「全く周知せず」県の怠慢、認定 公害調整委、賠償命じる
毎日新聞(2012年05月12日)
茨城県神栖市の住民ら39人が有機ヒ素化合物に汚染された井戸水で健康被害を受けたとして、国と県に1人当たり300万円の損害賠償を求めていた事案で、公害等調整委員会は11日、県の法的責任を認め、37人に対して1人当たり5万300万円、計2826万円を支払うよう命じる責任裁定を下した。裁定は「県が高濃度のヒ素汚染を知りながら、周辺住民に全く周知しなかったことは著しく不合理」とした。公害等調整委によると、住民の健康被害で行政側の責任を認めた裁定は初めてという。
裁定を申請していたのは、99年1月に神栖町(現神栖市)の会社寮の井戸から環境基準の45倍のヒ素が検出された際、周辺に住んでいた37人とその後に生まれた子供2人。国は旧日本軍が製造したヒ素化合物の保管を怠り、県は適切な水質調査と公表をしなかったため、目まいなど中枢神経に被害が出たと主張した。
裁定は、水質汚染調査と公表をめぐる県の権限は「看過できない汚染が発見された場合に追加調査することは当然で、速やかに地域住民に周知する義務がある」と指摘した。また会社周辺の井戸7カ所で終えた県調査を「安易に局所的な自然由来の現象と推測したことは許されない」とし、公表についても「周知しないという選択肢はない」と述べた。