9月14日、政府は関係閣僚による会議を開き、2030年代に原子力発電所の稼働ゼロを可能とするよう取り組むとともに、使用済み核燃料の再処理事業は続けるなどとすることを正式に決定しました。
 この新たなエネルギー政策によると、「原発に依存しない社会の1日も早い実現」を掲げ、「2030年代に原発稼働ゼロを可能とするようあらゆる政策資源を投入する」と明記し、太陽光や風力など「グリーンエネルギー」の普及拡大を図るとしています。
政府の新エネルギー政策の概要
  • 2030年代の「原発ゼロ」を目指す

  • 原子力規制委員会が安全を確認した原発は「重要電源」として再稼働させる

  • 運転開始から40年たった原発は廃炉にすることを徹底

  • 「核燃料サイクル政策」の見直しは先送り。関連施設が立地している地域は使用済み核燃料の最終処分場にしない

  • 高速増殖炉「もんじゅ」は研究炉に転換する。年限を区切って計画を実行し、成果を確認して終了

  • 青森県六ケ所村で建設中の再処理工場の存廃の判断は先送り

参考写真 具体的には原発の運転を開始から40年に制限するとともに、原発の新設や増設は行わないとしています。その上で、稼動が許された間は、原子力規制委員会が安全性を確認した原発は「重要電源」と位置づけ、運転を再開するとしています。
 一方で、核燃料サイクルについて、使用済み核燃料の再処理工場などがある青森県を最終処分地とせず引き続き再処理事業に取り組むとともに、国際社会に対し核不拡散と原子力の平和的利用の責務を果たしていくとしています。
 さらに、高速増殖炉「もんじゅ」については、これまでの成果を取りまとめるとともに、放射性廃棄物の減量化などを目指した研究を行い、その成果が確認されれば研究を終了するとしています。
 また、原発ゼロによる電力不足を補うため、政府は新しいエネルギー政策の実施に向けて「グリーンエネルギー」の普及拡大を図るための具体策などを引き続き検討することにしています。
使用済み核燃料が行き場失う可能性も
 この原発ゼロ方針の一番の課題は、核燃料サイクル政策を放棄することになるために、使用済み積み燃料をどのように処理するかという難題です。政府はこの判断を先送りしました。
 日本では、原発から出る使用済み核燃料をすべて再処理し、再び燃料として利用する核燃料サイクルを進めていました。使用済み燃料は原発内のプールに移して一定期間保管したあと、青森県六ヶ所村の再処理工場などに搬出することになっています。
 ところが、再処理工場の本格運転が大幅に遅れていることで、各地の原発のプールには行き場のない使用済み燃料がたまり続けています。
 NHKの報道によると、原子力発電所内に一時保管されている使用済み燃料は2012年8月末現在、合計1万4400トンに達しています。これは、全国で貯蔵可能な量の70%に上り、新潟県の柏崎刈羽原発では83%、佐賀県の玄海原発では82%に達しているとのことです。これらの原発では、今後、施設の外に搬出できないまま運転すれば、あと2年程度でプールがいっぱいになる計算です。
 一時保管のためのプールがいっぱいになれば燃料の交換ができなくなり、結果的に原発の運転もできなくなります。
 今までは、青森県が国の原子力政策に協力し、再処理工場をはじめ核燃料サイクル関連施設を受け入れてきました。しかし、平成10年には「再処理事業が著しく困難になった場合、使用済み燃料を施設外に搬出する」という覚え書きを事業者と交わしています。すなわち、核燃料サイクル計画が破綻した際には、青森県の施設で保管されている使用積み核燃料は、元の原発に送り返されるということです。
 現に9月7日、青森県六ヶ所村村議会は、国が再処理の撤退を決めた場合、使用済み燃料の運び込みを認めないとなどする意見書を全会一致で採択しました。
原発立地自治体への影響どう緩和するかも大きな課題
 原子力発電所が立地する自治体には、電気料金に上乗せして徴収される税金から、毎年、合わせておよそ1000億円の交付金が支払われています。電力会社も原発1基当たり数十億円の固定資産税を納めています。
 同じくNHK報道によると、原発や関連施設のある全国44の自治体が受け取った交付金や税収などの総額は、原発の運転が始まった昭和40年代からこれまでに少なくとも3兆1120億円に上っています。
 こうした自治体の財政に加えて立地地域では多くの企業が原発関連の仕事に携わっていて、宿泊施設や飲食店などのサービス業はじめ、地域経済の大半が原発に依存していルのも事実です。
 こうしたなかで、今回、政府が決めた方針で運転を40年に制限する原則を適用した場合、国内の50基の原発のうち17基が10年以内に廃止になる計算です。 
 例えば、福井県美浜町は、町内ある3基の原発すべてが4年後に廃止になる可能性があり、今の制度では交付金が入らなくなるため、地域経済の影響は大きいものがあります。
 このため、福井県などが運転を止めたあとについても、廃炉が完了するまで交付金を継続すべきだと求めていますが、政府は具体的な対策を示していません。
 一方、立地自治体の中には、事故のあと脱原発の方針を打ち出した福島県や茨城県東海村のように原発に依存しない地域づくりを検討し始めたところもありますが、多くの自治体は、政府の対応を見守っている状況です。
 現実に立地地域の構造転換を図るには新たな産業の誘致など、長い時間と多くの費用が必要で、一朝一夕では進みません。
 原発ゼロの実現には、交付金に替わる新たな財政支援の在り方や、地域経済の構造転換についても具体的な道筋を示すことが求められます。
そもそもレイムダック状態の野田政権に、新たなエネルギー政策は決められない
 公明党は次期衆院選の基本政策の一つに「原発ゼロの日本社会を目指す」ことを掲げています。その意味では、今回の政府の方針は概ね是とするものであると考えます。しかし、核燃料サイクルが破綻するわけですから使用積み燃料処理にも、今一歩踏み込んだ政策を提示する必要があると考えます。原発立地地域の支援策も具体化しなくては、今まで国の政策の協力していた地域の住民の不安と不満は高まる一方です。
 なぜ、野田政権はこの時期の新たなエネルギー政策の決定にこだわったのか。「再稼動反対」との世論を意識した、選挙目当ての判断としか言いようがありません。来るべき総選挙に、各党が新たなエネルギー戦略を出し合って、国民にその選択を委ねるべきです。レイムダック状態の野田政権に、新たなエネルギー政策を決める資格はありません。
(40年ルールを適用した場合の原発は色の進み方は、2012/9/15付け朝日新聞の資料を基に、ブログ管理者が作表したものです)