47 東電福島第1原発は、東日本大震災による津波への備えが不十分だったことから全電源が喪失し、メルトダウン(炉心溶融)という過酷事故を引き起こしてしまいました。
 これまでの日本の原子力の安全規制は、内閣府に置かれている「原子力安全委員会」と、経済産業省内の「原子力安全・保安院」が“ダブルチェック”で担当し、厳しい安全対策が敷かれているはずでした。しかし、今回の原発事故は、その規制や審査の甘さを露呈させる形となりました。
 問題の背景には、規制組織の「独立性」が低かったことが指摘されています。
参考写真 そもそも保安院が置かれている経済産業省は、原発推進のアクセルを踏んできた資源エネルギー庁をはじめ原発を推進する側の他なりません【イラスト(上)】。さらに資源エネルギー庁との人事交流も頻繁に行われてきたこともあり、結果的に津波への過小評価など、規制がおろそかにされてしまったといえます。
 米国など諸外国では、客観的な規制ができるよう、原発の推進と規制の分離が進んでいます。国際原子力機関(IAEA)は、今回の原発事故前の2007年、すでに日本の規制体制の独立性を問題視し、日本に勧告しましたが、抜本的な対策が取られないまま事故を招いてしまいました。
 また、原発事故の初動対応でも、不手際が浮き彫りとなっています。
 原子力災害が起きた場合、安全委は首相を本部長とする原子力災害対策本部に技術的な助言をするのが役割です。
 しかし、今回の原発事故では、菅直人首相(当時)による過剰な現場への介入が行われる中で、適切な助言役を果たせず、海水注入問題などをめぐり対応が混乱しました。
 保安院の寺坂信昭院長(当時)も、事故後に首相官邸を離れた後、官邸との電話のやりとりが「数回程度だった」(国会事故調査委員会での発言)と認め、政府と保安院との連携不足を明らかにしています。
 現行の安全規制に対する信頼は大きく損なわれてしまっています。
 今月5日には、北海道電力の泊原発3号機が停止し、稼働している原発は「ゼロ」になりました。一部の自治体からは、原発の再稼働の条件の一つとして、現行の規制組織ではなく、新しい規制組織の発足を求める声も上がっています。
 東日本大震災の教訓を生かし、独立性の高い、安全性を最優先にした規制体制をどう再構築していくかが焦点です。
自公案は独立性確保/不十分な政府案 政治介入を招く恐れも
 新しい原子力の安全規制組織について、政府は1月末、安全規制を一元的に管理するための「原子力規制庁設置法案」を国会に提出しました。
 政府案は、原子力安全委員会や原子力安全・保安院などを「原子力規制庁」に統合。環境省の外局として設置するという内容です。
参考写真 しかし、これでも、規制組織としては、まだ独立性が不十分だと言わざるを得ません。政府案の規制庁の長官は、環境相が任命し、予算も環境省が要求するため、政府のエネルギー政策の影響を受けたり、“政治介入”を招く恐れが拭えないからです【イラスト(下)】。
 一方、公明党は原発事故の直後から、原発の安全規制の徹底した見直しを提唱。安全規制の強化のため、政府からの独立性の高い規制組織を主張してきた。4月20日には、政府案への対案として、自民党とともに「原子力規制委員会設置法案」(議員立法)を衆院に共同提出しています。
 自公案は、公正取引委員会のような国家行政組織法3条に基づく規制委員会の下に、従来の規制組織を一元化。その事務局として「規制庁」を設置するものとし、高い独立性を確保できるのが特徴です。また、規制委員は国会の同意を得て首相が任命。規制庁の人事権や予算は規制委が持つとれています。
 新たな規制組織の発足が急がれています。公明党の井上義久幹事長は「自公案を軸に合意を図るべきだ」(11日)との考えを表明しています。与党は早急に方針を明確にし、早期の審議入りと成立に努力するべきです。